僕らが旅に出る理由
「君たち向けの依頼は、ありませんね」
受付嬢のマハーハさんが、平坦の口調で言う。
働き口がない。
つまり無職。
こないだの廃坑ゴブリンで、一帯から雑魚モンスターは一掃されたらしい。
もちろん、小さな群れはいくつかあるかもしれないが……。
水狼は6~10レベル。ノッグスはもちろん、ヴァーニャさんも少し危険を伴う。
冒険者が危険を恐れてどうする――だが自分はともかく仲間は怪我してほしくはない。
ゴブリンと水狼の間くらいのモンスターが大量生産されていないものか……。
「4~6レベルくらいに手頃なモンスターはいないんですか? 虫とか」
「虫というと女王殺しの蜂がいるな。30レベル越えだ」
30。そりゃまた遠いな。
もちろん俺にとっては通過点にすぎないが。
「この街で敵はいないとなると、他の街に行くんですか?」
敵はいない、というと、無双感が出てくる。
実際は、敵を選んでみたところ自分らが楽勝できる「敵はいない」、なのだが。
フェスさんは目を閉じうむむと唸っている。
ヴァーニャさんは口笛を吹いて右左・右右・左右、とステップを踏んでいる。
ノッグスは服をにぎにぎしている。
「まぁ、しばらく街を出るしかねえか」
そうだ、冒険者なんだから、街の外へ、旅に出ないと始まらない。
はじめての街の周りで雑魚狩りをしてレベルをあげるだけじゃあ、冒険者とは言えない。
「どこに行くんですか? 王都? 聖都? 学園都市? 魔女の森?」
「どこでもいい。あ、いや――」
フェスさんは思いついたかのように――実際に、単なる思いつきなのだろうが――呟いた。
「世界樹を見に――アーシュラカンに行くか」
世界樹!
やっぱあるんだよなあ世界樹は! 世界にひとつだけの世界樹!
俄然テンションがあがってきた。
というわけで今日は一日準備にあてて、旅立つ運びになった。
食料の用意やらなになら考えてみると、どうにも懐が心もとない。
異世界ファンタジーで主人公がよその街に行く時、どうしてたっけ……。
ギルドに行って王命だなんだでどっかに派遣されて商人に――、
「あっ!」
思わず声が出てしまう。
そうだ、街の外へ出るのは新しいイベントのタイミング!
「護衛! 護衛依頼やりましょうよ!」
護衛はなかなかいいチャンス。
現代料理を披露して商人から莫大な富を貰ったり、
貴族に目をつけられ剣客に召し上げられたり、
襲撃者を返り討ちにして裏社会と対峙するチャンスだ。
素敵イベントがなくても、日銭は稼げるだろう。
……いやゴブリン退治と同じでちょうどいい依頼がないかも知れんな。
期待はしすぎるな。
このとき俺は想像を膨らませたりしぼめたり、それで頭がいっぱいで、三人の視線にまるで気付かなかった。
レベルが絶対の世界で、護衛の仕事?
妄想を膨らませる俺は、少しの想像力もなかった。




