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第二十七話 『大オークション』一日目 その9

 スパーダたちが『大オークション』に参加し会場にいる間、【ノーネーム】の面々は着々と作戦を遂行していた。

 けして薄くはないが、彼らにとっては容易く御せるレベルであった【必殺隊】を含む護衛の何人かを無力化した後、彼らはその場にいた四人の【シジマ連合組合】組合員に命令を下した。


 それは自分たちの存在を口外せず、平静を装い『大オークション』の取引、その立会人としての任をこなせというもの。

 そしてそれぞれの組合員の護衛に【ノーネーム】のメンバーが一人ずつ付いた。


 これを可能にしたのはチュルラの特殊型魔法、『偽誤認識ぎごにんしき』。対象を指定した人物として周囲に認識させるというもの。自分を周囲から誤認識させることも第三者を周囲から誤認識させることも可能だ。

 発動に関する条件は四つ。

 一つ目、指定した人物が既に死亡していること。

 二つ目、指定した人物の死体を対象の二メートル以内に配置すること。

 三つ目、誤認識の対象にできるのは人間のみ、つまり周囲に対象をモンスターだと誤認識させるようなことはできない。

 四つ目、魔法を一度に発動できる上限は五人。ただし自分に魔法を発動しない場合に限り『偽誤認識』は一度に六人に発動することができる。


 この魔法が厄介なのは、これが変装や変化ではなく「誤認識させる」という点だ。

 つまり、対象は変装するわけでも肉体を変化させ化ける訳でも無い。周囲が対象を「その人」だと認識してしまうのだ。

 どれだけ歩き方が「その人」からかけ離れていても、喋り方が「その人」に即していなくとも、周囲は対象を誤認識しているため、余程のことが無い限りは違和感を覚えない。



 この魔法をチュルラは自分自身と、ムオー、カンパネギア、フィオネ、サシタに発動。

 警護の人間として認識されるようになった彼らは組合員の取引部屋でのやり取りを含めた立会人としての仕事内容、やり取りを確認した。

 そして理由はほかにもある。

 事情を知らないティーチを除いた四人がイルミたちがいるあの場で助けを求める可能性を潰すためだ。

 そうして確認の終わり、つまりそれぞれの取引部屋で最後の一人を見送った後、余分なもう一人の警護を殺害したのだ。



『スワロウズドリーム』地下内、部屋の一室。


「うぅ……」


 鈍い痛みを頭に抱えながら、ティーチは重い瞼を開ける。そしてすぐ、自分が縛られていることを理解した。


「ティーチ殿!」

「皆さん……」


 隣を見れば、自分と同じように縛られている【シジマ連合組合】組合員がいた。


「起きましたか」


 ティーチを含めた組合員五名は拘束され、一か所に集められている。そんな彼らの前にフィオネは立った。


「初めまして、【シジマ連合組合】の皆さん」


 両腕、足を紐で拘束された組合員に対し彼女は挨拶をする。


「お前たちは……全員、【ノーネーム】の」


 全員、というのはティーチの視界に映るフィオネ以外の人間たちを含めてという意味合い。

 椅子に逆向きに腰掛けたり、床に寝そべりこちらを見ている者たちに向けての言葉だ。


「今日一日を掛けて、私たちはあなた方運営が『大オークション』にてどういったことをするのか確認した。そして【必殺隊】を含めたあなた方直属の護衛を殺した」


 淡々と告げるフィオネ。冷酷なその報告に、組合員の面々は体中から嫌な汗が流れ出る。


「つまり今、あなた方の命は私たちの手の上。生殺与奪の権利は私たちが握っている。それは理解しましたか?」


 フィオネの問いに、彼らは無言。

 だが理解している。理解しているからこそ、言葉が出ないのだ。


 しかし、その中でただ一人……別の方向で頭を回している男がいた。それはティーチ、他の四人が絶望し、生じた状況に流されている中、彼だけは考えることを止めなかった。


【ノーネーム】、世界中を暗躍する盗賊団。その存在は裏社会では有名だが、あまり動きを見せず、尻尾を出さない神出鬼没さから情報は少ない。 

 

 自分の知る【ノーネーム】の情報を整理したティーチ、次に彼はこう思った。

 ――――彼らの目的は何なのか、と。


 分かっている、彼らは盗賊団。そしてここまでの一連の状況。目的は『大オークション』に出品されるオークション品の強奪だろう。

 だが、だからこそ分からない。一体何故、彼らは我々組合員が落札者と行う取引の手順を確認する必要があったんだ?

 彼らにとって最善の選択は、このままオークション品を馬車や竜車に積み、一刻も早くこの『ブルーノ』を離脱することだろう。

 大量のオークション品を一度に運び出すのは困難といった問題点はある。

 しかしそれは落札者とのやり取りを確認する理由にはなり得ない。あまりにも、彼らの行動は回り道が過ぎる。


「なるほど。やはり、この中でもあなただけはそこそこ頭が回るらしいわね」

「っ!?」


 思考するティーチに対し、フィオネがそう言葉を掛ける。


「恐らく、私たちの目的と行動の回りくどさに違和感を覚えているということでしょう」

「……あぁ、その通りだ」


 渋々ながら、ティーチは口を開いた。


「そこまでだ。フィオネ」


 その時である。ガチャリと部屋の扉が開き【ノーネーム】の長、イタンシンが現れる。


「っ!? 団長!!」

 

 突如として現れた自分が敬愛し、慕うイタンシンの存在にフィオネは驚きながらも目を輝かせた。


 っ……、何だアイツは……!!

 

 イタンシンが入室した瞬間、ティーチは全身から血の気が引くのを感じた。

 目の前にいる【ノーネーム】のメンバーも相当な手練れ、だが……そんな彼ら彼女らがちっぽけに見えてしまう程に、イタンシンの存在感は異常だったのだ。


「お前たちご苦労だった。作戦は無事成功したようだな」

「おうよ団長!!」

「当然の帰結だぜ。俺らが団長の指示を完遂できなかったことなんてあったかよ」


 ドンドフとサシタが威勢の良い返事を返す。


「『大オークション』運営。その中枢であるお前たち【シジマ連合組合】を制圧し支配下に置く。今回のイベントに携わっている者全てを殺すような面倒な真似をしなくとも、これだけで『大オークション』をコントロールできるようになる」

「それをして、こんな回りくどい真似をして、何の意味がある……。お前たちは!!」

「当然の疑問だな。だが、それをお前たち言う必要は無い」


 ティーチの言葉をイタンシンは吐き捨てた。


「お前たちはただ、俺たちの目的のために使われるだけの家畜。それ以上でも以下でもない。お前たちを殺さず、こうして話し合いの場に立たせているのもそれを分からせるためだ。だから、一度だけ聞く」


 そして変わらぬ表情で、彼は言う。


「分かったか?」

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◇◇◇

小話:

なし

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