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グリーンスクール - 負けないで  作者: 辻澤 あきら
9/10

負けないで-9

 一週間ほど経過して、綾は正式に転校の手続きがなされた。深香山中学でも、綾の事情を心配しており、父親以外に保護者がいないことから、なかなか対策が打てなかったとのことだった。しかし、綾が家出して3日目に父親が傷害事件で逮捕されてしまった。綾は一度父親に面会に行ったが、父親には前科があったため、保釈はならなかった。しばらくは出てこれないということだった。結果として、学校側が正式に転校を受け入れたのだった。ただし、身元保証人としてはイチローのおばさんと緑ヶ丘学園の理事長がなっていた。

 こうして綾は正式に学園の一員になった。いままでしていたバイトを全部辞めるわけにはいかなかったのでクラブには入らなかったが、時間のある時にはイチローのトレーナーをすることになった。

 今日も自転車を借りて、イチローのジョギングに付き合おうと準備していた。体育倉庫からグラウンドの裏を抜けて、プールの横から自転車を出そうとしたとき、ひとりの男子が綾に声を掛けた。思わず見上げるような大きな男だった。

 ―――ねえ、あんた。イチローって知らない?

 ―――あ。知ってます。

 ―――へぇー、本当に有名人なんだな。ちょっと、呼んできてよ。

 ―――は、はい…。

 綾は自転車をそのまま置いたまま慌てて部室の方へ走った。イチローは、綾とのやっかみとクラブサボリの非難轟々の中、部室から飛び出したところだった。走ってきた綾を見てイチローは、

 ―――早く行こうぜ。あいつら、もてねえもんだから、うるさくって仕方ねえや。

 ―――それよりも、大変なの。何か、こわそうな人が、イチロー君を呼んで来いって。

 ―――こわそうなヤツ?

イチローがプール横から出ていくと、さっき綾に声を掛けた男が立っていた。

 ―――なんだ、オレに何か用か?

 ―――あんたが、イチローか。有名人だな。探す手間が省けたよ。

 ―――オマエどこの学校のヤツだ?

 ―――俺?俺は久野中学の橘っていうんだ。何の用かわかるな。

 ―――あぁ、あ、わかったよ。あのバカどものボスか?俺に御礼参りってとこかな?

 ―――バカ言え、そんな訳ないだろ。俺の用は、菜々子のことだ。

 ―――菜々子?…あぁ、島崎ちゃんか。あの娘がどうかしたの?

 ―――とぼけるんじゃねえよ。あの娘から手を引け!

 ―――はぁー?手を引けっ言われても、俺は一回会ったっきりだぜ。

 ―――うるせえ、だまそうたってそうはいくか!菜々子ちゃんはずっとお前の事ばっかり、待ってるんだ。いつまでも。あんないい娘をだましやがって。

 ―――オレがいつだましたんだ。冗談じゃない。

イチローは必死で弁明したが、後ろで綾がイチローの脇をつねっていた。

 ―――俺はお前みたいなやつが、許せねえんだ!

 そう言うなり橘はイチローに殴りかかってきた。イチローは咄嗟に綾を突き飛ばし、自分も飛んで逃げた。

 ―――お前バカか?いきなり殴りかかるやつがあるか?

 ―――何を、いつでもかかって来いって言ったのはお前だろ!

 ―――そりゃぁ、言ったけど、オマエに言ったわけじゃないって。

イチローは取り敢えず体勢を立て直すため逃げ出した。校内へ入り、狭い通路からグラウンドに入った。橘は負けずに追ってきた。広い場所では、身の軽いイチローの方が有利だった。訳なく足をすくい、ひっくり返した後、サソリ固めでギブアップに追い込んだ。

 勝利のポーズを取るイチローに綾は寄り添った。イチローは綾の肩を抱き寄せながら、

 ―――オレに勝とうなんて、十年早いわ。いつでも相手になってやる、また来な。ただし、菜々子ちゃんに言っておきな。オレには、このかわいいあやちゃんがいるんだ。そう伝えとけよ!

と言い放った。呆気にとられて見る橘はよろめきながら立ち上がって去って行った。残されたのは、真っ赤になって立ち尽くす綾と、声の出るかぎり野次りつづけるチームメイト。何の野次かと、隣のテニス部員まで寄ってきた。照れもせず喝采を受けているイチローに、近づく人間がいた。

 ―――イチロー。久しぶりにクラブに出てきたにしては、随分かっこいいじゃないか。

 ―――あ、監督。お久しぶりです。

 ―――どうだ、今日はじっくり練習につきあってやろうか?

 ―――いやぁ、オレは今日も自主トレに行ってきます。

 ―――待て。あわてるな、今日ぐらいは。そうだな、バッティングピッチャーをやってもらおうか。自主トレの成果も見てみたいしな。おい、みんな準備しろ!

 ―――え、いや、まぁ……。


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