ノンナ・トストー
貴族かなにかに襲われたフェスさんの苦労話はなかなか興味深いものだ。
しかしだからといって護衛の依頼を簡単に諦めるのものな。
俺はギルドでマハーハさんに護衛依頼のことを尋ねた。マハーハさんはフェスさんの過去の話を知っていた。
「彼は私達ギルド職員を全く信用してませんでしたね。依頼主が護衛を殺すために集める、というのはとんでもない話です。ですが、あってもおかしくはないでしょうね。魔物を狩るより人間を狩るほうが簡単にレベルアップできる、と考える人もいますから」
「人を殺してもレベルアップできる?」
「ええ。レベルの高い重罪者は眠らされ、貴族の手によって処刑されます」
「レベルの高い重罪者? どうやって捕らえる?」
「不意打ちか毒か……、あるいは騎士が」
魔物で最も恐れられるのはドラゴン。
人間で最も恐れられるのは貴族だという。
「彼ら騎士たちを従える貴族たち、それを従えるのが領主です」
「領主のレベルが一番高い?」
「そうでしょうね」
もちろん見たことはありませんが、と続けた。
「どうせ街の外に出るんだから、なにかついでの依頼があればと思ったんだけどね」
「ありますよ。貴族や商人ではない、市民の依頼が。フェスくんは護衛恐怖症ですから頼みませんでしたが……よければ説得してくれませんか?」
「俺が?」
「ええ。SSS級ランクの冒険者になるなら、これくらいは簡単でしょう?」
そう言って小さく笑った。
いつも無表情だったマハーハさんの微笑が見えて、これはやるしかないなと決意した。
依頼はいくつかの手紙の輸送。この世界にメールなんてないので誰かが徒歩で街から街へ運ぶ必要がある。街から街に、小さな運搬網はあるのだが、
一気に行けるならそっちのほうが早い。
ただ目的地が定められるのがネックか。冒険者なら自由に旅がしたいからな。
はいともいいえとも言えないな。明日また来ますとだけ答えた。
護衛のこと、フェスさんのこと、貴族のこと、考えているとふと思い出すことがあった。
この街にくる前に見た暴走馬車。
あれは護衛が失敗した例だろうか?
あるいは失敗以上の恐ろしいなにかが起きたのだろうか。
馬車イベントはコネ獲得への大きな一歩だと思ったんだけどな。
もう街を出る。アイテムボックスも金貨1万枚も結局なにもなかったなあ。
いや、まだあと一日ある。
たしか馬車に家紋かなにかがあったな。
ふたつ首の鷲が。
昨日あまり探索しなかった中心部を探すか。
まずは一番大きな建物から探すか。
すぐに見つかった。領主の館のてっぺん。
ふたつ首の鷲が街を見下ろしていた。
不気味ではないのだろうか? あるいは守護者として神聖視されているのか? 魔除けと考えれば、なんだか沖縄のシーサーみたいだな。
ぼーっとふたつ首の鷲を見つめていると、とつぜん声をかけられた。
「怪しいやつ! たたっ斬ってやろうかしら!」
振り返るとそこには、折れた木の枝を俺に突き出す派手な女が立ってた。
俺が黙ってしまったのは美少女だったからでも、ましてや木の枝にびびったからでもない。
【名前】ノンナ・トストー
【レベル】32
【種族】人族




