赤くなり 息を切らして 倒れ込む
目が覚める。見知らぬ天井。
ゆっくりと身を起こしながら、昨日のことを振り返る。
家を出て、馬車に轢かれて、冒険者ギルドに行って、チンピラに絡まれたと思ったらいいやつで、依頼を随伴してもらって、初めて魔物と戦って、初めて解体して、初めてBBQなんかしたりして、依頼で得た金で宿に泊まって。
初日ってことで店主さんがごちそう作ってくれたんだ。軟骨のある野菜……あれは驚いた。しかもうまい。
ヒゲモジャで偏屈なタイプかと思ったけれど、優しかったな。
フェスさんが、飯をおまけしてくれってゴネて、笑って流していた。大盛りにしてやるから勘弁しろってさ。
相部屋になったノッグスさん。前の激安宿は本当にキツかったらしく、何度も感謝された。
……その割に相部屋提案を即答じゃなかったのが気になるけど。
宿の中庭で素振り千回と魔法の瞑想をして――そのまま寝ちゃったんだ。
ってあれ、てことは誰かが外から部屋に運んできたのかな。
「おはよう」
穏やかな声音だ。
「おはようさん……。昨日、もしかして外で寝てた?」
「あはは、そうだよ。帰ってこないからびっくりしたよ」
そう言ってクスクス笑う。
ノッグスさんは熊の亜人だ。
こっちの世界の熊は知らないけれど、丸い耳があって、少しふくよかで、背が高い。体が分厚い。
【ステータス】で見れたらいいんだけどな……。
ノッグスさんは、【種族】と【レベル】が見えないタイプだ。なぜかは分からない。ただ、レベル自体はあるらしい。レベル3。ゴブリンとどっこいどっこい、負けかねんレベルだ。
「瞑想してたらつい寝ちゃって……」
「なにしてるんだろうって思ったら、寝てたからね、驚いたよ」
寝るまで訓練だなんて凄いね、と褒められてしまった。素直に嬉しい。
ただ、こういうときに言う台詞は決まってる。
「大したことじゃない」
努力しても謙虚。それこそがチートを引き立てる。
「今日もやるけど……ノッグスさんもやる?」
「そう……だね。うん、やってみるよ。けど、ひとついいかな?」
思いがけない好感触に、少し驚く。もっと消極的なのかと思ってた。
「その、ノッグスさん、って、あの、いいよ、呼び捨てで……」
修行も付き合う。呼び捨てを認める。
一日冒険して仲間になったからだろうか。ずいぶん心を開いている気がする。
この調子で、冒険者としての才能も開けるといいんだけど……。
「分かったよノッグス。それじゃ、まずは素振り千回だ!」
「うん……ってええっ千回!?」
素振りといえば1セット1000回、当然だ!
【名前】ノッグス
【力】15
【賢】3
【防】20
【速】2
【装備】なし
素振り千回を終え、へとへとに倒れ込んだノッグスの【ステータス】を見る。
昨日と特に変わってはいない。
うーん、鍛え方が間違っているのか?
とはいえ俺のレベルが10なのは、たぶん素振りで体を鍛えていたからだろうし……。
ただ、まあ、【レベル】は置いといて。大事なのはこのステータスのバランスだ。
【力】【防】が高く【賢】【速】が低い。
どう見ても前線で体を張る戦士タイプだ。
大きく力強い、それが熊だ。
しかしノッグス本人が、前に出る勇気があるのか……。
「はァ……はっ、はっ、は、う、ん……、あー、はー……」
顔を赤らめて息を切らせるノッグス。
本当に戦士になることができるだろうか?
ノッグス育成計画と頭ん中で練り上げていると、パーティのあと二人が現れた。
半馬人のフェス、猫人のヴァーニャ。
「あっはっはっ! ノッグス死んでるにゃん!」
「レガシィ~、お前マジで容赦ないのな」
倒れているノッグスと、俺を見比べて、こらえきれないように笑う。
「魔物も倒したことねぇガキがなんでレベル10かって……ようやく分かったよ。やっぱり常識ねえんだなあ」
「魔物以外でレベル上げる方法ってないのか?」
「魔物に勝つか、自分に勝つか、それくらいだ。自分をいじめて強くなるなんて……俺には無理だな」
「にゃはは! じゃあ私がいじめてもいいかにゃ?」
「あほ」
なんだ、トレーニングでレベルアップって方法も周知されてるのか。
ただ、素振りが最適なトレーニング方法かは不明、といったところか。
効率的に鍛える、というなら筋トレの方がいいのかもしれないな……。
「それで、練習は終わったか? それなら今度は実戦と行こうぜ」
昨日の内に、依頼を選んでいたらしい。内容はゴブリン退治。
報酬は2体で銅1枚。めちゃくちゃ安い。
が、これが俺とノッグスのための親切なのはよく分かっている。
さて、ゴブリンでいくつレベルがあがるか。それとも上がらないのか……。
「おいレガシィ。せっかく宿取ったんだ、鞄は軽くしとけよ。角でいっぱいになるくらいじゃねえと、またうまい飯食えねえぞ」
ゴブリンの数は角で数える。
耳じゃなくてよかった~。ゴブリンの耳でいっぱいのリュック、さすがにグロすぎるからな。




