第十一話 【ノーネーム】 後
「ここに集められた時点で、勘のいいお前らなら既に察していると思うが、今回の盗みは『大オークション』で行う」
「はは! 腕が鳴る!」
ドンドフはかなり乗り気な様子で指を鳴らす。
「それで、今回の獲物は? 団長」
そう聞くのは、カンパネギア。彼女の問いに、イタンシンは「ふっ」と笑う。
「『大オークション』は明日から三日間。俺たちが狙うのは、その三日目に出品される、一本の剣だ」
「剣か。それは何か特別な代物なのか?」
ムオーが聞く
「あぁ。千年以上前からある太古の遺物だ。今回出品される品の中で最も希少価値が高い」
「ほう。団長が言うならば、間違いないのだろうな」
腕を組み、サシタは言った。他の者たちも特に異を唱えるような者はいない。
「剣……? そ、それだけかよ……?」
――――ただ一人、ドンドフを除いては。
「あぁ、それが最優先……お前らが今回、命を懸ける宝だ」
イタンシンがそう言うと、先程まで煌びやかな表情だったドンドフの顔にどんどん暗い影が差し込んでいく。そして痺れを切らすように彼の限界は来た。とても早く。
「……おい団長よぉ!」
「ん、どうしたドンドフ」
何やら不満げに拳を握りしめるドンドフに、イタンシンは問う。
「つまり俺たち全員を集めてするこたぁ、剣一本盗むだけってのかぁ?」
「……」
「俺はよぉ、待ってたんだぜ? アンタが招集を掛けんのを……」
「落ち着きなよドンドフ」
「うるせぇチュルラ! てめぇは黙ってろ!!」
「おぉ怖……」
「俺がアンタに従ってんのはアンタが俺を楽しませてくれるからだ!! さっきから言ってる話、俺は退屈で死にそうだったぜ! そんなモン他の奴らにやらせときゃいいだろうが!」
「ドンドフ。それ以上の団長に対する暴言は看過できないぞ」
「あぁ!? なら力づくで止めてみるかぁ……?」
制止を図るボルカノと、ドンドフの眸が交錯する。一触即発、あと少し何か微量な変化が起きれば互いを消し掛けてしまいそうな雰囲気だ。二人はゆっくりと互いに向け歩み、その距離は一メートルを切ろうとした。
「二人共、まだ団長の話が終わっていないわ」
するとボルカノとドンドフの間に、物理的にフィオネが入る。いつの間にあの場所から、そこへ来たのか、視認できないような速度で。
そして、彼女の行動はそれだけでは終わらなかった。ボルカノとドンドフにそれぞれ右手と左手で触れる。
――――瞬間、
「っが……!!」
「っ……!!」
フィオネに触られた二人は、反発しあうように吹き飛ばされ、それぞれ逆方向の壁に体がめり込んだ。
「フィオネ……てめぇ……」
「相変わらず、凄まじい魔法だな……」
「うるさくしかできないのなら、そうしていなさい。さぁ団長、話の続きを」
ドンドフの恨み言と、ボルカノの称賛を無視し、フィオネは再びイタンシンに目を向ける。
「全く、本当にお前らは我が強いな。まぁ、だから選んだというのもあるが」
こめかみに指先を当て、イタンシンは言った。
「ドンドフ」
「あぁ……何だよ、団長……」
「俺がいつ、剣「だけ」を盗むと言った?」
「は……?」
「確かに、三日目の出品される剣を盗むのは最優先事項だ。今回はそれを起点に作戦を組む、よって下手な動きはなるべく防がなくてはならない。お前が人を殺したり暴れたりしたいのは重々承知しているが、そこは譲れない……すまない」
「……!! はっ、なら今回の任務、俺は抜けさせてもらうぜ!」
そう言ってドンドフが今回の件から手を引こうとしたその時、狙いすましたかのようなタイミングでイタンシンは言った。
「……だが、それは一日目だけだ」
「あぁ……?」
「いいか、よく聞け。俺たちの最終目的は……二日目と三日目の、オークション全品の強奪。加えて、必要に応じてそれを阻む奴らの殺害だ。恐らく、金持ちはSランク冒険者や名を馳せた騎士を護衛として付けている。相当に殺し甲斐はあると思うがな。……これでも、まだ不満か……?」
イタンシンの目的は、魔剣の回収。これは絶対だ。これは確実に達成する必要がある。だからこそ、彼は一日目のオークション品を放棄した。それは彼にとって断腸の思い、しかし……それ以上に、彼にとって魔王への手掛かりは最重要なのだ。それは魔王幹部として当然の思考。
だから魔王幹部としての責務と、自身の欲望を可能な限り叶える合理的な選択をしたのである。
しかし、そんな思惑はドンドフどころか他のメンバーにも言えるわけがない。だから、イタンシンは真摯に言葉を投げ掛けるのだ。
「……」
「気に入らないなら、参加しなくていい。後はお前が決めろ」
イタンシンのダメ押しにドンドフは無言になる。だが数秒後、彼は笑った。
「くく……はは、はははははは!! いいねぇいいねぇ!! いいじゃねぇかよぉ団長!! 殺して、奪う。奪って、殺す! それも大量に!! 最初にソレを言ってくれよ! 変に突っかかっちまったじゃねぇか!! はは! それでこそ俺たち【ノーネーム】のリーダーだ!! 惚れ直しちまったぜぇ!! そういうことなら構わねぇよ、一日お預け食らった分、二日目と三日目沢山暴れられるってんならなぁ!」
めり込まされた壁の瓦礫を押しのけ、ドンドフは再びその二本の足で立つ。
「ホントウに単純だ。あのバカは」
「ま、それがアイツのいいとこだろ。あの後先無しの性格は、羨ましいぜ」
そんな彼の様子に、ムオーとサシタは苦笑する。
「ったく……これじゃあ俺が叩きつけられ損だ……」
ドンドフと同じく、壁内から離脱したボルカノは体に付着した砂汚れを払った。
「他のメンバーも、異論は無いな?」
イタンシンのその問いに、異を唱える者は誰一人としていない。
「よし、なら……これから作戦の概要を説明する」
そう言って、イタンシンの話は本題へ入った。
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小話:
ドンドフはオーガの里を追放されたところをノーネームに勧誘されました。