第三十七話 『大オークション』三日目 その1
『大オークション』三日目は予定通り行われることになった。
俺はオークション会場の席に座り、開始の合図を待つ。
両隣にはゼノとエリーザ。更にゼノの隣にはサイカさんが座っている。
「レディィィス&ジェントルメェェェン!!!!」
会場の照明が消え、舞台照明のみが燦燦と照り続ける。登壇している男は拡声器を通して得高らかに声を上げた。
「「皆さんお待たせいたしましたぁ!! 遂に年に一度のこのイベントも最終日!! 皆さん悔いの残らないモノにしましょう!! それではこれより、『大オークション』三日目を執り行いたいと思います!!」
『……』
開始の合図、すなわち開戦の合図に俺たちは神妙な顔つきになる。
◇
オークションは一日目、二日目と同様につつがなく進行していった。
――そして、遂にその時が来た。
「続いてはこちら!! 名も無き剣!! 名が無い、それもそのはず!! この剣は専門家の見立てでは千年以上前のものなのですから!!」
……来た!!
姿を現した魔剣に、俺の視線は釘付けになる。
「さぁそれでは行きましょう!! 価格は五千万ネイスから!!」
「ちょっと待てぇい!!」
その瞬間、ゼノが椅子の上に立ち、高らかに声を上げた。
頼むぞ、ゼノ!!
俺は心の中で相棒を信じる。
「え、えーと。何でしょうか?」
あまりに非常識で突然の出来事に司会の男は面食らっていた。
「その剣は儂のじゃ!! 他の者に落札など許さん!! 返せ!!」
「はは、いやぁお嬢ちゃん? 何を言うかと思えばそんな……」
「これは虚言でも無ければ狂言でも無い!! 何なら舞台裏にいる奴に聞いてみると良い!」
いつもの態度を一切崩す事無く、ゼノは言う。
「あのねぇ君、いい加減に……」
呆れたように声を漏らす司会。このままではゼノはこの会場から退出させられる。だが、
「構いませんよ」
舞台袖から現れたティーチさんによってそれは防がれた。
無論、彼は本人ではない。昨日死んだことは、リンゼから聞いている。つまり、壇上に立っている彼は敵の内の誰かが成り代わった姿だ。
運営に成り代わっていると言っても、敵の人数は限られているはず。それなら成り代わる人間は運営に関わる中心人物……司会や責任者。
その考えは間違っていなかった。
そしてこのタイミングで派手に目立ったゼノと会話を図ろうとする彼は、間違いなく魔王幹部だ。
「面白いことを言いますね。お嬢さん」
「ふん! 面白くなどないわ。儂は事実を言っただけじゃ」
ティーチ(偽)に対し、ゼノは睨みを利かせる。
よし、ここまではエリーザの考えたシナリオ通りだ。
「そうは言いましても、これは我々の調査員が発見したものです。それを何の証拠も無しに自分のものだと主張するのはいくらなんでも……」
「おいおい、貴様なら分かるだろう。それは、儂のモノじゃ」
言葉の応酬、傍から見ればゼノは傲慢な言い掛かりをしているようにしか見えない。
だが、実際にあの魔剣はゼノのものだ。そしてそれは、魔王幹部なら分かっていることだろう。
「お、おい何なんだあの娘は……」
「おい!! オークションの邪魔だ!! つまみ出せぇ!!」
突飛なゼノの行動を批判する者が出てくる。当然のことだ。ゼノたちの会話は要領を得なければ意味も分からない。
だがそんな金持ちたちなど一切気にすることなく、ゼノは言葉を続ける。
「ほう、シラを切り続けるか。仕方ないのう」
一拍置き、言った。
「……なら儂は二度と貴様の……いや、貴様らの前に姿を現さん。今回のオークションが終わり次第、【慟哭の宴】の所にでも向かおうかのう。そうなれば儂を手に入れるのは容易なことでは無くなるぞ?」
「……」
この時、間違いなくティーチ(偽)の体が一瞬膠着した。
俺はエリーザの言葉を思い出す。
『相手はイルミというカードを持っている。けど、私たちはそれよりももっと強力なカードを持っている。それが残念幼女よ。イルミは奴らにとって真実を周囲に口外しないためのモノに過ぎないけれど、残念幼女は魔王幹部にとって決して度外視できない』
エリーザの予想通り、間違いなく魔王幹部はゼノについて思考している。
【慟哭の宴】の強さは魔王幹部の間でも知っているのだろう。彼らからゼノを奪うことがどれほど面倒なことか、理解しているはずだ。
「一体、何をしろと……?」
「はは、儂が欲しいんじゃろ? なら、この場で掛かって来い」
ゼノの言葉、それは言葉の通り『この場で戦いを始めること』を示している。
これは敵が最も避けたかった状況、ゼノの見え見えの罠だ。
――だが、相手は魔王幹部。魔王であるゼノをここでみすみす見逃す選択肢は取らない。
「……」
「……」
数秒――だが永遠にも感じる沈黙がその場を流れる。そして、
「はぁ……仕方ありません。いや……仕方が無い」
『っ!?』
ティーチ(偽)の姿は変貌した。
「はぁ!? お、おい一体どうなってる!!」
「な、何なんだティーチ殿の姿が!!」
それに対し、オークションの参加者たちに衝撃が走る。
「おいおい団長。いいのか?」
気付けば司会の男も姿が変わり、先程までティーチだった男にそう問いかけた。
「無駄だ。恐らく奴らは昨日のパーティーの関係者。ならばティーチが既に死んだことを知っている。『偽誤認識』でいくらティーチと認識させていてもその情報を持っている限り意味は無い。サシタに連絡しておけ」
「了解。じゃ、ここの奴らは全員潰すってことで」
「あぁ。時間稼ぎとあっちの戦力を削ることだけ考えろ。多少逃げられるだろうが、それらは無視だ」
「あいよ。分担はどーする?」
「あそこの白髪は俺がやる。それ以外は好きにしろ」
「だってさ。カンパネギア」
「了解」
更に一人の女性が現れ、壇上には魔王幹部の男を含め三名となる。
「ジョワリ様こちらへ!!」
「ホワン様!! 私たちから離れないで下さい!!」
そしてオークション参加者たちの護衛の冒険者や騎士たちは、主を守るために臨戦態勢に入った。
これもエリーザのシナリオ通りだ。圧倒的に足りなかった戦力を、こうした状況を作り一気に全体を巻き込むことで手に入れたのである。
「さ、舞台は整えたわ。ここからが勝負所よスパーダ」
「あぁ分かってる! ゼノ!!」
「うむ!!」
俺に応えるように、ゼノは口から魔剣ゼノディーヴァを出す。実体化したゼノは魔剣を体内に格納でき、自由に取り出すことができるようになっていた。
「行くぞ……!!」
口から吐かれたゼノディーヴァを受け取った俺は、抜刀し構える。
――三本目の魔剣を巡る戦いが、今始まろうとしていた。
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◇◇◇
小話:
イタンシンは三日目魔剣の落札にゼノが来ると踏んで、ティーチに成り代わりスタンバってました。
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