第6話 到達
「うっわ……凄い……」
真っ白な扉を開けると……美しいエントランスが3人をお出迎えする。
薄っすらと花の香のする快適な空間、一歩足を踏み入れると室内は快適な温度、湿度になっていることに気がつく。
正面の扉を開くと作りが良いとひと目で分かる大きなテーブルと椅子が並ぶ。
隣には立派な台所が備え付けられている。ダイニングルーム。
その脇には柔らかそうなソファーとティーテーブル、触れるとぐっと沈むほどの上質の絨毯が敷かれたリビングが併設されている。
「わっ、凄い! 水が出るよ!」
台所は魔道具を使用した水道、そして同じく魔道具を利用したごみ処理も兼ねる下水システムが存在する。
「こ、これ、もしかして食材を冷やす魔道具? こんな大きな……?」
冷蔵庫も完備だ。中には時間を停止して食材をしまえる場所もあり、ある程度の食料までも入っていた。
生活に必要な調理器具や食器なども全て揃っている。
調理にも魔道具を利用して、火を扱うことも出来る。
竈やオーブンなども完備だ。
「ミルカ! ミルカ! こっち、こっち!!」
「どうしたのリフ、そんなに慌てて……こ、これって!!」
ミルカは目を見開いて立ちすくんでしまう。
それからゆっくりとソレに近づき、作動させる。
湯気を放つ暖かなお湯が流れ出す。
「お風呂だぁ……」
ミルカの見開いた目から、一筋の涙が流れ出す。
「これ、浄化魔法がかかってる……この中に洋服入れて使えば……凄いな」
ディッカは至るところに設置された魔道具に興味津々だ。
結論から言えば、この魔道具は移動できる家。
さらには展開時、認識阻害、敵意に対する反応、自動迎撃などの機能があることもわかった。
「ふっかふかだよ! ふっかふか!」
3人は汗を流し、清潔な衣服に着替え、きちんと調理された料理を食べ、ふかふかのベッドでぐっすりと眠る。
セーフルームと言われるダンジョン内の個室以外では常に警戒していた3人、そして、魔物の革で作った眠るには十分だけど、快適には届かない寝床とは比べ物にならない、村で過ごしていた頃でも体験したことがない寝具に包まれ、心と身体が溶け出すように眠るのであった。
「リフ、昨日はわからなかったけど、ここ、隠し部屋が有る」
ディッカは朝食をとるとすぐに家の探索を開始する。
そして、ある部屋を見つける。
「魔力を通せば……開いた」
音もなく静かに壁が開く。
中に入ると……
「本が……こんなに……」
「すごい……」
部屋の壁全てが本棚、隠し書庫だ。
本は貴重品だ。宝箱からも多く出るそれらの書籍は高額で取引される。
3人がダンジョンでの長い時間を精神的にも乗り越える大きな支えになったのは、ドロップ品や宝箱から出る本だった。
古き神話を描いた本、様々な技術を書き記した本、時には教育のための本。
娯楽無く戦い続けていた3人にとっての唯一の娯楽は、読書であった。
「リフ、今ままで手に入れた本も、ここにしまおうよ!」
「そうだな!」
リフは魔法袋から今まで手に入れてきた大量の本を取り出す。
「ああ、これも魔法袋みたいなもんなんだね……」
本棚にどんどん本を詰めていくと、不思議なことに果がない。
本棚自体が魔道具になっており、手を触れると願った本が取り出せた。
最期の宝部屋でも新たな本を手に入れたが、未読の本の魔力はしばらく彼らをこの地に押し止めることになった。
快適な環境で、3人はまさに本の虫となった。
ビーーーー!! ビ-----!!
そんな日々は警報によって終わりを告げた。
「なんだ?」
「えーっと、魔物が発生する予兆……あっ!! ここボス部屋だった!!」
「まずいじゃない! これ、壊される前に外に出ましょう!」
「ああ!!」
今日は太陽の日から月の日に変わる刻。
ボスは復活してしまう。
3人は急いで外に出る。
そしてボス部屋の手前に戻る。
ボスが生まれる時、魔力が荒れ狂い、部屋にいると危険であると言われている。
「……これは、ある意味助かったね……」
「そうだね、あのまんま何ヶ月も居座っちゃうとこだった……」
「進まないとね……」
3人は武器を持つ手にぐっと力を込めて、決意を新たにする。
あくまでも目的は、生きて家に帰ることだということを思い出す。
そして、その決意をボスにぶつけるのだった……
「え、またもらえるんじゃないの?」
意気揚々と大股で宝部屋に近づき、バーンと扉を開いたリフは内部の状態に間抜けな声を上げた。
「同じ人間が一つのダンジョンからもらえる宝は年に一度って本で読んだよ」
呆れたように肩を寄せてやれやれとディッカがあとに続く。
「まぁ、そうしないと週に一度はお宝もらえるようになっちゃうもんねー」
「うまく出来てんな-……、って奥に扉があったんだな」
どこかに取り忘れでもないかと部屋をウロウロしていたリフが一番奥の扉を発見する。
「この間はアレに興奮してすぐに出ちゃったもんね」
「問題なさそうだね、開けるよ」
ディッカが軽く扉を押すと、まるで滑るように扉が開く。
その先は小さな部屋になっており、大人が10名も入ればいっぱいになりそうだ。
そして、一番の特徴は部屋一面に魔方陣が描かれており、薄っすらと発光して幻想的な空間を作り出していた。
「……転移装置……」
「ってことは……!?」
「帰れるってことよね!!」
「うん、ここがダンジョンの最下層……とうとう……たどり着いたんだ!!」
「うおーーーーー!!!」
「やった……やったのね……」
「泣くなよっ! 馬鹿……なーくーなーってばぁ……」
「リフだって泣いてるじゃないっ!」
「うえーーーん、良かったよぉぉぉーーー」
3人は肩を寄せ合い、涙が収まるまで泣き続けるのであった……
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