第1話 リフ=ファースト
その日、世界が震えた。
前人未到の200階層を突破した先には、広大な大地が広がっていた!!
人類が挑み続けてきた塔の、新たなステージが現れた!!
火竜殺しラーザンは英雄になった!!
新たな大陸への扉を開け、人類に広大な恵みを与えた男!!
世界はその偉業に惜しみのない称賛を与えた。
大柱の200階層を突破したプラチナパーティ、最後の一人となってもついに人類の偉業を成し遂げたグランドヒューマンのラーザン=フィッツパトリック。
彼が凱旋したその日、リフ=ファーストは大柱から少し離れた小さな村で産声を上げた。
リフの父親はアイアン冒険者、母親はアイアン望見者だ。
アイアンの称号は、至って普通の人間が、努力を絶やさず引退する頃には一般的に得ることが可能だ。シルバーには多少の運と厳しい努力、ゴールドは血の滲むような努力と才能が必要と言われている。そこから先は、全てを塔にかけている人間のうち、神に愛された者がたどり着く……
「メーサ、男の子だよ……よく頑張ったね」
黒髪の人族の男性が愛おしそうに子を抱く女性の髪を撫でている。
この男がリフの父親、マールズ=ファースト。
その腕に抱いた我が子を愛らしい様子で眺める美しい金髪のエルフが、母親のメーサ=ファースト。
「二人共よく頑張りましたね。その子の未来に幸多からんことを……」
「ありがとうございます! 神官様」
「メーサさんはよく休んでください。困ったことが有れば教会を頼りなさい」
「はい……ありがとう……ございました」
教会から出産の応援に来てくれた神官、塔教会はこのように人々の生活の支援も行っている。
現教会のトップである大司教はラーザンと同じパーティにいて現役の望見者という変わり者だが、人望厚く教会を人々にとって素晴らしい存在へと変えた功労者だ。
「神官様が言う通り、ゆっくりと休むんだメーサ……愛してるよ」
「私もよマールズ」
世界が興奮の渦に飲まれた日でも、この部屋の中は二人の愛に満たされていた。
ラーザンが到達した101階層は、ランディア大陸よりも小さいが、それでも広大な島構造になっていた。冒険者はラーザンの開いた転移装置を抜けて、こぞってその新大陸に冒険を求め、次々に踏破していった。
様々な検証の結果、塔以外の移動手段で新大陸とランディア大陸を行き来することは出来ないことがわかった。
新大陸は、ラーザン大陸と呼ばれ、英雄ラーザンの名は永遠に語り継がれるものになる。
ラーザン大陸は未知の生物、植物、魔物、鉱石を人類に与えた。
強大で攻撃的な存在もおり、シルバー以下だけで構成されるパーティはラーザン大陸での冒険は禁じられた。
世界の情勢は急速に変化していたが、ファースト家は穏やかに、愛溢れる時間を過ごしている。
リフは父親譲りの好奇心と、母親譲りの探究心を併せ持つ、産まれながらの望見者であり、冒険者だった。
「おっ! すごいぞリフ、そうだははっうまいぞ!」
マールズはそのあたりに落ちていた木の枝を剣に見立ててリフと打ち合っている。
子供のお遊びだが、3歳の子供にしては良く振れているように見えなくもない。
「見ろよメーサ! リフは天性の剣士の才を持ってるんじゃないか!?」
「ほんとね、でもリフは精霊に愛されているから、魔術の才を持ってる気がするわ」
「なら魔法剣士か! すごいぞリフ!」
リフは二人からのやや過剰な愛を十分に注がれながら、すくすくと成長していく。
この大陸で5歳になった子供は教会学校へと通い、この世界の基本的な仕組みや文字や計算などの簡単な教育を受ける。
リフは村の子供達と一緒にその教育を受けることになる。
「このくさはやくそうになるんだよー」「こっちはどくのときにつかうんだー」
「リフちゃんはたくさん知っているのね!」
「かーさんがおしえてくれたんだ!」
「そう、メーサさんは優秀な薬師ですもんね」
「せんせーくすしってなーに?」
「怪我や病気で困っている人を助けるすごい人なのよ」
「へーー、りふのおかーさんすごいんだね!」
「えへへへへ」
リフは父や母の高い評価に追いつこうと、学校での勉強を熱心にこなし、優秀な成績で子供学校を卒業する。
10歳になると、教会で適正職を見てもらい、それに則った教育を受けられる場所へと通うことが一般的だった。もちろん塔に挑まず、人々の生活を支える生き方を選ぶものも居る。
しかし、リフは尊敬する両親が生きた冒険者という生き方以外、見えなかった。
教会に見てもらう日を間近に控えたある日、リフは友達と村の裏山で冒険者ごっこに興じていた。
まばらに生える木々の間に獣道が山の頂上に向かって伸びており、周囲には膝丈くらいの草木が茂っている。木の実や果実なども有るために、子どもたちの格好の遊び場所になってしまっているが、とある事情で奥へと入ることは固く禁じられている。
「未知なる大陸を求めて、このリフ=ファーストが塔を制覇してみせる!」
リフは先ほど拾った具合の良い枝を剣に見立てて振り回している。
10歳になったリフは幼さは残るが母親譲りの端正な顔、そして父親譲りの黒髪の少年と成長している。
日々の父との剣の訓練と、母との魔法の訓練は一日も休むこと無く続けており。
同年代の子供達の中では頭一つ抜けた運動能力と魔法能力を手に入れていた。
もちろん、村の子供としては、だ。
「またリフが英雄役なのー?」
リフについているのは栗毛の獣人、獣人と人のハーフなので、かなり人に近いがピンとたった耳とくるくると回っているしっぽが彼女が獣人の血を引く証だ。
顔つきは少し鋭いが、女の子らしい可愛らしさは十二分に見て取れる。
楽しそうに先頭を歩くリフの後ろを、少し不満そうについて歩いている。
「ねー、リフ……あんまり奥まで行くと怒られるよ?
ダンジョンが有るから近づいちゃいけないっていつも怒られているじゃん……」
さらにその後ろには背の低いドワーフ族の男の子がついて歩く。
背は低いが手足は太く、実際にノアよりも力は強い。
心優しく、少し臆病なところがあり。
各パーツは主張が強い顔つきをしているが、どこか頼りなさを感じる。
落ち着いた深い焦げ茶の髪を短く刈り込んでおり、堂々としていればなかなか迫力がある。
よくある子供の遊び。
しかし、その日は、遊びでは済まない悲劇の始まりの日となるのであった……
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