第八話 新たなSランクパーティー その2
101話目!
「ダーリン……」
「ハニー……」
何故か、グラコスさんとラエルさんは俺たちへ向け自己紹介を済ませると次の瞬間、互いに熱い視線を向け始め、倒錯した二人の世界へと没入しようとしていた。
「ちょ、ちょっとちょっと!」
慌ててそれをドミノが止める。あの快活な男がこうして制止の体勢に入るとは中々に目の前の夫婦は強烈な存在感を放っている。
「おー悪い悪い。ハニーが可愛すぎてな。思わず俺の眼が奪われちまった」
「ごめんね。ダーリンが凛々しすぎて、私の脳内神経から眼球をダーリンの方へ動かすように指令が出ちゃったの」
二人とも、言葉は違うが言っていることは同じだった。
うん、まぁ……何というか、すごい。見ていて胸焼けしそうなほどのイチャイチャぶりである。
「はは、面白いわねあなたたち。確かSランク冒険者リストで名前を見たわ。あなたたちにも護衛依頼を送ったけど」
「あーそうだったんすか。それは申し訳ない。悪いんですが、俺たち護衛とかそういうクエスト受けないようにしてるんですよね。ハニーとの間には、人一人虫一匹入れないようにしてるんで!」
「もー、ダーリンったら恥ずかしい」
「てへっ、悪い悪い!」
本当に凄まじい。
人の目を気にすることなくグラコスさんとラエルさんの周りにはピンク色のオーラと花すら見える気がした。
「ははっ! 面白いわねあなたたち。いいわいいわ、そのままのあなたたちでいて!」
ケラケラと笑い、イルミは面白がるように手を叩く。
多分、彼女は面白ければ何でもいいのだろう。
グラコスの軽口にシェイズは深々と頭を下げる。
「初めましてグラコスさん、ラエルさん。【竜牙の息吹】でリーダーを務めています。シェイズと申します。以後お見知りおきを」
「おぉ、お前がそうか。かねがね噂は聞いてるぜー、今ガンガン実績を上げてる期待のSランクパーティ。かー、ハニーの情報が頭を埋め尽くしている俺の頭にまで情報を届かせるとはやるなぁ」
「いやー、もうダーリンったら」
「恐縮です」
シェイズは深々と頭を下げた。
何というか、一か所に個性の塊のような人物が集合し、とてつもなく混沌とした空間が出来上がっている。
そんな中、リンゼやエリーザは何をしているかというと……。
「ダーリン、ハニー……。いいかも……」
「見習いたいものね」
あの夫婦の熱に充てられ、非常に宜しくない思考に至っていた。
「お待たせしました」
すると、この場の空気を一変するように、店員が俺たちの注文した料理を運んでくる。
「一先ず食べましょう。互いの身の上話はそれからもいいでしょ?」
イルミのそんな一言で、俺たちは料理に舌鼓を打つことにした。
◇
その後、グラコスさんとラエルさんもまた注文した料理を食べると、互いに満腹となり、話をする流れになった。
「お二人も『大オークション』が目的ですか?」
そう聞いたのは意外にもエルだった。ここまで会話に一向に会話に入っていなかったからなのかどうか、理由は定かではない。
「おぉ、そうそう。三日目に出品される『竜骨壺』が欲しくてな」
「へー。そりゃまたなんで?」
次いで質問するのはドミノ。
「ははっ、そんなもんアレがコレクションとして優秀だからに決まってんだろ」
グラコスさんはそう言って、酒の入ったグラスを仰ぐ。
「なぁエリーザ。『竜骨壺』っていくらくらいするんだ?」
「そうね……競売開始価格は一億ネイスって所かしら」
「一億!?」
あまりにも実感の無い高額っぷりに俺は目を見開いた。というか、いくらSランク冒険者と言ってもそんな金をポンと出せるのか。
そこまで思ったが、俺はすぐに納得した。
考えてみれば、集団序列十九位のパーティーに入っているリンゼが一軒家を買っているのだ。集団序列は十二位、個人序列も恐らく相当上位にいるであろう彼らならばそれくらいの大金はどうにでもなるのだろう。
「すごいっすね。『大オークション』に参加するってことは、他の金持ちと競い合うってことっすよね」
「ははっ、まぁ厳しいこともあるが……それは止める理由にはならないな。何てったって、俺たちの冒険者としての目的は珍しい宝を集めることだからな」
ある程度冒険者としての経験を積んだ者は、自分の立ち位置を定める傾向にある。
クエストをこなし、金を稼ぐことだけを考える者。
ダンジョンなどで未知の財宝を求める者。
俺で言う、「最高の冒険者になる」と言った目標のようなものだ。
「意外っす。夫婦でイチャイチャしてるだけかと思いました」
「ははははは!」
ドミノの素朴な感想にグラコスは笑う。
「ハニーとのイチャイチャは俺の人生、生涯を懸けての目的だっての」
「もーう、恥ずかしいよダーリン」
グラコスさんの言葉にラエルさんは頬を赤くして照れるが、その様子は満更でもなさそうだった。
「あ、あの!」
すると突然、リンゼが身を乗り出すように夫婦二人を見る。
一体何だろう? やはりSランク冒険者の先輩として何か聞きたいことがあるのだろうか。
そう思ったが、
「ん、どした?」
「そ、その……! お二人はどうやってそんなに仲が良くなったんですか!?」
リンゼの質問はそんなモノ全く関係の無いことだった。
「ほほう、つまり嬢ちゃんは俺とハニーの馴れ初めを聞きたいと?」
「いえ全然!」
「あれ? じゃあ何だよ?」
「今言った通りです! いや、正確にはどうやってお互いを惚れさせたんですか!」
「……ふふーん、リンゼちゃん。だっけ?」
「は、はい!」
何か察したような表情をするのはラエルさん。成熟した女性ゆえの妖艶さがそこにはあった。
「じゃあ今夜私たちの泊まってる部屋に来る? 私たちのお話、聞かせてあげる」
「本当ですか!?」
彼女の提案に、リンゼはキラキラと目を輝かせる。
「バカね」
ボソリと、エリーザはリンゼの耳に入らないような声量で呟く。
「シェイズさん! イルミさんの夜の護衛私できないからよろしく!」
「よろしく、じゃないんだが……」
リンゼの堂々とした職務放棄に、シェイズは額に手をやった。
「……あれ、そう言えば……」
グラコス、ラエル夫婦の強烈なインパクトに気圧されていた俺は、何か忘れているような気がした。
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◇◇◇
小話:
遂に出ました序列。
大量のキングゴブリン出現の回の小話であれらをどうにかできるSランクパーティーもいると書きましたが、それはこの序列の高い人たちです。