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第十三話 代償

倒れたスパーダが運ばれた先は……?

 倒れたスパーダは立会人とリンゼの手配ですぐさま病院へと運ばれ、医者の診察を受けていた。


「ジョンリィさん……スーちゃんはどうですか?」


 リンゼはそう言って医者であるジョンリィという男に質問する。


「身体の内部に損傷のようなものは見受けらない……だけどこうして彼の身体は衰弱の一途を辿っている。これは……魔力欠乏症候群だ」

「な、何ですかそれ……!?」

「我々人間は、魔法の行使に魔力を使う……けど、それにはリミッターが掛かっているんだ。生命に危険を及ぼさないように線が引かれている。もしその線を越えてしまった場合、人体に危険の及ぶレベルまで体内の魔力が消費され、やがてそれは生命力の枯渇に至る。短時間でここまでやせ細り、皮膚の干乾ひからびを見れば明らかだ。今の彼は……そういう状況なんだよ」

「そ、そんな……!!」

「回復魔法や薬も効果を見せない……正直、お手上げだ。正直、私もこんなの初めて見たよ……まるでこの人の身体から生気が吸い取られているみたいだ」

「そ、そんな……!! じゃあスーちゃんはこのままじゃ死んじゃうって事ですか!?」

「……何とも言えないね。それは」


 ジョンリィの分析を耳にしたリンゼは絶望を顔に浮かべ、見る見るうちに体が痩せ細っていっているスパーダを見た。


「スーちゃん……」


 絞り出すようにリンゼは愛する人の名を呼び、彼のか細い手を温かく握り締めた。



 何も無い……俺には、何も……。

 足り無い……追いつけない……。

 どれだけ足掻こうが、どれだけ切磋しようが、何も為せない……。


 うるさい……。


 聞こえる自分の声に、俺は思わず耳を塞いでしゃがみ込む。


 分かってるだろ……、俺は……。


 黙れ……!!


 楽しいか? 嬉しいか?


 黙れって……!!!


 自分に問いかけられるその声はあまりにも不快で、煩わしく、いとわしかった。

 

 消えろ……!! 消えてくれ……!! 言われなくてもそんな事、俺が一番分かってる……!!


 ……あぁ、そうだな。


 俺がそう言うと、どこか儚げな声音で、俺は言葉を漏らす。

 そしてそれを最後に、俺の言葉はんだ。



「んぅ……ぅぅ……」


 朦朧とする意識の中、重い瞼を開ける俺。

 ここ最近ずっとこんな感覚に陥っている気がする。


 目を開けた俺を待っていたのは見知らぬ天井と、


「スーちゃん!? スーちゃん!!」


 声を掛けるリンゼの姿だった。


「どこだ……。ここ……」


 気だるげな口調で俺はそう呟く。


「ギルドが管轄してるスオート病院、冒険者専用の医療施設だよ! 決闘の後、倒れたスーちゃんを連れて来たの!!」

「……そうか……倒れてから……どれくらい経った……?」

「す、数時間……くらい……」


 窓からは光が差し込んでいない、それはつまり既に日が落ちた事を示している。

 俺は大方の事情を理解した。

 次いで、俺は枕に頭を預けたまま顔を横に向ける。

 そこにはゼノが立て掛けれていた。


『うぅ……』


 彼女はまだ寝ているのだろう。

 まるで何か夢にうなされているように寝言を漏らしていた。


「良かったよぉ……!! スーちゃんがこのまま目を開けないんじゃないかって思って私、私……!!」


 そう言ってリンゼは目元に涙を浮かべる。

 本当に俺の事を心配してくれたのだという事が、見て取れた。

 これで俺を監禁しようとしたり、強引に迫ったりしなければ可愛らしいのだが……。


「ス、スーちゃん……大丈夫……?」


 俺が目を覚ました事に安堵したリンゼだが彼女はまだ心配そうな目を向けていた。

 その反応は当然と言えば当然。

 今、俺の身体は非常に衰弱しているのだ。


 冒険者として鍛え上げた体は痩せ細り、まるでこれから死を待つと言わんばかりの病人のような状態であることは鏡を見なくとも分かる。


 だが俺自身は大して驚かない……そもそも、驚く元気も無い。

 俺は少し掠れた声で、リンゼに言った。


「……まぁ、簡単に言うと……このままじゃ死ぬ……」

「え……」


 俺の発言にリンゼは目を見開き、一瞬体を硬直させた。

 だがすぐに彼女は口を開く。


「や、嫌だよ……!! 死んじゃダメ!! スーちゃんが死んじゃったら私、私……!!」


 リンゼは懇願するように俺の目を見た。

 それを慰める訳ではないが、俺は口を開く。


「解決する方法は、一つだ」

「な、何……!? スーちゃんのためだったら、私何でもするよ!!」


 彼女がそう言い放った瞬間、


 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……


 俺の腹が悲鳴を上げた。


「……腹減って死にそうなんだ。だからメシをくれ」


 激しい食欲に苛まれる俺は、そう要求した。



「ガツガツガツガツガツガツ!!!!」


 俺は運ばれる食事に片っ端から手を付け、胃に流し込む。

 その光景に医療施設の看護師たちは目を丸くした。


「おかわり!!」


 俺は空となった器を勢いよく看護師たちに差し出す。

 そんな俺を看護師たちは異常者を見るような目で見た。

 それもそのはず、先程まで痩せ細っていた俺の体は食事を摂る度に太くなっていき、瘦せこけた顔もみるみる内に元に戻り始めていた。


 食事を摂るだけで、死人のように衰弱し切っていた体は健康状態へと回帰しているのだ。

 彼女たちが俺にそういった目線を向けるのも仕方のないことだろう。

 とは言っても彼女たちは俺に食事を運んでくれている。

 俺にとってはそれだけで十分だった。


「やったぁ!! スーちゃんが元に戻った!!」

 

 そんな看護師たちとは対照的に、リンゼは俺が元に戻り始めているのが心底嬉しそうだった。

 すると、突然俺の病室の扉が開く。

 入室してきたのは白衣を着た二十代後半程度に見える男、眼鏡を掛けイケメンと言える部類の顔をしていた。


「失礼するよ……って……おぉ!! 本当にさっきまで死にかけてた人かい君?」


 入って来た男は驚愕というよりかは、好奇心によって目を輝かせるようだ。


「誰だアンタ?」


 食べ物を咀嚼したまま、俺はその男を見る。


「あぁそうか。意識がある状態では初対面だね……では改めて……初めまして、私の名前はジョンリィ・シーク。この病院で主治医をしている。数時間前、ここに運ばれてきた君を治療した者だ」

「あんたが……俺を……」

「ははは……と言っても、大した事は出来なかったけどね。回復魔法や調合した薬を服用させただけ……それでも君の状態が悪化を続けていたから正直お手上げだったよ」


 あっけらかんとした様子でジョンリィは言う。


「まぁ、そうだろうな……」


 口の中の食べ物を飲み込んだ俺は、そう呟いた。

 医者がどう手を尽くしたところで、衰弱した俺をどうにも出来ないことは、重々承知だった。


「一体どうなっているんだいその身体は? 魔力欠乏症候群を食事を摂るだけで治療するなんて、とても興味深いよ」

「……企業秘密だ」

「うぅーん。そうかい? 後学のために少しでも教えてくれると有難いんだが、まぁ本人がそう言うなら仕方ない。君の意思を尊重することにするよ。私は医者だからね」


 そう言ってジョンリィはウィンクする。

 それを無視した俺は、再び食事に手を付け始めた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


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◇◇◇


小話:

この物語の世界には医者がいます。科学と魔法の技術や概念が入り混じったモノも数多く存在します。

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