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第二十一話 『大オークション』一日目 その3

 スパーダとイルミが会話を重ねていた同時刻、ゼノとサイカはトイレへ向かっていた。


「こちらですね」


『スワロウズドリーム』内の図面を完全に頭に叩き込んでいたサイカは詰まることなくゼノを目的の場所まで案内している。


「着きました!」

「うむ! 案内ご苦労サイカ! っと」


 トイレに入るための入り口、その角で危うくぶつかりそうになったのを事前に察知したゼノは避ける。


「あら、ごめんなさい」


 擦り違いざまに女は短く謝罪をする。本来であればここでこれ以上の何かが起きることは無かった。

 しかし、事は起きた。


「どけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「待てぇ!!!」

「む?」


 ナイフを持った一人の男と複数の警備員らしき男たちが、ゼノと女の方へと走りながら向かってくる。


「邪魔だァァァ!!」


 逃げている男は明らかに冷静さを欠いていた。直進で走り、全員を跳ね飛ばす勢いで足を動かす。

 そしてゼノとの距離が数メートルまで迫った。


「よっと」

「っ…‥あ?」


 瞬間、逃げている男の視界が歪み、彼はその場に倒れ伏した。


「全くうるさいぞ。廊下は静かに走れと習わんかったのか」

「それを言うなら静かに歩けです。ゼノ様」

「おぉそうか? まぁどっちでもいいじゃろ」


 そんな会話をしながらゼノとサイカはトイレへと入っていく。


「確保ぉ!!」


 倒れた男を拘束するように、警備員の男たちが腕を締め圧し掛かる。


「全く、毎年出ますねこういう輩は……」

「あぁ、【シジマ連合組合】に恨みを持つ奴はいるからな。凶器を持って場内の誰かしらを殺せば『大オークション』の中止、運営の失態を衆目にさらすことができるとでも考えているんだろう。コイツが唆されたのか、それとも単独犯なのかは、この後の尋問で分かる。……あぁご協力感謝いたします!」


 拘束を別の男に任せ、リーダーらしき警備員の男は立ちあがると、その場に残された女に向かい礼をする。


「いえ、私は何も」

「ははは、謙遜とは。随分殊勝なお方のようだ。私は目で捉えることはできませんでしたが、あの場でこの男を倒したのはあなたしか考えられない。先程もう一人女性がいたが、彼女では男との位置が遠すぎますしね」

「……」

「おっと、そちらも予定がおありでしょう。お時間を取らせてしまって申しわけない。それでは」


 そう言って警備員の男たちは逃げていた男を拘束してその場を後にした。


「……」


 残された女――――フィオネは至って冷静にあの時の状況を思い出していた。


 あの時、私は本当に何もしていない。したのはあの子供……私ですら目で追うのがやっとの速度で跳躍し、あの男の顎に鋭い回し蹴りを放った。相当な鍛錬を積んでいないと、到底成し得ない芸当だ。


 フィオネはゼノの目にも止まらぬ早業に関心と同時に脅威を感じていた。


 もし、こんなレベルの奴が他にもいたら……明日と明後日のオークションは、かなり危険なモノになる。

 一応団長に報告しておこう……。


 そう決意し……フィオネもまた、その場を後にした。



「レディィィス&ジェントルメェェェン!!!!」


 会場の照明が消え、舞台照明のみが燦燦と照り続ける。登壇している男は拡声器を通して得高らかに声を上げた。


「本日はお集まりいただきありがとうございました!! まず先にお伝えさせていただきます。本会場は第一会場になっております!! 出品される品が会場ごとによって異なりますので、事前に確認をし、ここにこの会場では無いと気付かれた方はすぐに第二会場の方へと移動して下さい! それでは移動タァァァイム!!」


 再び高らかな宣言。

 しかし、移動するために席を立つ者は誰一人としていなかった。会場を間違えている者はいないということだろう。


「なぁ? そう言えば何で会場が二つあるんだ?」

「一つは時間やキャパシティの関係。これだけ参加者がいると会場を二つ用意しなきゃ入らない。それに、できるだけ予定通りにオークションを終わらせるため。もう一つはできるだけオークション品を別々の人に分配させるためね」

「何じゃ、ケチ臭いのう」


 エリーザの説明に、ゼノは唇を尖らせた。


「ほう! どうやらいないようですね! 失礼しました!! それではこれより『大オークション』を開始いたします! まずは当オークションの責任者、ティーチ・ハクロウネからのお言葉ぁ!!」


 司会の声に合わせ、袖からではなく、下から舞台の上に現れるティーチ・ハクロウネと呼ばれる人物。

 イルミさんの話では【シジマ連合組合】の組合員で、結構懇意にしているらしい。


「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。たった今ご紹介に預かりました。ティーチ・ハクロウネと申します」

「ははっ、相変わらずこういう時はちゃんとしてるねー、ティーチ叔父様」


 近くの席に座っているイルミさんはそう言ってクスリと笑う。


「今年もこの刻がやってきました。そして……今年もまた、皆様が驚愕するような品の数々をご用意しています。出品リストにも載っていない品も出品されるので、是非お楽しみ下さい」


 柔和な笑みで言うティーチさんの言葉に、周囲の金持ち連中の「おぉ」と言う声が響く。

 

「リストに載ってない品もあるのか……」


 昨日知ったことだが、こういった公開制度を取るオークションは出品する物を羅列してあるリストのようなものを事前に配布している。

 今回であれば、一日目~三日目に何が出品されるか分かるようなリストが俺たちに提供されていた。


「えぇ、このイベントを盛り上げるため毎年何か用意しているらしいわ。それを落札しに来ることを目的としている買い手もいるみたい」

「出品されるまで秘密なんだ~。一体どれくらいの値段になるんだろう?」


 こればかりはリンゼも少し興味を示しているようである。


「では、しがない老人の話はこれくらいにして……これより、第百十二回『大オークション』を開始いたします」


 ティーチさんの開始の音頭に、会場が沸き立った。

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