第4話 異常事態
リフたちが姿を消して、村は大騒ぎになった。
すぐに探索隊が作られ、リフ達の足取りを追って裏山までは突き止めた。
「おかしいわ……精霊たちがここで消えたって……」
メーサが精霊の声を聞きながらリフたちが消えた場所までみなを導いた。
「消えたってどういうことだ!?」
リフは思わず声を荒げてしまう。
「わからないわよ!! 怒鳴らないでよ!」
「す、すまん……」
二人が争う間に気の強そうな獣人の女性が割って入る。
「二人共落ち着いて……」
「カルレ、ごめんなさい、メルカを連れ回したのはきっとリフなの……」
「ディッカは自分からリフについて行った。
無理やり連れて行ったわけでもない、子供同士、よくあることじゃ。
過度に謝る必要はないわい」
ドワーフであるバルトがエルフであるメーサをかばう。
表面上は仲が悪いが、物事の本質をずらすような誹りは行わない。
「……昨日……上の大陸で転移門が開いたと聞きます……もしかして、魔力災害では?」
「魔力災害だと!?」
「ならば、ダンジョンの探索部隊を編成しないと……」
「浅い層なら子どもたちでも……」
「5階層しかない小さなダンジョンだ、すぐに準備しよう!」
その日の昼にも探索部隊が結成され、ダンジョン探索が開始された。
当初、楽観視されていたダンジョン探索は、最深部に探索隊が到着したことが報告されると暗雲が立ち込めた。
「……遠隔地のダンジョンへの転移の報告は今まで無かったが……」
「そんな事を言いだしたら、この周囲だけで幾つダンジョンが有ると……」
「諦めないぞ……! メーサだってそうだろ? 皆んなだって!」
「ええ、私は絶対にリフを助ける!」
「俺だって愛するメリカをこの手に抱くまで、絶対に諦めん!」
「まだまだ私だって現役、必ず子供を見つける!」
「儂らだって諦めたわけではない!!」
「そうよ、あの優しいディッカをこの手に……!」
この日から、親たちの子を探す冒険も始まるのだった……
それぞれの家族が連絡を取り合い、周囲のダンジョンを片っ端から攻略していく。
リフの両親である。マールズ、メーサ。
メルカの両親である。ゾット、カルレ。
ディッカの両親である。バルト、ソーニャ。
3組ともアイアンの元冒険者、望見者夫婦であることは幸運であった。
村の人々も、この3組が探せばきっと見つかる。そう楽観視していた……
結局、3年という歳月が、一切の情報も得られずに過ぎていくことになり……
ついに、3組の夫婦は、自分たちの子供が、この世から消え去ってしまったという事実を受け止めるしか無くなるのであった……
「ミド・ゴブリンが2匹だ……」
「一気に行くわよ」
「行こう!」
3人は暗闇の中を音もなく敵に忍び寄る。
ゴブリンの持つ照明の弱々しい光は、うっすらと目の前の道を照らすのみ。
背後から迫りくる脅威に気がつくこともない。
「グゲェ!」
グシャ!
「ゴポッ……」
一体は突然背後に引きずり倒され、一撃のもとに頭部を粉砕された。
もう一体は頸動脈と喉笛を裂かれ、大量の血液が肺に流れ込み窒息死した。
瞬きの間の出来事だ。
馴れた手付きでその胸にナイフを突き立て、スッと魔石を取り出す。
「ゴブリンは食えないからなー……」
「今日もホーンラビットの干し肉?」
「オーク出てこないかな……」
二体のゴブリンを暗殺したのは、見た目はまだ10歳の子どもたち、しかし、彼らはこのダンジョンの生態系のトップに君臨している強者だ。
彼らはこのダンジョンを熟知している。
魔力災害によって転移させられた当初は、絶望に打ちひしがられ、現れる魔物を必死に倒してきた。しかし、若い彼らの成長は著しく、あっという間に苦労なく魔物を狩る側になった。
魔物の素材から食事を得て、ダンジョンの宝箱から幾つもの道具を手に入れていた。
ダンジョンの魔物から魔石を得て、手に入れた道具を使い、セーフルームを見つけ、水や生活の糧を得る……辛く長い時間となるはずだったダンジョンでの生活。
3人はお互いを支え合って生き抜いてきた。
「やっぱりこの壁が怪しいな……」
「マッピングでここの向こう側だけぽっかりと空いている……」
「じゃあ、行くしかないわね」
「どこかに仕掛けが……これか!」
リフが石をずらすと人工的なくぼみが見つかる。
魔石をはめると魔法陣が浮かび上がり、目の前の壁が消えていく……
「こんな話聴いたことあったか?」
「いや、なんの情報もなくこれは酷いな」
「たぶん、私達のいる場所もこんな感じでやらないとたどり着けないのよ……」
「そうだな、そうじゃなければこんなに長い間だれも助けに来ないなんておかしい」
「あの落とし穴に落ちないと下層に降りられないのに、上への階段がない場所とか、ヤバいでしょ……」
「ほんと、作った人はひねくれているわね」
「とにかく、今日は一度家に帰って、道具を回収して明日挑もう」
「そうだな、ディッカの言うとおりだ」
「まーたキノコと干し肉のスープかー……」
「流石に7階も登ってオークを倒すのも面倒だろ?」
「そうね……」
3人はそれぞれ照明をつける。
パーッと周囲が明るくなる。
まるで太陽のもとに居るかのようだ。
このダンジョンで暮らす魔物にとって、この明かりが迫ってきたら必至で逃げなければ、必死だ。
光に照らされた3人の戦士の装備は美しくさえ有る。
二本の長剣を腰に携え、鎖帷子に要所にプレートが付いている見事な鎧。
防御力にも機動力にも配慮した装備だ。
リフは、多くの魔力もその身に秘めている。
双剣の魔法剣士だ。攻防バランスの取れたクレバーな戦術は敵に一切の反撃を許さない。
メルカは軽装、しかしリフもディッカもそうだが装備は魔装具、見た目以上の防御力を誇る。
細剣と短剣、それに弓も使い分けるレンジャーだ。遠近を問わぬ疾風が敵を切り裂いていく。
遠目にはドワーフの戦士を思わせるフルプレートの鎧。
しかし、その鎧は驚くほどの静寂に包まれた魔法の鎧。
巨大な戦斧を軽々と操る重装戦士、しかし、いざ戦闘となれば鈍重とは程遠い。
鉄壁の暴風が吹き荒れる。
彼らが、ダンジョンの最深部に到達するのに、3年の時を必要とした……
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