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第三十六話 『大オークション』二日目 その8

「何だよ……それ」


 シェイズから何が起こったのか事情を聞き、俺は戦慄する。

 

 謎の集団に【シジマ連合組合】が支配され、『大オークション』が乗っ取られたこと。

 そしてオークションを乗っ取った集団は相当な強者揃いであること。

 更に、その中の一人……恐らくリーダー格であり、ドミノの腕をもいだ人物が「ゼノ」の名を聞き、リンゼたちを生かしたこと。


 どれもが衝撃的な情報の連続だった。


「一体、どうなって……」

「簡単なことでしょ」


 呟いた俺に、そう言葉を掛けたのはエリーザである。


「リンゼが残念幼女の名を出して、相手の動きが変わった。つまり……相手は残念幼女を知る、もしくは関わりのある人物ってことよ。けど、知っているだけじゃあリンゼたちパーティーを生かして帰す理由としては弱い。だから、私は後者だと思うわ」


 前者ではなく後者……ゼノを知る、ではなくゼノに関わりのある人物。

 ――すなわち、


「魔王幹部……」


 そう、この時代にゼノと関わりのある者など、それしか考えられない。

 つまり『大オークション』を乗っ取った集団のリーダーは、魔王幹部ということだ。


「リンゼ様がゼノ様の名を出すまで、相手はリンゼ様たちを殺す気でいた。つまり相手は直前までそれを知らなかったということになります。であれば……相手の目的はゼノ様を捜索中だったのかもしれません。恐らく今回の『大オークション』で魔剣が出品されることを知り、ゼノ様がここに来ると考えたのでしょう」


 そう推察するのはサイカさんだ。確かに、そう考えれば合点がいく。 


「なら、ソイツがリンゼたちを生かして帰したのは……」

「私みたいな三大貴族ならともかく、リンゼみたいな冒険者が残念幼女の名前を知っている。相手はリンゼを残念幼女の関係者と判断したんでしょうね。だからこそ殺さずに生かし、一旦ゼノの元へ返すことを選んだ」

「ほう! つまり、儂がリンゼを助けたということじゃな!! 流石儂!!」

「呑気なこと言ってる場合じゃねぇだろ……どうすんだよこれから」


 事態の深刻さに、俺は額に手を当てた。 


「あら、そんなこと簡単じゃない。『大オークション』が乗っ取られたと情報を流せばいいのよ」

「……は?」


 何てことないように言うエリーザの提案に、俺は唖然とする。

 

「いくら相手が魔王幹部だろうが、『ブルーノ』中の冒険者や兵を総動員すれば良い勝負になるでしょ。後はその混戦の最中に魔剣を回収すればいいのよ」

「お、お前……何言ってんだよ! イルミさんが人質に取られてんだぞ!? もし情報を俺たち以外に流したらイルミさんが死んじまうだろうが!!」

「それがどうしたの? イルミが死のうが、その責任をリンゼたちパーティーが追及されようが、私たちには関係無いじゃない」

「て、めぇ……!!」

 

 改めて思う。こんなこと言いたくないが、コイツは自分と俺以外のことを全く考えていないということを。


「……と、昨日までの私だったら言ってたわね」


 しかし、彼女の言葉はそこでは終わらなかった。


「エリーザ?」

「……イルミが死なないように今日のことは他言しない。その上で明日の『大オークション』に参加し、魔剣を回収する。今回は気まぐれよ、私に感謝することね」


 ぷい、と横を向きながら言う彼女の頬は少しだけ朱色に染まっている。


 そこで俺は思い出した。昨日、イルミと口論になりそうだったエリーザに、リンゼが助け船を出していたことを。

 なるほど、どうやらエリーザも思う所があるらしい。

 自分と俺のことしか考えていないと思ったが、どうやらコイツも少しは血の通った人間のようだ。


「さ、それじゃあ情報の整理と作戦会議よ」

 

 エリーザの言葉に、俺たちは頷いた。


「まず大前提として、『大オークション』三日目は間違いなく開催される。理由は、相手がわざわざ【シジマ連合組合】を乗っ取り、『大オークション』の運営を行っているから。普通だったら、一日目か今日の時点でオークション品を全て奪って『ブルーノ』から出るのが最善。組合を乗っ取れたのだから検問の突破も簡単なはずだもの。けどそうしないってことは……」

「別の理由がある……それが」

「えぇ、そこの残念幼女よ。相手はゼノを誘っているわ。三日目のオークションに来るようにってね。本当は真っ向から乗るんじゃなくて、数の利で攻めて安全性を高めたかったのだけど、私たちだけでしか情報を共有できない以上、それは望めない」


 溜息を吐くエリーザ。


「ふん! この儂を誘うとは豪胆で愚かな奴よ!! 直々に会って、儂がボコボコにしてやろう!!」


 それに対し、ゼノはとても乗り気だった。恐らくほとんど何も考えていない。


「明日の『大オークション』は、相手の巣に飛び込むことを意味する。相手がどんな策を弄してくるか分からない。仕掛けるのがあちら側な以上、どうしてもこっちは後手に回らざるを得ない」

「そうだよな……」


 イルミを捕えている場所を含め俺たちには知らない情報があまりにも多すぎる。


「と、言っても私たちが強制され脅迫されているのは三日目のオークション参加だけ。私の考えが正しければ、参加以降はこっちの土俵に持ち込める」

「マジかよエリーザ!! すげぇじゃねぇか!!」

「ふふ、スパーダに褒められると気分が良いわね。もっと褒めて」


 少しだけ得意げな顔で、エリーザは鼻を高くした。


『皆様こんばんわ』


 その時だった。

 外から大音量でそんな声が聞こえてくる。

 顔を見合わせた俺たちは何事かと思い、窓から顔を出した。


「何だ……あれ?」


 上空には『大オークション』の司会である男が巨大に、立体的に映し出されていた。


「ホログラムね。【シジマ連合組合】側の力を利用すればああいったモノを用意できても不思議じゃないわ」

 

 隣に立つエリーザはそう言って上空に映る男に目をやる。


『『大オークション』二日目も楽しんでいただき、ありがとうございます。そんな皆様に悲しいお知らせがあります。実は昨日、取引終了後に落札者のオークション品が盗まれました。そして今日は落札者が取引中に謀反を起こし倉庫からオークション品を強奪しようとしました』


 司会の男は、淡々と説明を行った。


『我々【シジマ連合組合】は公正・公平にオークションを行います。当たり前のことです。そしてそうする理由も至極当たり前……皆さんに心の底からオークションを楽しんでほしいからです!』


 男の声のトーンが、少し上がる。


『この一大イベントに、不遜で不埒でよこしまな考えを持ち、行動に起こす者には罰を下さねばなりません。それが公正・公平を保つ方法、なので……既に粛清させていただきました』

「粛、清……?」

 

 俺がポツリと呟くと、ホログラムにはボロボロになった男たちの姿があった。

 それを見て、察する。敵が粛清という名目であの男たちに暴力を振るったことを。


「なるほどね。落札者を含めたオークション参加者に言葉の上で説明しても、三日目も同じような行為に走る者が出て、自分たちが命の危険に晒されるのではないかとい不安が付き纏い、それに対する不平や不満が噴出する。敵はそれを防ぐために、こうして見せしめにすることで対処したわけね」


 エリーザは冷静に分析する。


「リンゼさんたちの話を聞く限り、そもそも昨日と今日『大オークション』に盗みが入ったという事実は無い。つまり、全ては乗っ取った側の虚言……あそこに映る男たちは盗みなど犯していない一般人でしょう。清々しい程の自作自演ですね」


 バーテンディは目を細めた。


「ざけんなよ……!!」

 

 あまりにも非道で残虐な所業。俺は強く拳を握り締めた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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◇◇◇

小話:

簡単に整理すると、

【ノーネーム】:暴虐を尽くし、宝を盗むことを至上としている。団長の命令は絶対。

イタンシン:【ノーネーム】の団長だが、それ以前に魔王幹部として魔王復活のために行動している。

今回の『大オークション』による作戦はまどろっこしく遠回りなのは【ノーネーム】のほとんどが感じています。しかし彼らは団長には何か考えがあると思い従っています。

けど実際の所、団長であるイタンシンは魔剣の元にゼノが現れるという【ノーネーム】とは何にも関係の無い考えの上で計画を実行しています。

イタンシンは、ゼノが魔剣が出品される三日目のオークションに現れるという考えと、オークション品を全て盗むという考えの上で【シジマ連合組合】を乗っ取り『大オークション』を運営するというまどろっこしい方法を取りました。


※新作投稿しました!! ぜひ読んでいただけると嬉しいです!!


魔力のムダとテイマーから契約解除&パーティーを追放された魔物の少年、実は最も希少種の【アンデッド】だった~戻って来いと言われても俺を拾ってくれた強くて最強美人テイマーに仕える環境が最高なんで無理!~

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