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第四十二話 『大オークション』三日目 その6

 混沌としたオークション会場。

 この状況はチュルラが特殊型魔法を発動するのに厳しい状況だった。


 チュルラが【偽誤認識】を使用するためには周囲に認識させたい人物の死体を自身の二メートル以内に置いておく必要がある。

 それは多くの衆目があり、開けているこの場所では相当に困難である。


 だが、今この会場には白い煙が漂っている。左右は勿論、足元にも何があるか分からない。

 ――死体があっても、分からない。


 カンパネギアがチュルラに連絡をした時点で、彼はその役割を把握していた。

 

 煙が充満するこの空間ならば、敵を殺しても敵を地面に倒しても気付かれる可能性は大幅に下がる。

 チュルラがすべきことはカンパネギアを彼女が殺した敵へと認識させることだ。そうすることで次に煙が晴れた時、彼女は敵に警戒されることなく周囲に溶け込むことができ、いつでも殺せるようになる。


 そしてカンパネギアが狙っているのはサイカ。

 さきほどの機転や洞察力は周囲の冒険者と騎士も把握済み、今の状況であればサイカが最も共闘する相手としての信頼が厚い。

【偽誤認識】として認識されるにはうってつけの人材である。


 煙に紛れて、サイカを殺害。その後【偽誤認識】によってサイカと周囲に認識されるようになったカンパネギアが警戒心の薄れた冒険者や騎士を殺害する。


 チュルラがこの煙の中他の冒険者や騎士たちを掻い潜りながらカンパネギアの元に辿り着けるかという疑問があるが、それについては問題ない。

 違法魔具、感知端末サーチ・マテリアル

 登録した魔力を探知し、場所を示すブレスレット型の魔具。

 国の承諾を得ずに裏社会で秘密裏に開発が進められ、一つ製造するのにとんでもない開発費が掛かるというあまりにも実用的ではないものだ。

 【ノーネーム】がこの魔具を奪う段階で開発者が全て殺害されたため改良の余地はもう無い。また、この魔具自体の数は【ノーネーム】が所持している分で全て。

 兎にも角にもこれでチュルラはカンパネギアの場所を特定可能なのである。


 加えて、チュルラが冒険者や騎士たちの網を掻い潜れるかどうかに関しては、腐ってもチュルラは【ノーネーム】所属。彼は組織の中で最も戦闘能力が低いがこの煙の中敵から発見されずにカンパネギアの元に行く程度は造作もない。

 故に、盤石。

 これがカンパネギアとチュルラの作戦。互いの魔法を把握、理解し長年一緒に行動してきた彼らは、特に言葉を必要とすることも無くソレを共有した。


 ――だが、これはカンパネギアがサイカを発見することが大前提。


 うん、大丈夫。問題ないわ。


 当のカンパネギアは確信していた。自分がサイカを発見できることを。


 ――否。


「ははっ」

「はっ!」


 サイカが自分に向かい攻撃を繰り出すことを、彼女は確信していた。


 やっぱり、想定通り。このメイドは私から逃げられないと理解している。だからこの煙幕は私の目をくらませるためだけじゃない。私の目をくらませ……そしてその隙をついて私を殺すため!


 この煙幕はサイカがカンパネギアの位置を把握し、カンパネギアが滞空しているタイミングで放ったものである。

 つまり、サイカだけがこの状況下で円滑に冷静に即座に動くことができた。

 カンパネギアはそれを理解していたのだ。


 甘いわよ……!!


 そう、サイカには【一般通過運命】がある。これがある限り戦闘においてサイカに勝ち目は無い。透過され、カンパネギアに心臓を握りつぶされ仕舞しまいである。


「っ!!」


 その時である。サイカは足で強く地面を踏みつけ、瓦礫を空中へと浮上させた。

 

 敵が透過できる物体は一つのみ。つまり私のことを透過できたとしてもこの瓦礫を透過することはできない。私に攻撃は届かない。仮に瓦礫を無理やり貫通したとしても軌道は逸れる。


 これが、サイカの算段だった。

 

『違和感』


 が、ふとサイカの脳にソレがよぎる。先程も感じたはずの、ソレが。

 ――そして、それは正しかった。

 

 残念ね……。


 カンパネギアは憐みの情をほのかに抱く。そうして放たれた彼女の手刀は、滞空する瓦礫を透過し、カンパネギアの肉体をも透過した。


【一般通過運命】の例外事象。それは三つの条件をクリアすると発動する。

 一つ、カンパネギアが有機物を透過対象として定めていること。

 二つ、対象とした有機物との距離が二メートル以内であること。

 三つ、二つ目の条件の範囲内に幅二十センチ以内の無機物があること。


 ――以上の条件をクリアした時、カンパネギアは範囲内にある任意の無機物を透過する。


 サイカが抱いていた『違和感』の正体……それは透過する物体が一つにも関わらず、身に着けていた衣服も透過していたことである。


「が……ぁ……は」

「声も出せないでしょ? 周りの奴らに情報なんて残させないわよ」


 カンパネギアは追い打ちを掛けるようにサイカの心臓を抉り、潰した。最後の気力を振り絞り大声で叫ぶことなど、彼女はさせない。

 目から生気が失われ、サイカは力なく倒れこむ。胸部から大量の血が、地面を彩った。


「カンパネギア」

「チュルラ、終わったわ。早く」

「あぁ」


 感知端末でカンパネギアの位置に辿り着いたチュルラは、矢継ぎ早にサイカの死体に近付く。

 死体との位置は二メートル以内。【偽誤認識】の発動条件を満たしたチュルラは、魔法を発動しようとする。

 ……しかし、


「え」


 魔法が、発動しなかった。


「ちょっとチュルラ。何をやってるのよ」

「い、いや……発動しない。【偽誤認識】が」

「はぁ? そんなワケ無いでしょ。そいつは死んでてアンタと死体との距離も問題ない。発動しない道理が無いわ」

「俺もそう思うんだけど」


 不思議そうに呟くチュルラ。気だるそうに呟くその声には、徐々に焦りが見え始める。


 これはチュルラにとって今まで遭遇したことも無い、あり得ない異常事態だった。

 そしてそれは、


「ありがとうございます」

「「……は?」」


 更なる異常事態への入り口に過ぎなかった。


「な、何で……。い、一体どうなってるの……よ」


 カンパネギアは起こった事態の意味が理解できないでいた。

 無理もない。彼女も、隣にいるチュルラも、突然背後に立ったサイカに胸部を貫通させられたのだから。


「アンタ……の、死体は、そこに……」

 

 そう口に漏らすカンパネギアは、視線を下に向け、倒れるサイカの死体に目をやる。

 だがその死体は次の瞬間には一瞬にして煙のように消失した。


「な……」


 カンパネギアとチュルラは、驚きを隠せず目を見開く。


 分、身……!? じゃあ何、私が殺したと思ったコイツは……本物じゃなかったってこと……!?


「やはり『違和感』をそのままにしておかず、に任せて良かったです」


 サイカの特殊型魔法

明日の事は(フューチャー・)明日の私に任せよう(イン・ザ・パスト)】。

 端的に言えば、自分を作り出す魔法である。

 作り出した自分の能力値は本体であるサイカと遜色がない。肉体の構造も人間と同じであるため、死亡すらも偽装できる。加えて一度に作り出せる数に制限は無い。

 ただ一つ……自分の作成に関して条件があるが、ここでは割愛する。

 

「貴方の敗因は、透過に拘ったことです。確かに地中への透過と凄まじい浮上速度はこちらも驚かされました。ですが、敵を殺す際に、貴方は必ずあの魔法を使う。そうしなくとも強化魔法で腕を強化すれば、貴方であれば肉体を貫けるだろうに、貴方はそうしなかった。私が感じていたもう一つの『違和感』はそれです」


 サイカはそう所感を述べる。それは正しく正論であった。


「はぁ……ぁ……」

「我々のような人間は、人を殺すのに武器も特異な魔法も必要ありません。それは、貴方のような方でしたら重々理解していると思いますが……どうやら、そうではなかったようですね」


 カンパネギアの耳元で、サイカはそう呟く。いつもと変わらぬ無表情ではあるが、その目は間違いなく暗殺者のソレだった。


「はぁ……アンタ……こっち、側ね。ようやく、気付いたわ……。なら、また……会えるわねぇ。地獄、で」


 その言葉を言い残し、カンパネギアは絶命する。


「あー……ぁ。俺も、ここまでぇかぁ……」


 最後は、呆気ない。こんな、モンかぁ……。まぁ、今日までいっぱい騙して、いっぱい殺して、そんで……楽しい仲間と笑えたから……いいや。

 ごめんなぁ皆。後は、頼んだ……。


 酷く穏やかな心情で、同じく命を落とすチュルラ。しかし絶命する時のその表情は、酷く醜く殺人者として相応しいものであった。


「……」


 死した二人の死骸を眺めながら、サイカは呟く。


「地獄、ですか。見てみたいものですね」


 こうして『スワロウズドリーム』第一会場での死闘は幕を閉じた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』第一会場

→サイカ勝利。カンパネギア、チュルラ死亡。

『スワロウズドリーム』第二会場

→バーガンディ&ゾイ&フーガ、フィオネ交戦開始

 グラコス&ラエル、ムオー交戦開始

『スワロウズドリーム』地下

→ドミノを除いた【竜牙の息吹】、イルミ救出のために捜索中。


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