表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崩壊都市黙示録  作者: Taki7888
1/1

01:『その男、不幸につき』

人生とは、上手く行かない時はとことん不幸が舞い込んで来るもんである。

元妻は財産を奪ってとんずらしやがった。最悪なのは娘二人を連れ去っていったことだ。

金なら又稼げばいいが、娘は駄目だ。そもそも、家事・育児してたの私だが。地裁に訴えても無駄だった。連れ去った者勝ちのこの社会を何とかせんとあかん。マジで。

次は全世界規模のパンデミックと来た。ただでさえ元妻のお陰で借金にまみれて首が回らないのに会社は新型ウィルスの猛威を受けて休業と来た。休業手当?振り込まれる前にストレスで腸に穴開いて死ぬかと思ったわ。その入院費と(元妻が)滞納してた保険料で消えたよ。給付金は各種支払いでサヨウナラ。


とりあえず、借金を少しでも減らす為に車と持ち家を売りました。今の私の城は家賃5万7000円のワンルームのアパートです。はい。


そろそろ非常事態宣言も解除されるかなー腹がまだ痛いけど仕事再開されないとマジで死ぬな―とか考えてたら、さらなる不幸が襲って来やがりました。


新型ウィルス、異変して感染者がゾンビ化しやがりました。しかも走る奴。



崩壊都市黙示録

01:『その男、不幸につき』



新藤誠、34歳。職業はしがないサラリーマン。ミリヲタで映画ヲタ。最愛の娘は二人(4歳と2歳。超かわいい)。なんちゃら虫垂炎で死ぬほど痛い目を見た。まだ腹痛い。

以上が私の自己紹介である。極々普通の不幸な男である。

そんな男が、TVで見てるのは走るゾンビでパニックに陥っている名古屋市内の映像である。

私が住んでいるのが名古屋市の隣にある尾張旭市。こいつはまずい。非常にまずい。

娘達を救けに行こうにも、あのバカ女の実家は稲沢市。ここからではどうしても名古屋を通らねばならん。

そもそも、情けない事に腹が痛くて満足に動けん。どうするべきか……


どうやって娘達を護るか考えながら処方された鎮痛剤と抗生物質のカプセルを飲み込む。

その間にもTVでは逃げ惑う人々や襲われる警官達の姿が流される。

外では緊急車両のサイレンが途絶えることはない。なんてこった。これ、現実だわ……



うだうだ悩んでもしょうがねぇ。そんな訳で、独身の頃に趣味で買った防刃繊維で編まれた戦闘作業服(カーキ色)とコンバットグローブ(SWATモデル。革製、プロテクター付き)、鉄板入り半長靴とネット通販で買ったコンバットナイフを隠し持って外に出る。

日が沈む直前の時間帯。夕日で空が紅く染まっているが、鳴り響く緊急車両のサイレンが非日常である事を示している。

何処からか、家の外に絶対に出ないで下さいと聞こえてくる。申し訳ない。非国民と罵られるのは甘んじて受け入れよう。私は娘が心配なのだ。

罪悪感に包まれながらも、足音を立てぬようにゆっくりとボロいアパートの廊下を進む。

今の所、人の姿は見えない。玄関扉の前を通る度にTVの音声が聞こえてくる事から室内に人はいるのだろう。

通路を抜けて、人気のない住宅街の路地を大通りに向けて進む。

徐々にサイレンと人々のざわめきが聞こえるようになってきた。


――なんてこった。俺は映画の撮影にでも出くわしたのか?

普段は多くの車が行きかう国道を警察車両が封鎖している。

車はその場に乗り捨てられ、多くの人々が警官の誘導に従って移動している。


『名古屋市内にて発生した暴動の影響により、現在この道路は封鎖しております。警察官の誘導に従って、指定された避難所へ速やかに移動してください。その際、車にはロックを掛けず――』


拳銃を右手に握りしめたまま、その警官は市民を誘導している。

その横では、他の警官達が、名古屋方面に向かって拳銃を発砲している。

その先には乗り捨てられた車の隙間からこっちに向かって走ってくる無数の人影。

――これはマジでヤヴァイ。俺は再び住宅街の細路地へと走った。



腹が痛い。超絶痛い。死ぬほど痛い。

100mも走れず、腹の痛みに耐えられなかった俺は人気のない一軒家の物陰に座り込んでいる。

サイレンが消えた。発砲音も、警官のスピーカーを通した声も消えた。

断末魔の悲鳴ばかりが聞こえる。

今も逃げてきた人がこの家の前を大きな足音を立てて駆け抜けていった。奴らが来るのも時間の問題だ、クソッタレ!

ナイフを右手で握りしめ、腹を押さえながらゆっくりと立ち上がる。クソ痛いが、このまま喰われて死ぬ訳にいかん。冷や汗を流しながら、一歩ずつ路地へと向かう。



「ヴァァアッァァァ……」


「あ、ご苦労様です」


思わずそう挨拶しちまった。警官ゾンビに。

路地に出たとたん、横に立っていた警官ゾンビは私の発した声で私を認識すると掴みか

かってきた。ガッデム!


「嘘だろ、ヲイッ!!放せっ!!」


「ヴァァァァァ!!」


「クサッ!コイツマジで臭い!腐ってやがる!」


左手で警官ゾンビの目を抉るが、痛みを感じないのか掴んだ両手を離さない。

幸いにも力は大したことがないので、腹に重傷を負っている俺でもなんとか対処できている。……一体だけならな。

警官ゾンビの背後には、数十メートル先で何十体とも思えるほどのゾンビに襲われる人々の姿が見えた。

時間を掛けたらヤバい。”俺”は右手に持ったナイフで警官ゾンビの米神を突き刺す。


「ヴァッ!!」


「……悪ぃな、俺もまだ死ぬ訳にはいかんのよ」


一瞬、痙攣した後に崩れ落ちるように倒れた警官ゾンビからベルトを抜き取る。

M360J。この警官ゾンビが引きずっていた拳銃だ。

警官ゾンビの死体を跨ぎ、移動しながら拳銃にに付けられていた紐をナイフで外し、ベルトは放り捨てた。

撃ち尽くした弾倉内の空薬莢を捨て、回収した予備の38口径弾を装填する。

俺が現役の頃だったら薬莢無くしたら大騒動だが今は関係ない。一般人だからな。

安全装置が解除されている事を確認し、両手で拳銃を構える。

まったく、10年経つのに身に叩き込まれた技能は体が覚えているもんだ。

そんな事を思いつつ、俺は国道へと一歩ずつ進む。

――照準の先には女性に襲い掛かる若い男性ゾンビの頭部。


発砲。


パン、という乾いた音と共に崩れ落ちる男性ゾンビ。


「民間の方はこちらへ走ってください!!残存している警官は近くの同僚をカヴァーしろ!防衛線を立て直す!!」


……畜生、大声を出すと腹が痛い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ