第二十三話 『大オークション』一日目 その5
スパーダたちが『大オークション』に参加している同時刻、【ノーネーム】のチュルラとムオーは『スワロウズドリーム』の最上階を目指していた。
が、本来であれば最上階は一般人が赴くことができない。【シジマ連合組合】の運営サイドがそこにいるからだ。
――――チーン
エレベーターを利用し、最上階まで到達する二人。
だが当然、開いた扉の先には【シジマ連合組合】の要人を守るための騎士や冒険者が存在した。
「何だ貴様らは」
「ここは一般人が立ち入っていい場所じゃない。さっさと消え失せろ」
警護の任を預かっていた彼らはチュルラとムオーに言う。
「うん、知ってる」
「けどまぁ気にすんな」
「何を言って……!!」
そこからは一瞬だった。
最上階に響き、轟く騎士と冒険者の断末魔。彼らは明瞭な言葉を発する間もなく、死んでいく。
最上階にいた人の数々は、血に塗れその場に倒れ伏した。
「ふぅー、やっぱ戦いは苦手だ」
「【シジマ連合組合】の警護部隊にここまでできれば十分だろ」
赤く彩られた廊下を、一切気にすることなく二人は歩く。そして、最奥の部屋の扉に手を掛けた。
「っと」
扉を開けた瞬間、チュルラとムオーの眼前をナイフが駆ける。二人は首を曲げ、眼球への直撃を回避したが、頬からは一筋の血が流れた。
「危ないなー。刃物は投げちゃダメって教わらなかったか?」
「この業界でそんなお花畑な考えしてる奴いねぇだろ」
未だ変わらぬ様子でチュルラとムオーは軽口を叩き合う。
二人の前に対峙するは黒ずくめの集団。彼らは一切言葉を発すること無く、構えていた。
「ふん、まさかこの『スワロウズドリーム』にお前たちのような襲撃者が現れるとはな」
「いやいや、普通に考えて来るならここでしょ。統括理事局は結界張ってあるわ周辺をぐるっと雇われ冒険者や騎士が囲ってるわで侵入するのメンドすぎ」
「その点『大オークション』が開催される『スワロウズドリーム』ならオークション参加者として内部への侵入は容易。加えてこの建物は二十七階建て、その最上階にいるお前を殺しても誰も気付かない。自分たちの方から狙って下さいって言ってるようなもんだ」
「そうそう、ていうか俺たちはアンタに用はない。あるのは後ろにいる奴らだよ」
そう言ってチュルラはナイフを投げた男の背後を指差す。二つの高級ソファがあり、そこに四人の男が腰掛けていた。
「アンタらが【シジマ連合組合】の組合員。要は『大オークション』運営の中枢だろ?」
チュルラの言葉に、男たちは鼻で笑う。
「だったらどうした」
そう言って男の一人は机の上に合った紅茶を飲んだ。
「へー、流石に【シジマ連合組合】ともなると肝が据わってるね」
舌なめずりをするチュルラ。
「ふん、余裕をこいているのも今の内だ。ここに来た時点でお前たちの死は確定している。こいつらに殺される未来は覆らない」
チュルラとムオーの二人は、再び視線を黒ずくめの集団に移す。
「そう言えば聞いたことあるな。【シジマ連合組合】は公には存在を示していない特殊な戦闘部隊を持っていると。それがそいつらってわけか」
「ご名答。彼らが私たちの最も優秀な手駒、【必殺隊】。その強さはSランク冒険者や騎士階級:Ⅰの騎士に匹敵する」
「『大オークション』の開催時、『スワロウズドリーム』の建物周辺と建物内の警備をどこにでもいる有象無象の冒険者や騎士にさせている主な理由はこれだ。例え最上階へ到達し、外敵の刃が我々に迫った所で、その悉くを【必殺隊】は弾く」
「へー、まぁさっきのナイフ結構いい感じだったしね」
「さっきの奴らがAランク冒険者と騎士階級:Ⅲくらいだったから、それよりは強いな」
組合員を守るように立つ黒ずくめの集団に対し、チュルラとムオーはそんな感想を漏らす。
「どうムオー、勝てそう?」
「いやぁ……俺たちだけだとちと厳しいかもな。あっち七人もいるし」
「だよねー」
ムオーの返答にチュルラは溜息を零す。
「ははは! 我々【シジマ連合組合】にここまで真っ向から攻め入った者はお前たちが初めてだ! 殺される時の断末魔、ぜひ聞かせてくれ!」
組合員たちはゲラゲラゲラと、中年の大笑いが部屋中に響いた。
「そろそろ準備できたかな?」
「もういいだろ。アイツが俺たちよりもフロアの制圧に時間が掛かるわけがない」
「そうだね」
そう言って、チュルラはその足で自身の足元を強く踏みつける。
「……何だ、何をしている?」
「応援……激励の意味じゃないよ」
ニヤリとチュルラが笑う。そしてその瞬間、
「ガアァァハッハッハッハ!!!」
黒ずくめの集団の足元に穴が開き、そこから巨大な肉体が噴出した。
「ドンドフ、下はどう?」
「あぁ手応えのねぇ冒険者と騎士しかいなかったぜ。全員殺といたけどよぉ」
「そうか。ほれ、お前の後ろにいるぞ。殺し甲斐のある奴らが」
「あぁ……はは、マジじゃねぇか……」
首を曲げ、三メートルほどある巨躯で彼らを見下ろしたドンドフは、口角を吊り上げては白い歯を剥き出しにする。
「一応言っとくけど、あんまり派手に暴れんなよ。いくらここが最上階でもお前じゃあ下に音が届きかねないからな」
「ははははは! 安心しろよぉ。二十階程度までしか音が届かないようにするからよぉ!!」
「そういう問題じゃない」
ドンドフの頓珍漢な発言に、チュルラは半眼を向けた。
「『オーガ』だと……コイツは極めて少数な種族のはず……! 何故こんな所に……!!」
「ギャーギャーうるせぇなぁ。俺は黒い奴らに用があんだ。権力に縋ってるだけのてめぇらに興味はねぇよ。さぁさぁやろうぜ! 楽しい楽しい奪い合いだ!!」
ドンドフが両の拳をぶつけ合う。それに合わせ、【必殺隊】の面々は武器を抜いた。
◇
「あぁ……ぁ……あぁ!!」
「は、はははは……ははははははは!!」
「な、何だ……何だこれは……一体、何なんだ!!!」
「お前たち、こんなことをして……タダ済むと思うなよ!!」
約五分後、部屋は血の海と化していた。惨状としては廊下よりも酷いだろう。
【必殺隊】の者たちはその悉くが身体を抉られ、眼球や内臓が飛び散り、亡骸となって辺りに転がっていた。
「流石ドンドフ、力だけなら【ノーネーム】トップの男」
「はははははは!! 拍手なんてよせやチュルラ! しかしまぁコイツら中々だったぜぇ!! 存外楽しめた!!」
「そりゃ良かった」
「あん? ムオー、てめぇどこ行ってやがった?」
扉から再度入室してきたムオーに対し、ドンドフは訝し気な目を向ける。
「お前が目の前の奴らに夢中になり過ぎて一人取り逃したから追いかけてたんだよ。ほれ」
ムオーはそう言って、襟元を掴んでいた一人の死体を部屋へと放り込んだ。
「おぉマジか!! 気付かなかったぜ!」
「ったく」
放り投げられた死体は頭部が溶け、露出した脳にまでそれが及ぼうとしていた。
「さぁてと、それじゃあ作戦を進めるか」
ムオーの言葉を契機に、チュルラとドンドフも今は無力な組合人たちに近付く。
「や、やめろ!! わ、分かった金ならやる!! だから……!!」
「そんなモンは奪うから必要ない」
「てかウケんね。数分前と態度違い過ぎでしょ」
にべもなく言い放つムオーとケラケラと笑うチュルラ。
生殺与奪の権利がムオーたちにある以上、組合員たちの命はもう、彼らの掌の上であった。
こうして、ティーチを除き【シジマ連合組合】の組合員たちは、【ノーゲーム】の手中に落ちた。
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◇◇◇
小話:
『スワロウズドリーム』の二十階より上に一般人はほとんどいません。それどころかそもそも人自体があまりいません。せいぜい一つの階に数人騎士や冒険者がいる程度です。なので最上階行くのもそんな難しい事じゃありません。
※新作短編投稿しました!! ぜひ読んでいただけると嬉しいです!!
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