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第四十話 『大オークション』三日目 その4

『スワロウズドリーム』第二オークション会場、第一会場での戦闘開始から一分経過。


 魔剣が出品される第一会場で戦闘が開始されたが、その音は第二オークション会場内の客には届いていなかった。会場の壁は非常に分厚く防音性が高いからだ。そして外部の音が聞こえないのは運営側も同様である。

 しかし、運営側の者は魔水晶片マジック・ペンダントがあり外部と連絡を取ることが可能。

 オークションでの不正を防ぐために、外部との連絡手段を会場に持ち込んではいけないというルールの元、連絡用の魔具を回収されているオークション参加者とは違う。

 何も知らない本当の運営員には支給されていないが、運営員に成り代わっている【ノーネーム】のメンバーだけは魔水晶片を着用し、何かあればすぐに事態を把握できるようになっていた。


「さぁ、続いての品は……!!」


 そんな中つつがなく進行するオークション。

 その間……正確には第一会場での戦闘開始から十秒後の時点でフィオネとムオーにはある連絡があった。


『第一会場で乱戦発生。会場内の冒険者と騎士がこぞって俺たちに攻撃を始めた。そっちは任せる』


 第一会場にいるチュルラからの連絡があった。

 彼からの連絡は【ノーネーム】内の秘匿回線であり、他の運営員には届いていない。この第二会場で運営の人間に成り代わっているフィオネとムオーだけだ。


「「了解」」


 オークションを進行しているフィオネと、舞台袖で客席の動きを見ているムオーは短く小さな声でそう答える。


 ――任せた。

 チュルラからの言葉。その真意をフィオネとムオーの両者は違うことなく認識した。


「大変です!! 第一会場にいたオークション運営の者が別の第三者に化けていたことが判明しました!! 既にあちらでは乱戦が起きています!!」

『っ!?』


 そして現在時間、つまり連絡から五十秒後。

 扉を開け、大声でそう報告をする本当の運営員に第二会場にいた面々は驚愕と動揺の混じる反応を見せる。


「おいどうなっているんだ今年は!!」

「ふざけるなよ!! 我々の人命をここまで危険に晒して!! 次の議会で問題に挙げるからな!!」


 そして次の瞬間には参加者たちのソレは激しい憤りに変わっていた。

 昨日あれだけ大見えを切り安全性を強調した矢先のこの事態。反感と反発を買うのは当然のことである。


「「……」」 


 チュルラの『偽誤認識』が最大六人までしか掛けられない以上、オークション運営のほとんどは本物の運営員で構成されている。

 第一会場内には当然本物の運営員がいる。つまり、不測の事態が起こった際に本物の運営員が第一会場から離脱、こうして第二会場に報告がいくことは可能性として十分に考えられた。


 壇上に立つフィオネと舞台袖に立つムオーは一瞬の内にアイコンタクトをし、自分たちのすべきことを共有する。


 ――第一会場での戦闘、つまり私たちのことが露見した。ここからすべきは第一会場(あちら)に戦力を向かわせないようにして、オークション品を持ち出す時間を稼ぐこと。

 ――時間を稼ぐ。そしてここにいる奴らを殺して戦力を削る。


 フィオネとムオーはほぼ同時に『偽誤認識』を解き、【シジマ連合組合】の組合員では無く【ノーネームの】フィオネとムオーとして……戦うためにその姿を現した。


「お、おい何だ姿が変わって女になったぞ!!」

「ま、まさかアイツも……!?」


 その光景に、客席のオークション参加者たちは次々に狼狽える。


「さて、ここからですね」


 そして第二会場の客席に座っていた男、エリーザの従者であるバーガンディはポツリとそう呟き、立ち上がった。そして、壇上へと真っすぐに歩き出す。

 それが話し合いでは無く、殺し合いのために近付いてきていると、フィオネたちは即座に理解する。


「随分と好戦的ですね。まずは様子を伺うものだと思いますが」

「あなた方の目的はここにいる者たちの殲滅、そしてそれが終われば第一会場に向かうのでしょう。それは避けなければならない。だから、あなた方にはここで倒れてもらわねば困ります。それが、お嬢様から承った命令ですので」

「そうですか……」


 バーガンディを壇上から見下ろすフィオネ。


「ほほ、どうやらこのままではいけないようですなぁ」


 すると、客席にいた男がそう声を上げる。

 声の主はツンドラ・ゴルゴ―ラ。ふくよかな体型の、オークション一日目にエリーザが手強そうと指示した人物であり一日目二日目共に商品を落札している男だ。

 随分とした危機的状況に立たされているにも関わらず、余裕の様子である。


「ゾイ、フーガ。加勢してやれ」

「了解だ主様」

「承知」


 ツンドラの言葉に従い、彼の護衛を務める冒険者が立ち上がる。

 ゾイは狼人ライカンスロープ、フーガはリザードマンだ。それぞれ人間には無い種族特有の力がある。


「助かります」


 バーガンディは感謝を述べた。


「ムオー」

「はいよ!」


 正体がバレてしまっている今、穏便にとはいかない。

 ムオーが誰一人としてここから出さないためにすべきことは、全員の殺害だ。


酸泉ゲネシス・ゴア


 舞台袖から跳躍し、客席を全て見下ろせる位置に滞空したムオーは、胃からの逆流物を雨のように吐き出した。

 

魔力壁マジック・シールド!!』


 それに対し、護衛対象と自分たちを守るために冒険者と騎士は上に向け魔力壁を展開する。


「無駄だ。その程度じゃあ俺の酸は防げない」


 ムオーの言葉通り、彼の嘔吐物が付着した魔力壁はまるでろうそくのろうのように溶けていく。


「ぐあぁ!?」


 魔力壁が溶け出し、隙間から流れ込んだ酸がポタポタと下へと垂れる。それが冒険者や騎士数名へ降り掛かり、彼らは肉が溶ける痛みに悶絶の声を上げた。


「っ!?」


 その時だった。

 どこからともなく放たれた一本の矢が、ムオーの頭部を襲った。反射的に反応し、腕でそれを受け止めた。


「ちゃー、殺し損ねた! 良いタイミングだと思ったんだけどなぁ!」


 ……今の射撃、下からでは無く横からというあり得ない軌道。それにタイミングも俺が攻撃をし魔力壁に注視し下を見ていた時を狙ったか――やるな。


 矢を放った人物を評価するムオー。そして彼は声の主に目をやった。


「あはー! カッコいいよぉダーリン!」

「ったりめぇだぜハニー! 俺はお前の最高であり続けるからなぁ!!」


 ムオーに矢を放った人物、それはSランク冒険者にして夫婦パーティー【愛愛愛ラブラブラブ】のグラコスだった。

 彼はこの場の中で最も強力な魔力壁を張り、自身と妻であるラエルを守っている。


「おいてめぇ!! 俺のハニーにそんな汚ねぇモンぶっ掛けようとしやがってふざけんなよ!! ハニーにぶっ掛けていいのは俺だけだ!!」

「きゃー! もうダーリンってば!」


 グラコスはムオーを指差し、彼の妻であるラエルは頬を赤く染める。


 ……なんだぁ、アイツら。


 その奇天烈きてれつさに、ムオーは思わず目を細めた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』第一会場

→サイカ&その他、カンパネギア交戦開始

 エリーザ、チュルラはどうするか不明

『スワロウズドリーム』第二会場

→バーガンディ&ゾイ&フーガ、フィオネ交戦開始

 グラコス&ラエル、ムオー交戦開始

『スワロウズドリーム』地下

→ドミノを除いた【竜牙の息吹】、イルミ救出のために捜索中。


※新作投稿しました!! ぜひ読んでいただけると嬉しいです!!


モテない陰キャ高校生の俺、実は伝説の不良で今は大人気WEB作家!~どっちもバレないようにしたいんだが、美少女ヤンキーにグイグイ迫られたり同じクラスに美少女作家が転校してきたりして困ってます~



下に直接飛べるリンクを張ってます。

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