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第十七話 地下競売での殺戮 前

 時刻は太陽がなりを潜めた夜、スパーダたちは競売街道から撤退し、イルミに付き添っていたリンゼたちも今日の役目を終え、それぞれホテルへと戻っていた。


 太陽が沈み、夜が来た。

 ――――そうして到来する。『競売街道』……『黒の道』、そこで行われる競売が最も活発化する時間帯が。


「さぁさぁ!! やってまいりましたぁ!! 『競売街道』、地下競売!!!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 司会のオークショニアが高らかに開始を宣言し、規則的に並べられた椅子に座る男たちの野太い歓声が上がる。


「本日は実に生きの良いモノを仕入れています!! それでは皆さん、振るってご参加ください!!! ではまずこちら!!」


 そう言ってオークショニアが壇上を指し示すとその幕が開き、中央にある入り口から首輪をつけた子供がゆっくりと歩いてきた。

 年齢はまだ七歳前後と言ったところだろう、満足な摂生をしていないからか肉付きは悪い。だがそれとは別に、顔立ちは整った少女だった。

 彼女を目にした、買い手たちはニヤリと下卑た笑みを浮かべる。


「それでは入札に移ります!! 二千万ネイスから!!」

「二千五百!!」

「三千五百!!」

「四千!!」


 凡そ、正気とは思えぬ値段を次々と提示し、少女の落札価格は吊り上がっていく。

 奴隷の地下競売に参加するのは大抵が豪商だ。彼らが何のために奴隷を購入するのかと言えば、それはほとんど趣味嗜好のためといっていい。

 ちなみに、出品される奴隷は大抵が十歳前後の子供だ。

 年端も行かない少女や少年を性的玩具にする者もいれば、自分の子供のように可愛がる者。鍛え上げ、立派な戦士にする者まで、その理由は多岐に渡る。

 

 この地下でのオークションは、数ある中でも人間の願望と欲望が特に渦巻くオークションだ。


「……」


 その欲望の賛歌を、上から眺める者達がいる。


「参加者は三十人と言ったところか」

「奴隷を管理している人間を含めれば正確には三十二人です」

 

 そこにいるのは【ノーネーム】団長にして魔王幹部のイタンシン、そして彼の忠実な部下であるフィオネだ。


「統括理事局が、ここでの利益を徴収しに来る日はいつだフィオネ」

「二十五日です。ですので、私たちが『ブルーノ』にいる間は理事局に気付かれることは無いかと」

「そうか。なら……」


 言い終わる前に、イタンシンはそこから飛び降りた。


「単純だな」


 そして全てを言い切った彼は、買い手が座る観客席の中央へと着地する。


「な、何だ貴様……!?」

「部外者か!! おい誰かコイツをつまみ出せ!!」


 オークションに熱狂に包まれていた豪商たちは口々にイタンシンを指差した。


「全く、うるさい害獣どもだ」


 が、彼らの言葉に一切の耳を貸すことなく、イタンシンはそう言って奴隷の立つ壇上へと上がっていった。


「おいおいおい!! 何だ、お前は!! ここは関係者以外……っ!?」

 

 あまりにも突然の出来事にオークショニアは狼狽しながらもイタンシンを睨み付ける。


「喚くな。新鮮な命が揺らぐ」


 オークショニアの首を掴み締め上げながら持ち上げるイタンシン。締められ続けた彼は「かはぁ……」と言ったのを最後に意識が消失する。


「何がどうなっている!! おい!! 早くコイツを!!」


 豪商の一人が立ち上がり、周囲を見渡すように言う。


「残念ながら、ご自慢の護衛は来ないわよ」

「は……?」

 

 買い手たちが入場した入り口から歩いてきたのはカンパネギア。

 地下競売の入り口、そしてこの会場までの通路には豪商たちが雇った騎士や冒険者が多く存在していたはず。カンパネギアがそれらを潜り抜け、この場に来たことがどういう意味か、豪商たちは即座に理解する。

 

 ――――今、自分たちの命は彼らに握られていると。


「な、何だ!! 何が目的だ!! 金か!? それなら!!」

「いくらでも払う!! だから!!」

「そんなものに興味は無い」


 ピシャリと、壇上からイタンシンが言う。


「それよりも、お前たちにはしてもらわなければならないことがある」

「お、おぉ!! 分かった、何だ!!! どうすれば……!!」

「今ここで死ね」

『……』


 にべもなく言い放つイタンシン、その言葉の意味を理解しても、彼らは誰一人として納得しない。


「ふ、ふざけるな!! 何を……っ……て」


 一人の豪商が激昂する。その直後、彼は自身の体内に異物が侵入するかのような感覚を味わった。


「はーい、そこまで」

「なっ……なぁ……!?」


 原因は明白だ。

 カンパネギアが男の背中から貫くように手を入れ、内部の臓器――――心臓を物理的に掴んだのだ。

 本来であれば絶対に触れられることの無い恥部よりも繊細な箇所を掴まれた男はパクパクと口を動かす。


「それじゃあ、さようなら」

「ごふぁ……!」


 カンパネギアはそう言って男の心臓を握りつぶす。為す術もなく、男は立ったままその場で絶命した。


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

「聞くに堪えないな。カンパネギア」

「了解」


 イタンシンから名を呼ばれたカンパネギア。瞬間、彼女は動いた。



 約一分後……総勢三十名のオークション参加者たちはその場に倒れ伏す。

 彼らは全員先程と同じ方法で殺害された。

 が、特徴的な事象が一つある。誰一人として、出血していないのだ。カンパネギアは間違いなく自身の手で彼らの体を貫いた。しかし、それによって生じるはずの出血が一切無かったのである。

 外部に損傷はなく、内部に突如として異変がきたされたかのようであった。


「完了よ。団長」

「ご苦労だ。やはりお前だと血の処理が必要無いから助かる」

「そう言っていただけて光栄ね」

「だ、団長!」

「ん?」

 

 すると、イタンシンと同じように飛び降りてこちらへ歩みを進めるフィオネ、何故か彼女は少しばかり赤面していた。


「わ、私だって相手に血を流さずに殺せます!」

「お前は周辺を破壊する。だからこういう時の適任はカンパネギアだ」

「そ、それは……っ。くっ……!! カンパネギア……!!」

「ちょっとフィオネ、アタシを睨まないでよ」


 フィオネの鋭い眼光にカンパネギアはやれやれと肩をすくませる。

 

「止めておけフィオネ。さっさといくぞ」

「っ!? は、はい団長!」

「はぁ……ったく本当にアンタは……」


 そんなやり取りを経て、三人は舞台裏へと足を踏み入れる。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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◇◇◇

小話:

フィオネは昔、母が他界したことで頭がおかしくなった父親に強姦される日々を送っていましたが、彼女の魔法の才能に目をつけたイタンシンが父親を殺害、彼女を助け出しました。

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