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あやしい馬車イベント

 俺は冒険者だ。

 なにせ、この、マント! いつでもどこでも寝ることができる冒険者に必須の不思議道具だ! こんなサバイバルなアイテムを持って、冒険者じゃないと、誰が言えよう!

 そして精霊の沙羅曼陀! そして鍋! こいつがあればどこでも料理ができちまうんだ! うおおお!! 現代料理を再現して世界を虜にしてやるぜ! カレーはスパイスを入れりゃええんや! パセリセージローズマリー&タイム! 行ける!


「インスタントカレー以上、本場のカレー未満か……。俺にとっちゃまだまだ未熟な出来なんだがな……」


 どこかで開催されているであろう料理大会でのコメントもばっちりだ!

 優勝は俺のもんだ! これぞ現代知識無双!




 なんて思っていた日が俺にもありました。


「重ぇ~」


 毎日の素振りと瞑想で、我流に鍛えていたとはいえしょせん七歳児。

 リュックは詰めるだけ詰め込んでパンパンに膨らんでいる。

 取り出すのも一苦労だ。


「収納魔法を身に着けないとな~」


 収納魔法あるいは空間魔法の奥義、アイテムボックス。

 これがあるのとないのでは、今後の苦労が全然違うだろう。

 アイテムボックスがない世界もあるだろうが……俺は一度見た。母さんと同じパーティの小人族……イジュさんが使っているところを。

 実際あるんだ。手に入れなくてはならん。


 しかし、たいていの場合、主人公の収納魔法は規格外で、商人らが使うのは小さくてもバリバリ高価なんだよなあ。

 アイテムボックスを手に入れる。これは中目標だ。あまり遠くを見すぎてはいけない。

 まずは近くの目標からだ……。


 そう思い、前を見据える。

 草原の中、薄い轍のできた道が延々と続いている。

 かつての家の最寄り町。これまで二度行ったことがある。もちろん母さんと。


 今回の目標は、町に着くことだ。

 道なりに行けばいいだけ? ふっ、ここは異世界。いつ何時魔物が襲いかかるか分からない。初戦闘、初討伐が先になるかも知れん。

 ゴブリンとかスライムとか、分かってるだろな~。オークくらいになると逃げるかもしれん。手頃なやつ、頼むぞ~。


 俺は腰に下げた両手剣(両刃の剣。大人にとっては片手剣)の柄を何度もさする。


 魔物は斬ってもいい。敵。害獣。魔物は斬ってもいい。ビビったら死ぬ。剣を抜いて袈裟斬り。逃げるなら全力疾走。なに、レベル上げレベル上げ……。


 内心ビクビクしながら、でも歩幅が縮まらないように、妙にセコセコした歩き方で道を行く。


 初めての遭遇エンカウント。現れたのは魔物ではなかった。

 馬車だ。




 馬車!

 初めての町に行く途中で馬車といえば、もう、あれしかないだろう。

 心臓がうるさく脈打つ。

 だって馬車、それも猛スピードでこっちに向かってくる。

 絶対あれだよ、あれしかないよ――。


「盗賊に襲われてる商人!」


 あるいは貴族。

 戦えるか? 相手は盗賊。あるいは敵国の刺客。

 まだ何も斬ったこと無い子供が、人を斬れるか?

 いや、でもここでやらにゃならん。コネクションのためだ。

 あの作品であそこで偶然あの商人を助けてなければ、あの町でああいう事件が起きたときに、どうすることもできなくなる。手詰まりになる。

 ゲームオーバーだ。

 ここは踏ん張りどころだ。勇気を出すところ。やるしかない、やるぞ!


 馬車がどんどん近づいてくる。

 俺は剣を抜いた。斬る。斬る! 敵は斬る!

 敵は斬る、斬る!

 敵は――。


 御者も追う敵も、誰もいない。

 なんだ? なにから逃げてる?

 振り上げた剣を下ろす相手がいない。

 いやいた。俺に敵意をむき出しにしているやつ。

 馬だ。


「――へ?」


 ぶもお大声でいなないて、不自然に旋回して、俺を狙っている。


「ま、待って――」


 そんな嘆願も虚しく、俺は馬車に轢かれた。







 目が覚めた。知ってる青空。

 昨日見た青空と変わらない。少し雲が多いくらいだ。


 さて。状況を整理しよう。

 目の前には馬車。車軸が割れて、見るも無残、という感じだ。

 繋がれていた馬は、いない。この世界の馬は、どうやら凶暴らしい。

 ……俺が剣を振り上げていたせいで、敵と思って襲ってきたのか?

 それならお互い、事故にあったようなものか。


 正面衝突、交通事故。


 死ぬかと思ったが、どうやら命も四肢も無事らしい。結構頑丈に出来てるのかな、この体。


 さて、この壊れた馬車。

 知らんふりして町に向かうわけには行くまい。かと言って町の衛兵的な人に報告するのもどうか。

 確認に行く間に、荷物が盗まれたとする。そしたら怪しいのは第一発見者の俺だ。どう考えても。

 となると、ここで馬車の持ち主が来るまで見張りをするか?

 いや、馬車の持ち主より先に盗賊が来るかもしれん。さっきは勇気を出してみたが、馬に負ける程度だ。人に勝てるはずもない。一刻も早く逃げ出したいくらいだ。

 俺は道端まで吹っ飛んだ剣を拾って、馬車の裏に回り、その荷を見た。


「なァ~んだ」


 空。空っぽだ。盗まれる心配なんかいらない、もともと無いんだから。

 ……いや、もともとあったのか? それともなかったのか? これは重要な案件だ。

 馬車の内装をよく見る。椅子などはないし、貨物運搬用の馬車だろう。

 他に手がかりがないか……。外へ出てみると、すぐに見つけた。

 馬車正面、御者席の頭のとこに、頭ふたつの鷲のような紋章がある。これは家紋か社印かなにかだろう。

 頭が増えるのはこの世界でよくあることなのだろうか。

 昔見た人面犬を思い出す。あんな化け物を印章にしたら、呪われたりしないだろうか。


「……っと。退散退散」


 大事な荷物も無いし、守るべき商人も姫もいない。

 馬車イベントは消化不十分、

 初戦闘は馬。しかも敗北。


 ――なんだか煮えきらぬ結果になったが、これがアイテムボックスを手に入れるキッカケになるのだから、不思議なものだ。

 やはり馬車イベントは偉大、ということだろうか。

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