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護衛はやめとけ

「レガシィ……、護衛ってどういうことだ?」


 フェスさんが、諭すように言う。


「そりゃあ、なにか大事な商品とか幼い姫とかを、盗賊に襲われないよう守るんですよ」


 フェスさんは驚いたように目を丸め、大きな鼻ため息を漏らした。

 ……護衛の意味が違うのだろうか? 異世界言語には慣れたつもりだったが。


「商人でも貴族でも、ありえねえんだよ、外注した護衛が一番レベル高いなんて。レガシィ、お前みたいな怪しくって後ろ盾もないガキに殺しの訓練させてるギルドが、商人様や貴族様に信頼されていると思うか?」


 そういうものなのだろうか。

 殺しの訓練って……まあ間違ってないが。


「商人たちは自分らで護衛するってことですか?」

「ああ。……ただ、たしかに俺たちみてえな冒険者が、護衛をすることもある」




 ひとつ、思い出話しをしよう――。

 フェスさんの前置きは、背筋が寒くなるほど低いものだった。




 ――30人くらいか、条件とわず冒険者が集められた依頼だった。冒険者でないものも混じっていた。前金で銀貨1枚、隣町についたら銀貨10枚の大仕事だ。当然怪しいと思ったさ、ただ貧しかったからな。選択肢がなかった。

 馬車はひどく豪華だった。張られた絹を宝石細工でとめるような馬車を囲んで、30人が歩き出した。

 低レベルの御者と、この場にいる誰よりも高レベルの護衛騎士。

 レベルは高い、しかし足の遅い犀のまじりだった。――俺みたいなバカを油断させる罠だろうな。道中恐ろしい敵が現れたら銀貨1枚だけ持ってトンズラ――俺はバカだったよ。

 恐ろしい敵は道中から現れたんじゃない、馬車の中にいたんだ、既に。


 街から離れて、俺たちは馬車を囲んで歩く。いったいなにが入ってるんだろうな、なんて呑気に考えていたら、戸が開いた。

 小さな女の子だった。彫刻みたいに、不自然なほど整った顔をしていた。雪みたいに真っ白なドレスを着て。無垢に笑って誘うんだ。ねえ誰かあそびましょう?って。

 ――ちょうどお前みたいな無鉄砲で常識知らずのガキが、そのお嬢さんに駆け寄って、手を取ったんだ。

 護衛騎士は止めもしない。

 身分とか考えないやつだったんだろうな。もう少し常識を持てばよかったのに。

 ほんの数秒ののち、またあの女が顔を出した。

 ねえ誰かあそびましょう?

 同じ言葉を口にした。

 けれどもふたつ違っている。

 彼女のドレスは赤い。そして血の滴る短剣を握っていた。


 それからはなにもかも遅く感じた。

 驚く者、慌てる者、剣を抜く者……、彼らはみな、後ろから刺された。女は次々と、人を形を切り分けていった。庭師が枝を整えるように。

 凄惨で現実味のない光景に、俺は腰を抜かしたさ。凶行を目に焼き付けるしかできない。女が俺の目の前に立った時、初めて生を諦めた。

 けれども女は、初めて表情を変えたんだ。眉をひそめて、むしろ俺が「遊びに付き合わない悪いやつ」とでもいうような、咎める顔。

 あの顔だけは今でも忘れねえ。忘れたくても、夢に見るんだ。




「冒険者の命なんて、貴族サマには虫けら同然なんだよ。俺みたいな話ならいくらでもある。ひとこと言うぞ。護衛はやめとけ」

「あ、ああ……」

 俺の肩をぽんと叩いてフェスさんは背を向けた。

 レベル差の他に、身分差か。

 この世界の平民の命――いや冒険者の命はずいぶん軽いものらしい。

 とびっきり運がなかったんだろうな、と思いつつ、今後生き延びるためには忘れちゃいけないな。

 母さんにフェスさんにヴァーニャさんにノッグス。

 みな親切な人ばかりだったから。

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