表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/170

第三十九話 『大オークション』三日目 その3

 カンパネギアが地面に潜る数秒前、スパーダは真っすぐに壇上に立つイタンシンを見据えていた。

 それは、彼自身がを果たすためである。


「ゼノ、一応確認しとくがアイツが魔王幹部なんだよな?」

『間違いない。さっきまでは奴の仲間の魔法で認識できていなかったが、改めて見ると雰囲気がこの前殺した奴に似とる』


 思念体と化しゼノディーヴァに取り憑いたゼノはそう言った。

 

「そうか」


 そうして、スパーダはエリーザとの会話を思い出す。

 


『今回の作戦は言わばゲリラ。私たちが周りを無理やり巻き込んで戦うような状況を作り上げる』

『周りに運営がすり替わってるって言えない以上、仕方ないな……』

『えぇ、それに例え話せたとして他の冒険者や騎士が乗ってくる可能性は限りなく低い。理由は護衛対象が危険に晒されるから。そして最悪の場合、オークションに人が参加しなくなって中止になる可能性がある。そうなれば相手が私たちが情報を流したと判断して、イルミが死ぬでしょうね』

『で、でもよ。エリーザ』

『何かしら?』

『それって、俺たちのワガママで周りを命の危険に晒すってことだよな?』

『えぇ、そうね』

『……』

『まさか、この期に及んでそんなことを気にしているのスパーダ?』

『悪いかよ……』

『私は貴方の全てを受け入れるし、そういう面も含めて愛おしいと思っている。私は貴方の気持ちを優先するわ。貴方が作戦を遂行したくないというのなら、それでもいい』


 エリーザの言葉に、無理だと俺は思う。


 オークションに参加しない、それはすなわち魔剣を諦めることに他ならない。

 そうなれば魔剣を手に入れるのは運営に成り代わっている魔王幹部だ。

 魔王幹部が魔剣を手にする、実際にそれでどうなるのかは分からないが危険なことは間違いない。

 それだけは防がなければならない事態だ。


『……作戦は、実行する。けど、できるだけ被害は最小限に抑える。そんな作戦、あるか? エリーザ』

『くく、ははは! 傲慢ね、そこの残念幼女に似てきたんじゃないかしら?』


 エリーザは笑う。そして、


『全く、無茶苦茶ね』

『すまん……』

『……本当は提案したくなかったけれど、仕方ないわ。いい? スパーダ。私からの約束、絶対に死なないで』



 相手は魔王幹部とその幹部が率いている集団。どれだけ戦力を集めても、良くて相手と五分五分。実際はそれ以下。

 

 だが、その中でも群を抜いて強いのは間違いなくあの男だ。


 激しい喧騒の中、スパーダの耳にそれは届かない。それは魔王幹部も同様だろう。

 互いが互いを見据え、動きを待つ。


 うごめどうの中、彼らだけが紛れも無くせいだった。


 だが、その均衡と拮抗はすぐに崩れ去る。


「っ!!」


 先に動き出したのは、スパーダだ。


 まずば、作戦第一段階!!


 ほぼ一瞬にして、スパーダは壇上に足を踏み入れ、先ほどよりも圧倒的に近くなったイタンシンの顔面を見据る。

 そしてそのまま剣を振るうのかと思えば、


「っ……!!」


 切り返すように方向転換。

 イタンシンの左後方数メートル先にある魔剣へと向かう。


「やはりか」


 が、イタンシンはスパーダの狙いを最初から分かっていたのか、彼の腕を一瞬にして切り裂いた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔剣を持っていなかった方の腕が消え去り、スパーダは叫ぶ。


「俺を狙うと見せかけ、力を底上げするために魔剣を狙う。そう考えるのは必定だが、予測も簡単だ。無論、俺が貴様の狙いに気付かなかった場合だとしても反射的に対応したがな」

「ぐぅぅぅぅぅぅ……!!」


 ボタボタと腕の切断面から流れ出る血に顔を歪ませるスパーダ。

 

 やっぱ、ダメか……!!


『おい何しとるスパーダ!!』


 負傷したスパーダに、思念体のゼノが声を掛ける。


『魔剣所有者。お前の力のほどは知れた。もういい、さっさと魔剣とそこにいる紛い物をこちらに渡せ』


 イタンシンはそう言って、ゆっくりとゼノに近付いた。


「……」


 仕方ねぇ、このまま作戦第二段階だ……!!


 激しい痛みに苛まれながら、スパーダは歯を食いしばる。そして、


「食らいやがれ……!!」


 切り飛ばされた腕を再生し、そのまま腰のポーチを握り締め、ポーチ越しに()を作動させる。

 直後、スパーダとイタンシンを眩い光が包み込み、二人はその場から消失した。



「ここは……」


 軽く首を動かし、周囲を確認するイタンシン。

 一秒前まで『スワロウズドリーム』の壇上に立っていた彼が立っているのは、『ブルーノ』内にあるセコノミヤ公園だった。先程とは異なり周囲に人はおらず、静寂が漂っている。


「なるほど、転移魔具か」


 起こった事象に対し、イタンシンは冷静な分析を下す。そしてその分析は的中していた。

 スパーダが使用したのは対ジオルド・ゲオルド戦でエリーザに持たされた転移魔具、『転送球ワープボール』である。


 その使用方法は二つ。

 一つ目は転送球が発光した位置に転送球が登録を行った地点にいた者を移動させる。前回のジオルド・ゲオルド戦でフライトとカレンが瞬間移動のように現れたのはこの方法だ。

 そして二つ目は転送球が光った位置の範囲三メートルにいた者を転送球が得録を行った地点に移動させるというもの。今回の使用方法は二つ目であり、転送球の効果範囲にいたスパーダとイタンシンはあらかじめ転送球が登録を行っていたセコノミヤ公園に瞬間的に移動したのである。


 スパーダとイタンシンをオークション会場から強制的に離脱させる、これが作戦の第二段階だ。

 今回の戦い、ネックになるのは間違いなく魔王幹部であるイタンシンである。彼の存在によってスパーダたちと【ノーネーム】の間には相当な戦力差があり、それはオークション参加者を巻き込み戦力として加えても早々埋まりきるものではない。


 だからこそ、イタンシンをオークション会場から除外した。スパーダの役割はその足止めだ。

 そしてその間にサイカやリンゼたちが他の【ノーネーム】メンバーと戦い、オークション品を守るというのが大まかエリーザの筋書きである。


 が、これには懸念事項がある。

 そもそもスパーダがイタンシンを足止めできるのかということだ。

 周囲に人がいない状況、スパーダとイタンシンの一対一。間違いなく、オークション会場にいた時よりもスパーダの死亡確率は上昇している。

 

 だがこれはスパーダが望んだことだ。オークション内にいる多くの人命の生存率を上げるために、彼は魔王幹部と一対一で対峙することを選んだのだ。

 ――この状況に、悔いはない。


「さぁ、付き合ってもらうぜ……!!」

『ガハハハハハ!! ケチョンケチョンにしてやるわい!』

「……」


 威勢の良いスパーダとゼノにイタンシンは目を細める。


「愚かだな。お前たちでは俺に勝てないというのに」


 そうして、彼は戦う意思を見せた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


よろしければブックマークや感想、広告の下にある【☆☆☆☆☆】から評価していただけると大変作者の励みになるのでぜひお願いします!!

◇◇◇

小話:

セコノミヤ公園は昨日の内にエリーザの部下たちによって規制制限が設けられ誰もいません。


※新作投稿しました!! ぜひ読んでいただけると嬉しいです!!


モテない陰キャ高校生の俺、実は伝説の不良で今は大人気WEB作家!~どっちもバレないようにしたいんだが、美少女ヤンキーにグイグイ迫られたり同じクラスに美少女作家が転校してきたりして困ってます~



下に直接飛べるリンクを張ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して

いただけると作者への応援となります!


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ