抱きしめ特訓
目覚めると、知ってる顔。
「レガシィ起きた!? よかったァ……!」
ノッグスが顔をしわしわにして泣いていた。ぎゅうぎゅう抱きつかれる。
その締めつけは、ひどく痛い。
――やっぱりか。
腕をぽんぽん叩いて、なだめる。四歳児だからな、無理に泣くなとは言えない。
……思い返してみると、仲直りしてイェーイウェーイなところに、突然の俺の気絶だからな。お互いトラウマになってもおかしくないところだ。
だがトラウマなんか覚える暇はない。
するべきことがあるからな。
「ノッグス、そろそろ離してくれ」
「え、あ、ご、ごめん」
俺は宿のベッドに寝かされていた。窓の外は夜の空気が香っている。
気絶して結構時間がたったようだ。
肩をぐるぐる回してみる。好調好調。
「よし、じゃあ実験を続けよう」
実験、と聞いてノッグスは顔をしかめた。なにせ実験のせいで俺を傷つけてしまったからな。心優しいノッグスが心を傷めないはずはない。
だがこれは、人を傷つけないようにする訓練でもある。
「ノッグス……。少しつらい質問かもしれないが、答えてくれ」
一瞬だけノッグスは泣きそうな顔をした。が、俺の真剣な目つきを見て、小さく頷いた。
「これまで、思いがけず人を傷つけたことがあるか?」
「……ある」
ノッグスは、うなだれる。
「ボール遊びで泣かせちゃったり、あと、ぎゃんぎゃんでいきおいよく倒しちゃったりとか……」
「ぎゃんぎゃん?」
ぎゃんぎゃんは、後ろから抱きつく鬼ごっこのようだ。複数名でもみ合いのようになるらしく、ひどく危険な遊びに思える。
子供の遊びだ。いつの間にか熱中して全力を出して――それで大怪我をさせた。
思いよらず他人を傷つけた経験から、人と距離を取る、臆病な性格になったのか。
「レベルが低かったのも、人を傷つけないためか?」
レベル差があれば、下のものは上のものを倒すことはできない。
だからこそ。
だからこそノッグスはレベル3でとどまっていたのか。
誰かを傷つけてしまわないように。
「うん……。でもレガシィくんと冒険したくって……」
「俺はいずれドラゴンを倒すからな。確かにレベル3じゃあ足りないな」
ノッグスは「そんなの無理だよぉ」と言うので全力でこづいた。こづかれて、はにかむ。こういうじゃれ合いが、人と距離を置いてきたノッグスには嬉しいのだろう。
レベル10の俺がレベル5のノッグスを「全力で」こづいたのになんの痛みも感じていない、そのことに気付いていない。まあ四歳児だからな。
「ノッグス、訓練をしてみるか?」
「?」
俺はベッドを立って、ノッグスの膝の上に座る。
ノッグスはキョトンとしている。
何するつもりだろう、という顔だ。
「ぎゃんぎゃんは、どんな感じだ?」
「ぎゃんぎゃん? どうって、こう……」
ノッグスはだらりと下げた手で、抱き寄せる。
まだ遠慮しているな。
「そんな弱い力じゃ逃げられちゃうんじゃないか?」
少し腕の力が強まる。
「もっと強く! さっきの寝起きの方がよっぽど痛かった!」
強くやらないと終わらないと気付いたか、腕の位置を、脇の下からになおして、絞めた。
肺の空気が抜ける。肋骨がきりきりしなる。
やはり、そうだ。
「も、もういい……?」
「ああ。いまのところ予想通りだ。次は、俺を敵だと思って、殺す気で絞めてくれ」
少し語気が強すぎたか、ノッグスは息を呑む。
四歳児には早いか……。まあそっちはおいおいでいいか。
確認するまでもないことかもしれないし。
「いや、やっぱりいい。またぎゃんぎゃんをやってくれ」
「また強く?」
「さっきくらいで頼む。アレ以上だと、骨が折れそうだからな」
「あう」
それから数十分、ぎゃんぎゃん遊び――万力で締め上げられる訓練を続けた。これはいい修行になりそうだ。
特に、とつぜんヴァーニャさんが入ってきた時。
驚いたノッグスが、反射で力み、口から魂が飛び出かけた。
――最近の若い子はススんでるにゃ。
妙な勘違いをされたが、訂正することもできなかった。本当に死にかけた。
ぎゃんぎゃん。
俺にとっては、骨が折れそうな絞め技で肉体を精神を鍛える訓練。
ノッグスにとっては、「遊びでダメージを与えること」に慣れる訓練。
ノッグスの張り手はレベル差に勝てなかった。
しかしハイタッチは俺にダメージを与えた。
ぎゃんぎゃんでも同じだ。
「攻撃行為」はレベル参照だが、「遊び」は違う。
おそらく……【力】参照だ。
【名前】ノッグス
【力】28
【賢】3
【防】31
【速】2
異世界チートの主人公は、俺でなくノッグスかもしれない。




