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第十四話 競売街道 前

 その後、エリーザも起床した。

 俺たちが身支度を整え部屋から出ると、偶然にもイルミさんたちと鉢合わせ、俺たちはそのまま一団となり食堂へと足を運んだ。


「今日、私はスパーダの要望で一緒に競売街道に行くわ」

「競売街道ー? 何じゃそれは?」


 ガツガツと朝食を胃に入れながら、ゼノは聞く。


「あぁ、それはな」


 俺はゼノに説明した。競売街道のこと、そして俺がそこへ行きたい理由。


「ほーん、面白そうじゃの! 儂も行く!」

「ちっ……」


 昨日は祭りの屋台を食いつくすため別行動をしていたゼノだが、今日は一緒に行くらしい。それに対し、エリーザはゼノに聞こえない程度に舌打ちをした。


「競売街道かー、面白そうだけど私は行けないのよねー」


 至極残念そうに言うイルミさん。


「それはまた、どうしてですか?」


 少しばかり気になった俺は何となく彼女に聞いた。


「今日は『大オークション』を主催する運営に挨拶に行かないといけないの。【クレパス大商会】はかなり密接な関係だから断れなくて。社交辞令なんて私できもしないのにねー。あはは」


 ケラケラと笑うイルミさんだが、そんな重役の人たちとの顔合わせで何か下手なことを言うのではないかとこっちがドキドキする。


「運営って確か、【シジマ連合組合】よね」

「うん。そうだよ」

「エ、エリーザ。その【シジマ連合組合】ってのは何だ?」

「世界中の名だたる商人や金持ちが互いの利益のために手を取ってできあがった胡散臭い団体のことよ」

「胡散臭いだなんて辛辣だなーエリーザは。まぁ胡散臭いんだけどね」


 胡散臭いのかよ……。


 思わず心の中でツッコんでしまう。


「でもそれでいいのいいの。商人や金持ちなんて大体胡散臭いものだから。黒い噂が流れるくらいが正常なんだよ!」


 とんでもないことを口走るイルミさんだが、それが本心で言っているということは彼女の態度が如実に示していた。

 しかし何故だろう。何故かそれには説得力があり、まるでそれが真理なのではないかと錯覚する程だ。

 

「まぁそれはそうね。連合組合の恐ろしさは裏社会の間では常識、だから彼らが開催する『大オークション』を襲撃しようなんて輩は今まで一人もいないもの。抑止力としては上等よ」


 なるほど、黒い噂や悪評ってのがそういった奴らの行動を未然に防ぐのにも役立ってるのか。

 

 エリーザもイルミと同じ立ち位置を取って発言する。二人の言葉で、俺の考えも完全にそちら寄りになりかけていた。


「でもあれだよね。表でも裏でもきれいなのが一番だよね」

「……あぁ、まぁそうだな」


 しかし、何気無いリンゼの一言で俺は我に返る。

 アブねぇ……危うく思考回路がエリーザたちに近づくところだった。


 ロクデナシの俺が今更何をと、一瞬だけ思ったが……下卑た考えは即座に頭から消す。

 それはそれ、これはこれだ。


「イルミさん、私もスーちゃんと一緒に行っていいですか!?」


 イルミさんが運営へと挨拶へ向かうなら、当然リンゼも彼女に同行せざるを得ない。つまり、リンゼと今日は別行動。が、それが嫌だったんだろう。リンゼは前のめりでイルミさんに申し出る。


「えー、いいよーって言いたいけど私が行きたくない所に行くのにリンゼが好きな所に行くのは許せないかなー」


 リンゼの申し出を、イルミさんは断る。まぁリンゼを含む【竜牙の息吹】は彼女の護衛クエストを担っているのだから当然と言えば当然なのだが、断る理由が何とも自分本位だった。


「ふっ、残念だったわね。貴方は黙ってそこにいるいけ好かない女の子守でもしていればいいのよリンゼ」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!!」


 得意げに鼻を鳴らしコーヒーを飲むエリーザを尻目に、リンゼはプルプルを体を震わせる。

 まぁ……何はともあれ、それぞれの今日の予定が決まった。



 朝食を食べ、ホテルを出た俺とゼノ、サイカさんとバーガンディさんは、昨日エリーザの言っていた場所へ向かった。


「ここね、バーガンディ」

「はい。ここが『競売街道』、五つの通りからなる街道の総称で、通りはそれぞれ『赤の道』、『青の道』、『緑の道』、『黄の道』、『黒の道』と呼ばれています。ここもまた【シジマ連合組合】の管轄下にある場所です」

「す、すごいな……」


 俺は周囲に目をやる。『ブルーノ』自体相当賑やかなのだが、ここはそれとは別種の喧騒があった。

 何というか、人の欲望が渦巻いているというか……。


「ほら、スパーダ」

「ん?」


 エリーザが指差す方向に、俺は目をやる。そこには、何やら高そうな骨董品に集まる人の群れがある。


「あれがオークション、形式は……公開入札方式ね」

「こ、公開入札方式……?」


 あまりにも聞き覚えの無い用語に俺は目を点にした。


「公開入札方式は、公開の場所で行われる競りよ。少し見ていなさい」


 エリーザに促されるように、俺はその公開入札方式を取っているらしいオークションを注視する。


「はいはいはい!! それじゃあ二十から!!」

「三十!!」

「はい三十!! 上は無いかーい!?」

「四十!!」

「四十五!!」

「五十!!」


 何やら男たちの言葉にする数字が大きくなっていった。


「お、おいアレって金のことだよな?」

「そうね。位は万」


 つまり、二十万ネイスから競りが始まり、三十、四十、四十五、五十と価格が吊り上がっていったということか。


「七十!!」

「おぉ七十が出た!! 他に、他にはいないか!!」


 五十から一気に跳び七十万ネイスを提示する男。取り仕切っていた男は七十万ネイスを越える額を言う人物がいないかを確認する。

 が、それに該当する者は現れなかった。


「ロトスヱの絵画、七十万ネイスで落札!!」


 取り仕切っている男は高らかにそう宣言した。どうやら、競りが終わったらしい。


「あれが公開入札方式の特徴。入札者が互いに提示価格を知ることができる、その上で最終的に最も高い価格を提示した入札者が落札……その品を手に入れる。明日行われる『大オークション』もこの方式よ」

「へー……」


 初めて見るオークションの模様に、俺は関心の声を漏らす。


「さ、次へ行きましょう」

「お、おう……」


 どうやらここでの話は終わったらしい。バーガンディを先導させる形でその後ろを歩くエリーザの後を、俺は追いかけた。

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◇◇◇

小話:

競売街道は商人でなくとも、個人でオークションを開催することもできます。

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