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第三十五話 『大オークション』二日目 その7

 イルミを人質に取り、シェイズ達を地上へと返したイタンシン。

 その後、地下では本日の落札者との書類上のやり取り、金の受け取りを全員分行い、イルミ以外の落札者達は全員地上へと戻った。


「全く、派手にやってくれちゃって」


 チュルラは心底安堵したように、息を吐く。

 偽誤認識でオークションを執り行う司会に変身していた彼は、他の落札者達に破壊された部屋と、そこに広がる無残な死体について『落札者の一人がオークション品が管理されている倉庫へと向かおうとしたため、彼らを殺害した。部屋の破壊はその時の交戦によるもの』と説明した。


 落札者達は圧倒的権力者にして金持ちのため人死ににはあまり頓着とんちゃくが無い。よって宝を盗もうとして粛清されるのは当然の事だと考え、皆その説明に納得したのである。


 また、全員は昨日取引後にオークション品が盗まれた話を聞いている。それが、盗みを犯そうとした者に対する粛清は当然だという思考に拍車を掛けていた。


「それにしても、まさかドンドフが死ぬとは……相手は相当にやるのかムオー?」


 ボルカノはドンドフと共にいたムオーに目をやった。


「俺は別の奴を相手にしてたから良く見てなかったけど、かなり強かったよ。多分Sランクパーティーだ」

「全く、いくら貴方が【ノーネーム】内最弱で、相手がSランクパーティーだからと言っても彼らを逃がしてしまった言い訳にはなりませんよ」

「それはごめんって」


 あはは、と笑いながらムオーはフィオネを宥める。


「あまりムオーを責めるなフィオネ」

「だ、団長……!?」


 こちらへ向かい歩きながらムオーを庇うイタンシンに、フィオネは驚いた風だった。


「最終的に奴らを逃がしたのは俺だ。その方が都合が良いと判断した」

「そ、それは……どういう。……い、いえやはり理由は仰らなくて結構です。私は、団長の判断を信じます」

「ったく、団長の言う事はすぐに聞くんだもんな」

「何か言いましたかムオー?」

「何でもございませーん」


 あっけらかんとした様子で、ムオーはそっぽを向いた。


「でもよぉ、団長。いくらそこにいる嬢さんを人質に取ったからって逃がした奴らが俺達の事を漏らさない保証にはならなくねぇか?」


 そう聞くのはサシタだ。


「イルミ・A・クレパスは【クレパス大商会】の一人娘だ。ソイツが死ねば、護衛をしていた冒険者たちは極刑される」

「あー、確かにそうだな」


 イタンシンの回答に、サシタは納得する。


「……」


 んー、何か団長。少しテンション上がってる?


 すると、特に何も発言していなかったカンパネギアはふとそんな事を思った。彼女にとって、いつも冷静沈着で、どこか一線を画しているという印象のイタンシンが、今日は少しだけ近く感じていた。


 そしてその感覚は間違っておらず、イタンシンは確かに高揚している。


 ……はは、棚から牡丹餅という奴だ。

 魔剣を落札しようとする者の情報を得るために【シジマ連合組合】を乗っ取る方向で作戦を進めていたら、まさかゼノ様の名を知る者と遭遇する事が出来るとは。

 間違いない。三日目、ほぼ確実にゼノ様は現れる……!!


 イタンシンは数百年ぶりに会うあるじの存在に心を躍らせていた。



『スワロウズドリーム』三階のレストランで食事をしていた俺達。

 だが既に二時間ほごが経過し、いつまで経ってもリンゼ達が帰ってこない事に疑問を抱いていた。

 

「全く、この儂を待たせるとは良い度胸じゃ」


 一通り料理を平らげたが、未だ来る兆しを見せないリンゼ達に痺れを切らしながらゼノは新たな料理を注文している。

 

「まぁまぁ、一先ずサイカさんを待ちましょう」


 バーガンディはそう言って食後の紅茶を楽しんでいた。

 現在サイカさんが下の階へ行って運営の人に落札者達がどうなっているのか聞きに行ってくれている。現在俺達はその報告を待っているのだ。


「皆さん」

「あ、サイカさん。どうでしたか?」


 戻って来たサイカさんに俺は聞く。


「どうやら落札者の方々は全員手続きを終え、戻ってきているようです」

「じゃあリンゼ達もこっち向かって来てるってことですか?」

「いえ、詳しい事は……」

「そうですか……」


 一体どうしたんだリンゼ達の奴……。


 俺がそう思っていると、


「仕方ないわね。一度ホテルに戻りましょう」


 隣に座っていたエリーザがそう判断を下す。


「……確かにそうだな。流石にいつまでもここにいるのはアレだし」


 エリーザの言葉に、俺は同意した。

 こうして俺達は『スワロウズドリーム』を後にして、ホテルへと戻る事にしたのだった。



「……ん?」 


 ホテルへと戻って来た俺達は、エントランスである人物に遭遇する。


「スーちゃん……」


 それはリンゼだった。だが数時間前とは明らかに様子がおかしい。どこか不安げな、怯えたような様子だった。


「おうおうリンゼよ! 約束を破るとは良い度胸じゃのう! この儂が直々に食ってやろうか?」

「レストランに来ないし心配したんだぞ? 何かあったのか?」


 横から脅しを掛けるゼノを無視して、俺はリンゼにそう問いかける。


「その、実は……」


 酷く消耗しているのか、リンゼは力無く、泣きそうな声で俺の胸に体を預けた。


「……」

  

 普段俺とのこういった行為をゼノやエリーザは咎めているが、ただ事ではないリンゼの様子に二人共黙っている。


「とにかく、部屋に戻るぞ。事情はそれからだ」


 そう言って、俺達はホテルの部屋へと戻った。



「ほう」

「おいおい、どうしたんだよお前ら……」


 俺は自分の部屋に戻ると、そこにはシェイズ達【竜牙の息吹】が酷く憔悴し切った様子でいた。だがそれだけでは無い、


「よぉ、スパーダ」

「ドミノ……って、お前!? それどうしたんだよ!?」


 俺に声を掛けてきたドミノの姿に、俺は目を疑った。

 ――数時間前にはあったはずのドミノの右腕が、そこには無かった。


「はは……ちょっとな……」


 そう言ってドミノは目を伏せる。どうやら話す気力も残っていないようだ。


「シェイズ、話してくれ! 一体何があったんだ!?」

「っ……」


 俺はシェイズの体を揺すり、事態を把握しようとする。するとシェイズは、酷く悔いた表情で口を開き、話し始めた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

よろしければブックマークや感想、広告の下にある【☆☆☆☆☆】から評価していただけると大変作者の励みになるのでぜひお願いします!!

◇◇◇

小話:

サシタは貧民街の出身ですが泥水をジュースのように飲み、泥をケーキのように食べる生活を送っていたので特に不幸せを実感する事は無かったです。


※新作投稿しました!! ぜひ読んでいただけると嬉しいです!!


魔力のムダとテイマーから契約解除&パーティーを追放された魔物の少年、実は最も希少種の【アンデッド】だった~戻って来いと言われても俺を拾ってくれた強くて最強美人テイマーに仕える環境が最高なんで無理!~

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