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第九話 大食い対決

「ふっふーん。この祭り気に入ったぞ、メシが美味い!」

「それは良かったです」


 スパーダたちがレストランでグラコスとラエルと邂逅していた同時刻。

 ゼノはサイカを引き連れ、未だに祭りの喧騒の中にいた。


「さぁーよってらっしゃい見てらっしゃい!!」

「む?」


 するとその中で一際大きい、野太い声がゼノの耳に届く。

 本来ならば気にならないゼノだが、祭りの華やかさに充てられたのか、足をそちらへ向けた。

 しかし、


「み、見えん……!!」


 ゼノの目の前に広がるのはゼノよりも身長が高い男たちばかり、その壁を前にしては、ゼノの身長では先の光景を見る事が叶わなかった。


「くそ! この有象無象共め!!」

「ゼノ様」

「む? おぉ! 助かるぞサイカ!」


 腹を立てるゼノに対し、膝を曲げ、屈む態勢を取るサイカ。その意図をゼノはすぐに理解する。


「とう!」

 

 本日二度目の肩車、一度目はスパーダであったが、今回はサイカだ。


「おぉ! 視界が上昇する!! これが頂きの景色か!!」


 サイカの身長は一般男性の平均身長程度、そこにゼノの上半身分の高さが加わり、ゼノの視界は一気にこの場の巨漢たちと並ぶ。


「して……何をやっとるんじゃあれは?」


 ゼノが見るそこには椅子がそれぞれ二つずつあり、そこに座る二人の巨漢が机の上にある膨大な量の料理を次々と口に運んでいた。


「メシを食っとるだけか? それが何故こんなに人間を集め盛り上がっとるのだ?」


 あまりにも馴染み無い異様な光景に、ゼノは思わず首を傾げる。


「あれは「大食い対決」というものですね」

「大食い対決……?」

「はい」


 サイカは頷いた。


「時間内にどちらが多く食べられるかを競う競技です。ルールが多岐に渡るので、今行われているアレが私の言ったオーソドックスなものかどうかは分かりませんが」

「ほぉー」


 言われ、ゼノは再び勢いよく料理を掻き込む男たちに目をやる。


「おぉ! 早い!! ジロウ選手、ここで一気にスパートを掛けてきたぁ!! そして負けじとタヌマ選手も追い上げるぅ!!」


 司会の男が唾を飛ばしながら、白熱する対決を解説し、周囲の観客は一気に沸き上がった。

 そして約五分後、勝負は決した。



「さぁさぁ!! 次は誰が挑戦する!? 誰でも参加大歓迎だぁ!! 勝負は簡単、このジロウと十分間でどれだけ多く料理を食べられるか競い合い、食った量の多い方が勝ちの単純明快なルールだ!! コイツに勝てば、この『ブルーノ』のマスコットキャラクター、アキナイ君の人形と賞金百万ネイスをプレゼント! 負けたら罰金五万ネイス!!」


 勝負が終わると、司会は場を整え、再び対決の再会を告げる。


「何ィ!?」


 その賞金の高さに、ゼノは目を見開く。

 人形の方は心底どうでもいいが、金の方は気になった。


「おいおいアイツもう二十人抜きだぜ……」

「胃袋どうなってやがんだよ……」


 すると周囲の観客はひそひそとそんな事を口々に言い始める。


「どうやら、あの男はかなりの大食漢らしいですね。一回の対決であの量であれば、二十回分ともなれば相当な量を胃に収めている事になります」


 冷静にサイカが告げる。


「これなら場が白熱するのも理解出来ます。相手は休まずに連戦を続けている。そろそろ限界が来る、そう考えた人がこぞって挑戦するのでしょう」

「ふむ」


 顎に手を当て、少し思案するゼノ。そして次の瞬間、彼女は言った。


「よし、出るぞ! サイカ!」

「了解しましたゼノ様」


 ゼノの意思に応えるように、サイカは跳躍する。並み居る男たちを飛び越え、食の戦場へと着地した。


「おぉっと!? 空から可愛いメイドさんと……子供?」


 流石に視界も驚いたのか、その言葉尻には困惑が含まれる。


「おいお前、儂が挑戦する!」

「……ははは、お嬢ちゃん。流石にそれは無謀ってモンだぜ? 女で、しかもまだ子供じゃないか。頑張ってもせいぜい一皿が限界だろうよ。そっちのメイドさんの方がまだ可能性があるって」

「そうだぜ。悪い事は言わねぇ。子供はさっさと……」

「黙れ。儂が、挑戦すると言っている」

「「っ……!?」」


 バカにされた事に少しばかり腹を立てたゼノが発した眼光。それに、司会の男とジロウは一瞬体が硬直した。


「こ、子供だろうが負けたら罰金だからな……?」

「ふん、安心せい。儂は負けん」


 言いながら、ゼノは先程の挑戦者が座っていた席に腰を下ろす。そして舞台の袖から出て来たスタッフのような男たちが机の上に大量の料理を運ぶ。


「……どうなっても、知らないからな……じゃあ、カウントいくぞ!」

「待て」

「あぁ!? 何だよ!!」

「おい、このジロウは既に二十回連続で戦っているんだよな?」

「あ、あぁ」

「そ、それがどうしたんだよ?」

「ならそんな奴と戦っても面白くない。まず儂が二十回分の量を食べる。本当の対決はそれからじゃ」

『……』


 ゼノのそんな発言に、流石の司会も苛立ちを通り越し、口をあんぐりと空け唖然とした。

 そして周囲の観客も同様に、無言の静寂が続く。次の瞬間、


『ははははははは!!』


 観客も含めた大爆笑が巻き起こった。


「おいおい嬢ちゃん! 何バカなこと言ってんだよ!」

「そんなちっこい体じゃあ入らねぇって!」


 ゲラゲラと野太い男たちの声が跋扈する。


「……」


 それを意に介すことなくスプーンを持ったゼノは、


「あむ」


 一瞬で、卓上の料理が消失させた。


『……』


 唖然だった司会たちは、呆然とする。当然だろう。まだ年端もいかないような見た目の幼女が大の男でも音を上げる可能性が十分にある量の品をまるで吸い込むようにして口に掻き込んだのだから。


「むしゃむしゃむしゃ……」


 リスのように大きく頬を膨らませたゼノは、料理を味わうように咀嚼する。


「ごくん」


 そして喉を鳴らすようにして、一気に飲み込んだ。


「ほれ、早く次を持って来い」

「……」


 あまりの神業に司会も、ジロウも、周囲の観客も目玉が飛び出すくらい大きく瞼を開け、顎が外れるのではないかという程に口を開けていた。


「おい」

「は、はい! は、早く持って来い!!」


 再び襲来するゼノの眼光、全身に身の毛のよだつ寒気を感じた司会は反射的にその場の最善手を選択する。

 その後、瞬く間にゼノは挑戦者約二十人分の量の料理を綺麗に平らげた。


「ほれ、こっからが勝負じゃ。準備せい」

「へ、は、はい!」


 何故か敬語になるジロウは震える手でスプーンを持つ。

 そして正々堂々、真っ向からの勝負のゴングが鳴った。


 ――――十分後。


 強かった。ジロウは本当に強かった。人間の中でなら、世界で数本の指に入る大食漢だろう。

 現に、二十連戦をしていても、彼のスプーンを持つ手が止まることは無かった。

 しかし……相手が悪い。


 ジロウの倍以上のスピードで、倍以上の量を食べ進めるゼノに、叶うわけがない。

 途中、ジロウは戦いの中で限界突破し、大食いの更なるステージへと至ったが、それでもゼノには勝てなかった。


「うぶぶぶぶぶぶぶ……」


 限界突破した代償か、ジロウは泡を吹き、白目を剝いて机に倒れ伏した。


「しょ、勝者……えーっと、お名前は……?」

「がっはっはっは!! 儂の名前はむぐぅ!?」


 ゼノが自分の名を大声で言おうとしたその瞬間、サイカはゼノの口に手を当てる。


「セノ様です」

「セ、セノ……。じゃ、じゃあセノ様にはこの賞金百万ネイスとアキナイ君人形を贈呈ー!」


 カラ元気で、司会は叫ぶ。

 商業都市『ブルーノ』、その一角で凄まじい熱気がその場を包み込んだ。

 幼女フードファイター「セノ」誕生の瞬間である。



「おー、賑やかだなぁ」


 大食い対決会場から放たれる熱気を、建物の屋上から見下ろす一人の男の姿がある。


「サシタ」

「ん……?」


 するとそこに、暗闇から浮き彫りになるように更にもう一人の男が現れた。


「おーボルカノ」

「久しぶりだな。二年ぶり、くらいか……?」

「あーそうだな。最後に一緒にやった盗みは……そうだ、隣のリオル帝国の辺境領主を拷問に掛けて殺して、宝の在り処を吐かせたのが最後か」

「あぁ、俺もその記憶が一番新しい」

「ははっ、にしても久々に今回は全員揃うんだな」

「誰も変わっていなければいいが……」

「別にいいだろ変わってても、そいつが弱かっただけの話だ」


 何やら物騒な会話を繰り広げるサシタとボルカノと言う名の男たち。

 ――――波乱の幕開けは、すぐそこまで来ていた。

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◇◇◇

小話:

ジロウは別に魔法を使っている訳でなく純粋な大食漢、生粋のフードファイターなだけです。

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