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第三十四話 『大オークション』二日目 その6

「俺の挨拶は済ませた。次はお前達の事を聞かせろ。お前達は何者だ」


 イタンシンは、リンゼ達にそう問い掛ける。


「……俺の、名前はシェイズ。冒険者パーティー、【竜牙の息吹】のリーダーを務めている。そしてここにいる者はそのメンバーだ。今日はここにいるイルミ・A・クレパス嬢の護衛で来ている」


 大人しく従うのが吉、そう判断したシェイズは出来るだけ平静さを装いながら、言葉を発する。


「……そうか。イルミ・A・クレパス……確か【シジマ連合組合】と懇意にしている商会の娘だったか」


 イルミの素性を口にしながらイタンシンはシェイズ達の後ろ姿を一瞥する。


 ヤベェ……コイツ、俺のこれまでの冒険者人生の中で間違いなく一番ヤベェ!! さっきのドンドフとかいう奴なんか比較にならねぇ……!!


 ドミノは、内心で激しい動揺に駆られていた。

 

 このままじゃあ間違いなく俺らは死ぬ。何とかしてこっから逃げねぇと……。


 ――『逃げる』。果たしてそんな事が可能なのだろうか、とドミノは自身に問い掛ける。


 ……無理だ。無理に決まってる!! この停留所から地上に出るまでの通路は一本道、逃げるルートも把握されてるこの状況で、護衛対象を守りながら逃げるなんて……!!


 ドミノは目線を隣にいる仲間たちの方へと動かす。見れば、他の者たちも同様の事を考えていた。

 そう、全員分かっている。『全員』で逃げることは、不可能であると。


「っ……」

 

 ドミノは、拳を握り締める。


 ダメだ……!! このままじゃあ仲間が死ぬ!! そんな事、ぜってぇさせねぇ!! 恐怖で、体が動かねぇなんて……甘えたこと言ってられねぇ!! 


「……」


 小さく、短く呼吸を置き、ドミノは目を見開く。


 仲間は、絶対死なせねぇ!! そのために、俺がぁ!!


 そして、ドミノは決死の覚悟で振り向きざまに土魔法で補強した盾と剣を用い、イタンシンに斬り掛かる。

 一瞬の動作。隣に立っていたシェイズ達はすぐさまその意図を察する。


 相手の不意を突いた攻撃、すなわち自分が囮になるからイルミを連れて逃げろという合図。


『っ!!』


 すぐさまシェイズ達は動き出そうとする。ドミノが犠牲になる事は、その場にいる誰もが反対だ。しかし、彼は既に行動してしまった。

 なればこそ、自分達がすべき事はその犠牲を無駄にせず、与えられたチャンスを生かす事だと、シェイズ達は苦渋にまみれた判断をした。


 ――が、その判断は愚かであるとその場にいる者達全員は悟る。


「逃げようとするのは構わないが、俺を前にしてそれは不可能だぞ」

『……』


 後方にいたはずのイタンシンが突然シェイズ達の目の前に現れたのだ。まるで瞬間移動でもするかのような速度である。

 しかし、それだけならばまだ……まだいい。問題なのは、彼が右手に持っていたモノである。


 彼が持っていたのは、『何者かの右腕』であった。


「がぁ……あぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 直後、その持ち主であったドミノが激しい痛みを訴えるように叫ぶ。


「抵抗は無駄だ」


 ドミノの腕を地面に雑に落としながら、イタンシンは言う。


「それぞれの取引部屋で『昨日のある客の落札品が取引後に盗まれた。そのため今日からは金銭を受け取った後、『ブルーノ』を出る日に渡す手筈てはずに変更した』と説明し、一時的に商品をこちらで預かる。勿論、それらが落札者の手元にいく事は無い。これが、掌握した【シジマ連合組合】を利用し、二日目と三日目のオークション品を俺達【ノーネーム】が全て手に入れる大まかな流れだ。だが、お前らは俺達が既に【シジマ連合組合】を掌握している事を知ってしまった。もしお前らがこの事を言いふらしたら全てが水の泡。だから、お前らにはここで死んでもらう」


 いとも容易く放たれる死刑宣告。数秒前、ドミノの右腕を落としたイタンシンの言うソレには、圧倒的な説得力と有無を言わさぬ圧があった。


 絶望的な状況に追いやられる【竜牙の息吹】の面々、そしてイルミ。

 全員はもれなく死神による鎌を喉に突き立てられ、生殺与奪の権利を握られていた。


「さぁ、死ね」

 

 イタンシンは、一歩前に足を出す。

 戦いの素人であるイルミを含め、この場にいる誰もが悟る。一秒後、自分達の命は無いと。


 ――嫌だ。

 

 そんな状況下でただ一人、リンゼだけは刹那の時間の中、生存に繋がる糸を掴もうとしていた。

 戦闘では勝てない。故に、何か彼を止めるための言葉を必死に模索する。

 スパーダへの想い、彼に再開する事から生じる生への圧倒的執着。それらが彼女を記憶の海へと放り出す。活性化され、目まぐるしく動く脳細胞が、海流を激しくさせ、彼女に無数の言葉の選択肢を提示する。


 そして、彼女は選んだ。それは、通常であれば選ばないものであった。


「ゼノ……」

「……」


 ポツリと、そう呟いた瞬間……イタンシンの足が止まる。


「お前、今……なんと言った?」

「え……」


 これまでとは明らかに様子の異なるイタンシンは、顔に手を当て、目を見開き、リンゼを見た。そして、


「……くく」


 彼は笑った。


「はは、はははははははは!! そうか、そうかそうかそうか!! 推察は間違っていなかったという訳か!!」


 意味の分からない事を言い続けるイタンシン。やがて、彼は笑うのを止め、言った。


「事情が変わった。お前達が生きてここから出る事を許可する」

『っ!?』


 あまりにも突然な全くベクトルの違う発言に一同は戸惑い、困惑する。


「ただし、今のままではお前達が今日の事を外部に漏らす可能性がある。よって、保険を打たせてもらう。イルミ・A・クレパス。こっちに来い」

「っ!? 待て!! そんな事……!!」


 流石にそれは看過できない。シェイズは堪らず声を上げようとするが、


「なら全員ここで死ぬしかないぞ。安心しろ、明日のオークションが終われば解放する。勿論、それまで危害を加えるような真似もしない」

「そんな事……信用できるワケが……!!」

「信じるかどうかは関係ない。お前達は選ぶだけだ。このまま全員死ぬか、それともイルミ・A・クレパスをここに置いて全員生存するか」

「っ……!!」


 シェイズは唇を噛み締める。

 千載一遇のチャンス。だが大きなリスクを伴うソレに、誰もがどうすべきなのか、何が正解なのか分からなかった。

 だが、その場にいた者の一言がそれを打開する。


「んー、仕方ないわね」


 そう言ったのは、他でも無いイルミ本人だった。


「イ、イルミ様!? 何を……!」

「だって他に方法が思いつかないもの。なら、ここは相手の提案に乗るしかないわ」

「で、ですが……!!」

「話はまとまったみたいだな。さ、それじゃあお前達は戻れ」


 ピシャリと言い放つイタンシン。

 シェイズはただ、彼を睨み付ける事しかできなかった。


「シェイズ、行こう。今はこれしかない」

「あぁ……!」

 エルがそう促し、シェイズは馬車に乗り込む。そして、他の【竜牙の息吹】メンバーもそれに続いた。


 こうして、イルミを残し、馬車は地上への道を走り出した。

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