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第三十八話 『大オークション』三日目 その2

 ゼノとイタンシンがオークション会場で会話を繰り広げている同時刻、リンゼたちはイルミの捜索に動いていた。

 これもエリーザの提案である。


『まずは部隊を二つに分ける。一つはオークションに参加、もう一つはイルミの捜索よ。オークションに参加するのはスパーダと私、残念幼女、バーガンディ、サイカの五人。残りは私の従者を含めて全員イルミの捜索に向かって。『大オークション』を相手が運営している以上、開催中はどうしたってイルミの周辺警備が手薄になるからそこを狙うわ』


 エリーザの従者たちは『ブルーノ』中に散らばり、手当たり次第にイルミを探している。そして重傷を負ったドミノを除いたリンゼたち【竜牙の息吹】は『スワロウズドリーム』内を探していた。

 人質であれば近くに、手元に置いておくのがセオリーだと考えたからだ。

 そしてその手元とは……。


「やっぱり、ここが一番可能性が高い」


『スワロウズドリーム』地下一階に到着したシェイズは辺りを見回しながら言った。


「ウーリャ、イルミさんの魔力は追える?」

「……む、無理。昨日と違ってさ、索敵範囲が……広すぎるし、その中で、イルミさんの微弱な魔力を追うのは……」

「なら手あたり次第探すしかない」

「どんな条件であっても関係ない。行くぞ」


 そんなエルの言葉を聞きながら、シェイズは先頭を走る。

 その背中には間違いなく重責が積まれていた。

 

「シェイズ、少し気を張り詰めすぎ」

「何を言っているエル。俺たちは昨日、嫌というほど敵の強さを知った。気を張っていなければ勝てない……!!」


 口調からもシェイズの怒りと焦りが伝わる。


「言っとくけど、イルミ様が捕まったのとドミノの腕が無くなったのはアンタ一人だけの責任じゃない。このパーティー全体の責任。シェイズ一人で背負わせない。それに……」

 

 一呼吸置くエル、そして彼女は言う。


「私も、リンゼもウーリャも……シェイズと同じくらい怒ってる」

「……」

 

 エルの言葉に、まるで気付かされたようにシェイズは少しだけ目を見開いた。

 

「……確かに、そうだな。あまりにも独りよがりで身勝手だった。すまない」

「分かればいい。さっさとイルミ様を助ける」

「あぁ……!!」


 改めて一丸となったシェイズたち【竜牙の息吹】はイルミを救出すべく、足を速めた。



『スワロウズドリーム』第一会場。


 あの幼女……ゼノ様ではないな。


 姿を現したイタンシンがまず思ったのは、ゼノがゼノではないということだった。


 姿はゼノ様の幼少期を模してはいるが、決定的に違う。あの幼女からは、何の『凄み』も感じない。


 イタンシンは何百年も魔王幹部としてゼノに付き従い、近くで見てきた。それによって蓄積された経験と感覚が、席の上に立つゼノが偽物であると脳に告げていた。

 ルオードの時と同じように、イタンシンも敬愛する主が本物かどうかを看破できるのである。


 ――だが、それは彼女を無視できる理由にはならない。


 幼少期のゼノの容姿。

 魔剣を自分のモノだと主張している。


 これらの要素を併せ持つ幼女が、本物のゼノと何の関係も無いとは考えにくい。


 あの偽物が一体何者なのか、そして本物のゼノへの手掛かりに繋がるのか、魔王幹部としてイタンシンは確認する必要がある。

 だからこそ、イタンシンはエリーザの用意した土俵に乗ったのだ。

【シジマ連合組合】に成り代わりオークションを運営し、秘密裏にオークション品を回収する。イタンシンはこれを自ら放棄し、ゼノの口車に乗り情報を収集する方を選んだのである。


 だが会場には大量の騎士と冒険者がいる。それらを相手取り『ブルーノ』から脱出するのは難易度の高い、自殺行為にも等しい所業だ。

 

 ――そう、『普通』ならば。


 イタンシンはこうしてゼノと出会うため、そして確実にオークション品を盗むため秘密裏な行動をしていたに過ぎない。

 そして偽物ではあるが確実に本物のゼノと何かしらの関係があるゼノに似た人物とこうして邂逅した今、本当の姿を衆目に晒すことはやぶさかでは無い。

 

 そしてその選択をするだけの圧倒的な自信が、イタンシンにはあった。

 その自信の裏付けは、自らと自らが率いる盗賊団【ノーネーム】の強さにある。

 多勢に無勢であろうと、それをひっくり返すほどの戦闘力を持つ選ばれた者たち。それが【ノーネーム】なのだ。


「じゃあ、行くわね」


 壇上のカンパネギアはそう呟くと、音も無く下に降りそして、


「……ぁ」


 護衛である冒険者や騎士の肉体に腕を突っ込み、片っ端から心臓を握り潰していった。


「このぉ!! 火斬撃ファイア・スラッシュ!!」

風突ウィンド・サドン!」


 それを見た他の冒険者や騎士たちはカンパネギアを攻撃しようと武器を振るう。だがそれらは彼女の流麗な動作と身体能力で避けられてしまう。 


 犠牲者が続出する中、護衛対象の貴族を連れ会場を離脱、後方の席の者たちから徐々に会場外へ出て行く者が現れた。

 そしてその中には事態を知らせるために第二会場へ向かおうとする本物の運営員も含まれている。


 ――カンパネギアが手に負えないと判断し護衛対象とこの場から逃げる者、カンパネギアに挑み死にゆく者。


【ノーネーム】という存在を前に、そうした者たちが続出する。

 得られたと思われた戦力は瞬く間に消失していく。


 その時だった。


 バギィ!!


 肉と肉がぶつかり合う音が、響く。


「あれ? ひょっとして強い?」

「それなりには」


 一瞬にしてカンパネギアとの距離を詰め、彼女と二秒ほどの格闘戦を繰り広げたサイカは短く答えた。


「皆さん。相手の魔法は未知です。一先ずは放出魔法や強化魔法で全身を守った下さい」

「おぉ、冷静ね。そうそう、分からない相手と戦う時はまず情報収集が大事。バカはそれを蔑ろにするからダメなのよ」


 サイカの言葉にカンパネギアはうんうんと頷く。


「まぁそれにしちゃあアンタ今私に肉弾戦を挑んできたし……ひょっとして少し頭のネジ外れてる?」


 カンパネギアは真っすぐにサイカを見据えた。


「お、おぉそうか! サンキューメイドさん!」

「恩に着るぜ! すっかり頭に血が昇ってやがった!」


 その最中、サイカの説明を聞いていた周囲の冒険者や騎士たちがそれぞれ自身の魔力を纏う。


「はは、悪いけど……それじゃあ私には勝てないよ」


 周囲を軽く見渡したカンパネギアの余裕は、一切崩れる様子が無かった。


 瞬間、


「特殊魔法、【一般通過運命パッセージ・ディスティニー】」


 カンパネギアは地面を透過し、下へと沈んだ。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


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◇◇◇

小話:

カンパネギアは幼少期、いないものとして扱われてきました。彼女の魔法はその名残です。


※新作投稿しました!! ぜひ読んでいただけると嬉しいです!!


モテない陰キャ高校生の俺、実は伝説の不良で今は大人気WEB作家!~どっちもバレないようにしたいんだが、美少女ヤンキーにグイグイ迫られたり同じクラスに美少女作家が転校してきたりして困ってます~



下に直接飛べるリンクを張ってます。

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