第十三話 これが俺の日常 新
「んぅ……」
『ブルーノ』に来てから一日が経過、俺は初めてここで睡眠をして、起きた。
まぁ起きた、というか正確には……起こされたが適切だ。
「えへへ~……スーちゃぁん」
「……」
「ぐぅ~、すぴぃ……もう、食えんぞぉ……」
二人の少女と一人の幼女に体を巻き付けられている俺は、その圧迫感で目を覚ました。
「ふん……!!」
歯ぎしりをし、俺は勢いよく起き上がろうとするが、まるで体の上に岩を乗せられたのではないかと言わんばかりに俺の体はびくりとも動かなかった。
このスイートルームにあるベッドは二つ。一つはゼノと俺、もう一つはエリーザだった。一部屋に三人泊まっている以上、これは仕方の無いこと。
だが問題なのは、俺の寝ているベッドにエリーザが寝ており、更にはリンゼまでもがいることである。
――――どうしてこうなった……。いや、分かるけども……。
俺は昨夜のことを冷静に振り返ろうとするが、振り返るまでも無いことは明白だった。
簡単に言えば、エリーザは隣のベッドから俺のベッドに、リンゼは俺たちの部屋に侵入しそのまま入室したということだろう。
いや、ここホテルのスイートルームなんだけど!? セキュリティどうなってんだよ!!
声を上げて叫びたくなるが、朝ということもあって声は出ない。当然助けを求めることもできない。
そう思い絶望していると、部屋のドアがガチャリと開いた。
「おはようございます。エリーザ様」
「おはようございます。スパーダ様、ゼノ様」
入って来たのはバーガンディさんとサイカさんだ。それぞれ執事服とメイド服に身を包み、どうやら俺たちをお起こしに来てくれたらしい。
「すみませんサイカさん。いつものやつ頼みます……」
「了解しました」
サイカさんは俺の意図を理解すると、ゼノとリンゼを持ち上げた。数週間ぶりに見る懐かしの光景である。
二人分の拘束が解かれる。エリーザは万力の力で俺の腕を掴んでいるわけではないため実質的に俺は完全に自由を取り戻したと言っていい。
「ふぅ……毎度毎度すみません」
息を吐き、上体を起こす。
「いえ、私はスパーダ様とゼノ様のメイドですから」
「んぅ……」
サイカさんとそう言葉を交わすと、エリーザが俺の服の裾を掴んできた。
何だろう……起床に関してだけ言えば、ゼノとリンゼと比べてエリーザの方が遥かにマシに感じる。
「エリーザ様、朝ですよ」
そんなことを思っていると、エリーザの従者であるバーガンディさんが彼女に声を掛ける。
しかしそれに全く耳を貸す様子は無く、未だ「すぅ、すぅ」と寝息を立てていた。
「ははは、どうやらスパーダ様と一緒に同衾したことですっかり寝付いていますね。こんなに安心しきった主の顔は初めて見ますよ」
エリーザの寝顔を見たバーガンディさんは目を細め、自分の主の安眠姿を眺める。
「はぁ……ったく、にしてもリンゼの方はどうやってここに入って来たんだ。鍵も掛けたのに」
「あぁ、それは私が鍵を渡しました」
「えぇ!?」
とてつもなくあっさりとしたバーガンディさんの白状に俺は驚く。起きたばかりだというのに喉はやけに高鳴った。
「私の滞在している部屋に彼女が来ましてね。『スーちゃんの部屋に入りたいから鍵を貸してください』と言われました」
「そ、それで……貸したんですか……?」
「はい。貸さないと鍵を壊し無理やり入るのではないかと少し危惧しましたので。そうなってしまっては主を鍵の掛からない不用心な部屋で寝かせることになり、ドアの修理を後で請求されるのは面倒だと考えましたので」
至極まっとうな考えから、当然のことをしたかのように言うバーガンディさん。
そもそも第三者に部屋の鍵を渡すこと自体セキュリティ的な問題があるんじゃないのかとツッコみたくなったが、恐らくリンゼを信用しての行動だろう。にしても疑問が残るが。
まぁとにかく、これで疑問の答えが分かった。
「ん~、スーちゃん……おはよう……」
「おう、おはようリンゼ」
サイカさんの腕で目を覚ましたリンゼが、眼をこすりながら寝ぼけ眼で俺を見る。
「あー、おはようございますサイカさんも」
「はい。おはようございますリンゼ様」
「ふふぅ、サイカさんに起こされるのは久しぶりですね~」
「はい。私もこの感覚を懐かしく思います」
恐らくまだ意識の半分程度が微睡みの中にあるリンゼと、既に脳が完全覚醒状態にあるサイカさんはそれぞれの言葉にそのやり取りを懐かしむ。
「……」
ゼノ、リンゼに加えエリーザ。束の間の平和な日常の中に、新たな面々が加わったのを俺は再度実感した。
「っし!」
両頬を軽く叩く。それは自身の脳を活性化させるため。
明日からいよいよ『大オークション』だ。それに向けて、俺も少しでもできることをしねぇと。
そう考えた俺は、今日の予定……競売街道へ行く決意を更に固めた。
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小話:
エリーザは朝低血圧なのですがスパーダと寝ると機嫌が良いようです。