はじめての討伐依頼(おつかい)
【名前】レガシィ
【種族】人族
【レベル】10
七年間、努力し続けてきた結果を、ようやく見ることができた。
レベル10……。
高いのか? 低いのか?
「どうなんですか、このレベル」
「レベルは大事だが、肝心なところでビビっちまったらどうしようもねえ。気合入れろよ」
なるほど、いいアドバイスだ。
……この歳でこのレベルで冒険者になる、ってのはどれくらい珍しいことなのか、そこを聞きたかったんだけどな。
聞き返すのもなぁ……と思っていると、声をかけられた。
「あんた面白いニャー。アホすぎニャ。
フェスのダチの、ヴァーニャ、ニャ。ヴァーニャニャ、じゃにゃいよ、ヴァーニャ。よろしくニャ」
【名前】ヴァーニャ
【種族】猫人
【レベル】9
顔中体中毛だらけの【猫人】だ。
耳が4つあるなんちゃって猫……ということもなく、頭に立派なネコ耳がついている。人間の耳のあたりは、毛が深くなっていて、よくわからない。
身は軽装で、胸と鼠径部を隠す程度。
これ、猫の毛がなけりゃそうとうエロティックな格好だよなあ。獣の血が混じっているから気にしないのか?
ただ、身軽な猫です素早さで撹乱するにゃー、みたいなキャラがよく分かる。
チンピラ亜人三人衆のもうひとりは、目立ちたがりではないようで。
図体は三人のうちで一番大きいが、フェスさんの後ろに引っ込み顔を伏せている。
「……どうも、ノッグスです」
フードを深めに被り、顔を伏せて隠しているが、俺の背は七歳児だ。むしろちょうど目が合った。
猫人と同じく、体毛は濃い。ふさふさではなく、ごわごわ。
ただ、フードの外からでも、耳の形が膨らんでいる。
「あー、こいつはお前と同じ見習いだ。熊人のノッグス。威張っていいぞ」
「え……あ、そ、う……」
「冗談だ。新入りにもレベル負けてるからな。も少し荷物持ち頑張ってくれ」
「あ、うん……」
荷物持ちと言われて、ホッとしたように息をついている。
この人、冒険者に向いてないんじゃないか……?
なんの気無しに【ステータス】を見る。
【名前】ノッグス
【力】15
【賢】3
【防】20
【速】2
【装備】なし
「んな!」
俺を拾った冒険者の一人と同じだ。
【種族】【レベル】が???で見えず、【力】【賢】【防】【速】が見える。
亜人は全員【種族】【レベル】しか見えない、というのは、間違いだったのか。
慌てて俺は、受付嬢さんを見る。
【名前】マハーハ
【種族】人族
【レベル】6
人でも見えるのは【種族】と【レベル】。
……なら、なんでノッグスさんだけ?
二度街に来た時、見えるのはみんな【種族】と【レベル】だけだった。
いったい、なぜ……。
「こいつは体はでけえが、肝がちっちぇえんだ。レベルも3しかねえ。新入り同士仲良くしろよ?」
「レベルが3? レベルって分かるんですか?」
「そりゃ、分かるもんだろ。むしろ分からねえくせに冒険者やろうとしてんのか? ……危なっかしすぎるだろ」
フェスさんは、俺を心配そうに見る。
俺には見えないノッグスさんの【レベル】も、フェスには分かるらしい。
どうも、レベル差というのは、肌で感じることができるらしい。
……雨が降るのを空気の匂いで分かるようなものだろうか。
都会っ子が雨の気配に気づかないように、日本育ちの俺にレベル差を感じ取るのは難しい。まあ【ステータス】があるから分かるんだけど。
……無くてもレベル差が分かるなんて、やっぱ俺の【ステータス】、死にスキルだよなあ。
「お前のレベルは10だからな。ノッグスよりは使えるだろ。……足引っ張んなよ?」
そう言いながらフェスは、テーブルに置いた地図を手に取り、あるポイントを指す。
町の外。
「最初はついてくるだけでいい。どういう手順か、流れつかめよ?」
初依頼、開始だ。
依頼は、ゴブリン退治だ。手が開いてる冒険者は任意でやってね、というギルドからの依頼だ。
ゴブリンのレベルは2~3。ノッグスのために受けた依頼らしい。
俺は三人の背を追って、町の外へ出た。
「これはまあ、誰でもできることだからな。ふたりとも頼むぜ」
ふたりとは、僕とノッグスだ。
フェスとヴァーニャは、ゴブリン退治なんか慣れっこらしく、こないだ食べた魔物の肉について談笑している。
いっぽうノッグスは、ガチガチに緊張しており、木を見るごとにその影に怯え、風で揺れると、身をこわばらせている。
……絶対冒険者に向いていないよなあ。
俺はといえば、めちゃくちゃテンションが上がっていた。
なにせ、ゴブリン退治だ。ゴブリン。現代日本で遭遇することは、絶対にない。
ゴブリンを倒してレベルアップ。魔石を剥いで一攫千金。
まさに、冒険者の王道だ。
その王道の一歩目を、今、着実に歩んでいる。
テンションが上げるなって言う方が難しい。
「このあたりのはずだがな……」
往来がある道を抜け、なにかの目印である石の小塔を目印に、小さな森の入り口に立った。
これまで、魔物らしきものは、一匹も見ていない。
「魔物……いませんね。森の中ですか?」
「森には入るな、何がでるか分からんぞ」
冒険者の先輩からすると、俺の提案はうかつすぎるようだ。
まあ、手の入っていない森なんて、現代日本でも危ないしな。魔物が出るならなおさらだ。
「そもそも依頼はなんなんですか?」
「街外に畑を持つ人が、ゴブリンを見たんだと。ゴブリンは数が増えるだけで、レベルは上がらないから初心者向けなんだがな」
低レベルで繁殖力が高い。うむ、それでこそゴブリンだ。
「でもあれでしょ? 増え過ぎたらゴブリン・リーダーとかゴブリン・ジェネラルに進化するんでしょ?」
そいつらを倒してこそ、無双主人公だ。
「なんだそれ。ゴブリンはゴブリンだろ」
数が多くなっても、ゴブリンを指示するものはいないようだ。増え過ぎたら四方八方に広がる。そして人の目に見つかったら退治されてしまう。
なんかかわいそうな存在だな。
「もし群れのリーダーがいたとしても、せいぜいレベル5程度だろう。少なくとも、10を越えるゴブリンなんて聞いたことはないな」
ゴブリンはどこまで言ってもゴブリンらしい。
しかしフェスの言葉が間違っている可能性もある。油断せず行こう。
とはいえフェスは油断なんかしていない。
「森の外をグルっと回って、いなけりゃいないで、そう報告しよう」
「それでいいんですか?」
「森から出るほどには増えてないんだ。まだいいだろ」
ゴブリンは森に潜み繁殖し、増えすぎると四方八方に溢れ出る。
溢れ出たゴブリンは農作物と動物を食べ尽くすという。弱いけれども数が多い。まるで蝗害だな。
蝗害を未然に防ぐ……となると重大な依頼に思えてくる。
「結構大きな話なんですね」
「ん? まあそうかもな。つってもゴブリン退治だけどな」
森の外周を回って、だいたい半分ほど回ったあたりで、突然、森の茂みが動いた。
「ひっ!」
相変わらずノッグスさんはビビっている。
フェスさんは軽々と足元の石を拾い、ぽいっと投げる。ゆっくりと弧をかいて、茂みに命中。
きゃうん!
茂みから聞こえたのは、とてもゴブリンの鳴き声とは思えなかった。
横を見ると、フェスさんの顔が険しくなるのが分かった。
「水狼だ。ノッグス、背に隠れてろよ。ヴァーニャ、レガシィ。後ろに逸らすなよ」
「アイアイニャー」
「よし……やるぞ!」
気合を入れて、剣を引き抜く。
見計らったように、毛が濡れたような毛並みの狼が飛び出してきた。
馬は斬れなかったが……今度は斬る!




