第二十四話 『大オークション』一日目 その6
「スピカ・オカダの絵画、『悠久の子羊たち』!! 最終価格一億五千万ネイスでイルミ・A・クレパス様が落札!!」
イルミさんがいきなり一億ネイスに価格を吊り上げた競りは、その後食い下がる他者を押しのけてイルミ本人が落札した。
「やったぁ!」
嬉しかったのだろう、彼女は席を立ちあがり声を上げる。周囲の拍手が、一心に彼女へと降り注がれる。
「さぁ!! それでは次の品に移ります!!」
司会の男はそう言って、オークションを次に進めた。
◇
イルミさんが絵画を落札した後も、オークションは続く。
そして『大オークション』、欲望と熱が渦巻く宴は約三時間にも及んだ。
出品されたオークション品のほとんどは参加者によって落札された。正直、俺にとってはどの品も落札価格が異次元だったため、居心地が悪いというか……フワフワとした感覚である。
「全ての品の出品が終了しました!! 本日オークション品を落札した落札者の方はこのままお待ちいただき、それ以外の方はお気を付けてお帰り下さい! これにて『大オークション』一日目を終了させていただきます! 皆さま本日はありがとうございました! 『大オークション』は明日以降も続きますので、是非お楽しみ下さい!」
司会の男はそう言って締め括った。
「ふぅ……終わりか。この後は?」
周囲に座っている金持ちが立ち上がり、談笑しながら会場の外へ向かうのを尻目に、隣に座るエリーザに問う。
「今司会の男が言った事を補足すると、今日のオークションで商品を落札した人はこの後取引場に向かう事になってるわ」
「取引場……ってことはイルミさんたちはそこに行くのか」
「うん、そうね! ついでにティーチ叔父様に挨拶でもしてこようかしら」
そう言いながらイルミさんはこの後の行動をどうするか頭を巡らせている様子だ。
「おいゼノ、起きろ」
「んぅ……?」
俺は膝の上で寝ていた相棒に声を掛ける。どうやらオークションが退屈で後半辺りから寝ていたらしい。
「お前、あんだけ周りがうるさかったのに良く寝れたな……」
「心が躍らんかったらどんな状況でも寝る」
「さいですか」
ゼノの両脇を掴み、持ち上げた俺は彼女を床に降ろす。
「俺達は別に取引場に向かう必要は無いし、このまま帰るって事か」
「そうね。ここにいても特に意味は無いわ」
「取引場もどんなか興味あるけど、多分落札者しか行けないんだろ?」
「ご名答!」
「なら帰るか」
「ちょっと待って! スーちゃん帰っちゃうの!?」
そう言って立ち上がる俺を制止したのはリンゼだった。
「あぁ」
「きっとすぐ終わるから待っててくれてもいいと思う!」
どうやらリンゼは俺達と……というか俺と帰りたいらしい。
「すぐ終わるって……そうなんですか、イルミさん?」
「んー、まず『大オークション』の取引場は一つの部屋だけじゃなくって、複数の部屋で行われるの。一人一人対応してたらキリが無いからね」
その点に関しては理解できる。同じ人が複数のオークション品を落札してはいたが、それでも落札者の人数は数十人に及ぶ。一人ずつ品の受け渡しと支払いを対応するのはどう考えても効率が悪い。
「今回部屋の数は全部で五つよ!」
「「今回」ってことは、毎年違うんですか?」
「えーと、品の受け渡しと支払いには必ず【シジマ連合組合】の組合員が一人付くことになってるの。今回この『大オークション』に関わってる組合員がティーチ叔父様含めて五人。取引場はオークションに関わっている組合人の人数と同数!」
「なるほど」
五人……取引場が五部屋。つまり同時に五人まで対応できるってわけか。
「ま、私だったら顔馴染みだから優先的に取引するように働き掛けられるからそもそも時間掛からないわ!」
「ちっ……」
あっけらかんと言うイルミさんに、エリーザが聞こえる大きさで舌打ちをする。
「私が面倒な手続きしてるのにエリーザだけのうのうと帰るなんて私の気が収まらないわ!」
「ナイスですイルミさん! そうだよ、スーちゃんは帰らせない!」
微妙に噛み合ってないが、リンゼとイルミさんの目的は迷惑に一致していた。
「はぁ……ったく分かったよ。待っててやるから行ってこい」
「やったぁ! ありがとスーちゃん!」
「くっつくなって」
仕方ないと溜息を吐く俺に、リンゼは抱き着いた。
「スパーダ、腹が減ったぞ!」
すると、そこに異を唱えるようにゼノが口を挟む。
「あぁ? まぁ確かにまだ夜飯はまだだけど……ちょっと我慢してくれ」
「何故儂が奴らのために空腹に耐えんといかんのじゃ! 納得いかん!」
「ンな事言っても仕方ねぇだろ」
確かに俺も腹減ってるが、待っていると言った以上俺たちは分かりやすい場所で待っていなけれbならない。
メシを食うということは外に出るということ、それは避けねば。
「それでしたら提案があります。スパーダ様」
「え、提案って何ですか? サイカさん」
「ここ『スワロウズドリーム』三階にはレストランがあります。そこで食事を済ませると同時にリンゼ様たちを待っていればよろしいかと」
「おぉ! 名案じゃサイカ!」
「んー、まぁイルミさんがそれでいいなら」
俺はリンゼたちを率いる、最高意思決定権を持つ彼女に指示を仰ぐように視線を向けた。
「うん、それでいいわよ! 合流して私たちもそこで夕食を食べましょう!」
こうして、俺達は『スワロウズドリーム』のレストランでメシを食いながら待つという方針を固める。、
するとその直後、一人の黒服が俺たちが会場へ入った時とは違う、袖にある扉を開き現れた。
「お待たせいたしました。これより取引場へと移動します。本日オークション品を落札した方は私に付いて来てください」
「はーい! じゃあ皆ちょっと待っててねー!」
イルミさんは俺達にブンブンと手を振ると、背中を向け黒服の男の背中を追って行った。それに続くようにリンゼたちも彼女の後を追う。
見れば、他の落札者たちも黒服の後に続いていた。
「じゃ、俺達も行くか」
「そうね。癪だけど」
その提案に、エリーザも賛同する。どうやらイルミさんの都合で動くのが不服のようだ。……まぁ、気持ちは分からんでもない。
俺もリンゼの都合で行動するようなものだ。
――――いや、どっちかというとゼノの都合だな。
レストランに向かうことになった隣に立つ元凶を見ながら、俺は足を動かした。
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小話:
取引を部下ではなく【シジマ連合組合】の組合員が立ち会い、執り行うのは可能な限り落札者に不信感を抱かせないようにして、信頼関係を分かりやすく見せるためです。