第8話 望見者育成所
本日2本目
「「「うちの子供は天才だぞ」」」
マールズとゾットとバルトはカップに注がれたエールを一気に煽ると、テーブルに叩きつけると同時にまくし立てた。
3人はうちの子供こそは神からギフトを得た天才と譲らない。
それはそうだ、10歳にして3年もの時間をダンジョンで、戦い、娯楽といえば読書を積み重ねて成長してきた3人は、一見すれば教えたことは何でも吸収する天才に見える。
実際には長く辛い時間を乗り越えた努力の賜物だ。
「いや、始めは冒険者なんて危ないから根を上げるだろうと厳しくやったんだが……」
「どうしたことか、しっかりと食らいついてついてくるだけではなく、光るものが有る……」
「1教えれば10返ってくるようで……本当に儂の子なんじゃろうか……?」
男衆3人は嬉しいような、格上の冒険者として父親の威厳を震えなかったことが寂しいような、なんとも言えない気持ちになりながら、二杯目のエールを飲み終える。
「……あの3年でなにかあったのか……」
「そうかもしれんな……だが……」
「無理に思い出させては危険じゃ、恐怖を忘れるための反応かもしれん」
冒険者の大人でも同様のことはある。
あまりにも酷い記憶を、心を守るために忘れてしまうこと……
そして、その記憶が戻ったせいで、心が壊れてしまった人を見たことがあった3人は、無理にそのことについては探らないようにしている。
村の人々も、そのことをよく理解している。
「育成所でいい成績を収めてくれれば、アイアンなんかはすぐに抜かれるな……」
「……俺達も、シルバーやゴールド目指すか?」
「いやいや、子どもたちがおるじゃろ。
確かに今の儂らならシルバー、ゴールドにも手が届くかもしれんがな……」
「夢は、子どもたちがきっと叶えてくれる。……か」
「何にせよ、子どもたちが帰ってきてくれて……自分の人生より、子供の人生が大事だと確信した俺たちに、冒険者という生き方は難しいな……」
「ああ、そうだな……」
「帰ってきてくれたからこそ、あの当時の冒険が、最期のしかし、最高の冒険じゃったな」
「かなり財も作れたし……」
「まさか自分たちにダンジョンを踏破出来る力があるとはな-」
「必死になると、人は思いがけない力が出るもんじゃ!」
「妻との絆も強まったし……」
「子も増えた……」
「そして、帰ってきてくれた」
「あとは、無事に育ってほしいな」
「そうじゃな」
父親たちの夜は更けていく……
「どうだった?」
「大丈夫、みんなぐっすり寝てるわ」
「すっかり仲良くなったわね」
メーサ、カルレ、ソーニャ母親3人もファースト家に集まって居た。
子供部屋に布団を敷き詰め、3家族7人の子供が寄り添って眠る姿に、母親の眉も下がる。
「最近は訓練している姿を見て、お兄-ちゃん達を見る目が変わったわね」
メーサが果実酒の入ったカップを上げると3人は静かに乾杯をする。
「それにしても、自分の子供ながら、ちょっと異常よね」
「……やっぱり、あの3年でなにかあったんでしょうね」
「無理に思い出させるのは、いけないとしても……あの子達、隠してるんじゃないかな-……」
「そうね、それぞれの関係が、妙に大人びてるし……」
「だからといって、問いただす問題でもないわ。
私は3人が無事に帰ってきてくれただけで、本当にそれだけで十分……」
「そうね。それ以上何も望まないわ」
「ええ……さ、今日は少し奮発したから、たっぷり楽しみましょう!」
「ほんと、このお魚脂が乗って美味しー!」
「旦那達も今頃大騒ぎでしょうからね、私達も息抜きしないと!」
母親のほうが、子供のことがよく見えている。
そういうものなのです……
そして、たまには外で飲んできていいわよ、そう言われて大喜びの父親たちの裏で、最高級のツマミとお酒を嗜む。母親は素晴らしい時間を堪能でき、父親も外で飲むという非日常に満足する。
いつの世も、男は女性の手のひらの上で転がされるものなのであった……
こうして修行と勉強の日々は続き、リフ、メルカ、ディッカは育成所入りする日を迎える。
「頑張ってくるのよ」
「手紙を書くんだぞ」
12歳から成人を迎える15歳まで、無謀な冒険で命を落とすことのないように、しっかりと学ぶ育成所は、寮が併設された学校になっている。
引退した高位な冒険者多く教育者として入っているために、育成所を優秀な成績で卒業した人間の将来はかなり約束される。
優秀でなくても、冒険者としての基本的な技術や知識を叩き込まれるために、生存率は桁違い、冒険者を望む人間は必ずと行っていいほど所属することになる。
育成所は4柱の麓と大柱の麓に存在し、まずはじめに入学テストが有る。
そのテストで優秀な成績を収めたものは、大柱の麓に最も近い上級育成所へと進むことが許される。完全な実力社会だ。
リフ達は、大柱で入学テストを受けることになる。
村から馬車に揺られ、初めての大柱をその目に入れることになる。
「……でっけー!!」
馬車から乗り出し、見上げるリフの視線の先に、大空に向かってそびえ、その果を見せない巨大な塔が立っている。
「あれが大柱……神々の御わす塔……」
メルカは握った拳にしっとりと汗が出るのを感じる。
ディッカも、ブルリと身体が勝手に震えた。
3人の冒険者としての表向きの第一歩が刻まれようとしていた……
もしよろしければ、もっとこうした方がいいなどの助言を感想でいただけると今後の成長に活かしたく思っております。是非お気軽に叱咤激励をよろしくお願い致します。
今日は20時にもう一本!