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第十六話 一方その頃

 スパーダたちが競売街道でオークションについての知識を深めている中、時間帯は昼の中頃に差し掛かる。

 本日、彼らとは別行動のリンゼたち【竜牙の息吹】はイルミと共に【シジマ連合組合】が居を構える統括理事局に足を踏み入れていた。

 統括理事局の内外には専属の騎士や使用人が配備されている、更に魔具による探知結界が張られており、内部の許可が下りた者では無いと通過することが出来ない仕組みになっていた。


「はっはっは! やぁイルミちゃん今年もよく来たね!」

「ティーチ叔父様! 元気そうで嬉しいわ!」

「まだまだ現役だからね! 隠居は当分先かなぁ!」


 イルミは白い顎髭と片眼鏡を付けた聡明そうな雰囲気を醸し出す男性と抱擁を交わす。


「紹介するわ。【シジマ連合組合】に所属する組合員の一人でハクロウネ侯爵家の当主、ティーチ・ハクロウネさんよ」


 そう言って、イルミは【竜牙の息吹】の面々にティーチを紹介する。


「初めまして、ティーチと申します。こちらがイルミちゃんの今年の警護役だね?」

「はい。Sランク冒険者なので腕は確かだよ!」

「そうかい。皆さん、イルミちゃんをお願いしますね」

「お任せ下さい。イルミさんは命を懸けてお守りいたします」


 ティーチの言葉に、シェイズは深々と頭を下げる。

 その後も何人かの、要人と挨拶を交わし、イルミたちはここでの要件を済ませていった。



「ふあぁ~、挨拶するだけとか、退屈すぎて欠伸が出るぜ」

「そうなんだよねー、でも体裁ってものがあるからこれだけはやっとけってお父さんがうるさいから仕方ないんだよー」

「(そわそわそわそわ)」


 両の手を後頭部に当てて歩くドミノに、イルミは面倒くさ気に答える。


「【シジマ連合組合】の組合員、思ったより少ない」


 ポツリとそう言うのはエル。確かに彼女の言う通り、イルミが挨拶を交わしたのはティーチを含めて五人。組合連合という割にはどうにもその人数が少なかった。


「ここにいるのはごく一部の組合員だけだよ。別に『大オークション』だけが一大イベントじゃないからね。こうしている間に他の組合員は世界中でお金のために奔走してるってワケ」

「なるほど」

「(そわそわそわそわ)」


 イルミの説明にエルは納得の意を示す。


「ってことは、アイツらが当日のオークションを回すってことか」

「最高責任者的な意味ではそう。細かい役割分担は知らないけど、オークションの司会とか物品管理を信用の置ける人を使ってするんだよ」

「(そわそわそわそわ)」

『……』

 

 説明をするイルミ、それを聞く【竜牙の息吹】メンバー、その誰もが一人の少女に視線を注ぐ。


「リンゼ?」

「な、何エル!?」


 名を呼ばれてリンゼは「はっ」として目を見開く。どうやら心ここに非ずといった感じである。


「ト、トイレ……?」

「ち、違うよウーリャ! トイレだったらすぐに行くし、我慢している恥ずかしい姿をスーちゃん以外に見られたくないもん!」

「余計な情報は言わなくていい。ならどうした?」


 シェイズの言葉に遂に我慢できなかったのか、リンゼはイルミに向かい合った。


「イルミさん! 私スーちゃんの所行っていい!?」


 目をキラキラと輝かせるリンゼ。


「ダメー」

「えぇ!? 何でぇ!?」

「そんなのまだ私の要件が終わってないからに決まってるでしょー。この後【クレパス大商会】の代表としてちょっと、会合と言う名の生産性の無いお食事会に参加しなきゃいけないの」

「そんなぁ……」


 ガクリと肩を落とすリンゼ、それを見ながらイルミは思う。


 この子といい、エリーザといい、皆あのスパーダって人にご執心。私はあんまり魅力に思わないけど、一体彼の何がそんなにいいんだろう。


 それは素朴な疑問、好意ではなく純粋な好奇心。そして、即座にそれは嗜虐心に変貌した。


 ふふ、スパーダ……やっぱりエリーザをからかう玩具に使えそう。


 ほくそ笑むイルミ。一瞬だったその悪顔は、リンゼはおろか【竜牙の息吹】の誰も気づくことは無かった。



「ウヘェー」


 リンゼがショックを受けている同時刻、十数メートル離れている建物の屋上から、統括理事局を見るバーガーとムオーの姿があった。


「ったく、厳重な警備だな。運営側の情報を掴むために監視を続けろって団長から指示されたが、これじゃあ何にも分かんねぇぞ」


 双眼鏡を除きながらムオーは呟く。


「ナァ、ムオー」

「あぁ? 何だよ……」

「ダンチョウはなんで、こんな回りくどいことすんだろうな?」

「はぁ?」


 バーガーの素朴な疑問に、ムオーは顔をしかめる。


「ダッテよぉ、三日目の剣が欲しいってんなら……最初から統括理事局を襲撃して、全部奪っちまえば良いじゃねぇか。それなら騎士や冒険者とも戦闘になるし、ドンドフも文句言わないだろ」

「それは、まぁ……そうだな。って馬鹿かお前は」


 確かに、バーガーの言う通りである。最も確実で、全てを手に入れる方法は……統括理事局を襲撃し、オークション品を管理している倉庫の場所を特定し、中身を全て強奪すること。

 が、それは物事を単純に考えればの話だ。


「そんな大規模で大それたことをすれば、当然【シジマ連合組合】が黙ってねぇ。大量の騎士と冒険者から俺達は狙われる。ソイツら相手にオークション品を奪うってのは、かなり難しいだろうが」

「アー、確かに」


 ムオーの説明にバーガーは「うんうん」と頷いた。


「満足したか。分かったらさっさと理事局の監視を続けろ」

「ホーい」

「……」


 再び監視の任に戻るバーガー、その背中を見ながらムオーは思う。


 ま、実際の所……団長に何か裏の目的があるのは間違いねぇけどな。


 そんな確信がムオーにはあった。


 作戦を実行するなら三日目に襲撃を掛ければいいはずだ。剣一本だけなら容易に奪うことが出来るし、守り切るのも簡単。会場を直接襲撃して騎士や冒険者と交戦になるからドンドフも文句は言わない。

 二日目から作戦を実施するのは、団長ができる限りオークション品を回収したいから。団長の蒐集癖はすごいからな。

 ――――が、それにしたってやり方が回りくどすぎる。


 何かある……団長は俺たちに言わずに、別の何かを見据えてる。


 そう考えるムオーだが、彼は思考を中断した。

 理由は単純明快……無意味だからである。


 団長が何か隠しているからなんだ、団長が何か別の目的を持っているからなんだ。

 俺たちは【ノーネーム】、奪い殺す集団……そして、団長の手足。


 余計な詮索は不要にして無用。おさのために全力を尽くす、ムオーたちにとって、指示された作戦を遂行する理由はそれだけで十分だった。

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◇◇◇

小話:

ティーチは多数の妻をめとっていましたが、既に全員他界されています。

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