表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/21

おうちに帰るまでが冒険です

 親切な馬面のフェス。

 亜人でなきゃ痴女なヴァーニャ。

 冒険者に向いてないとしか思えないノッグス。

 そしてSSSランク冒険者を夢見ている転生チート七歳児レガシィ。


 一緒に飯を囲んで絆も深まったような気がする。


 飯や宿の相場や、よくある依頼、穴場の依頼、大変だった出来事などを聞きながら、森を一周した。

 もう日は傾いている。


「夜になると魔物が強くなる、とかあるんですか?」

「強くなるというか、変わるな。夜にしかいない魔物が、みんな強いわけでもない。ただ夜の魔物は目撃例が少ないからな。未知の魔物もいるかもよ」


 結局、魔物と出会ったのは水狼のみだった。最初の話だとゴブリン退治って話だったけれど……。


「あの森で今増えているのは水狼の方なのかもな」

「じゃあゴブリンは……?」

「食われたか逃げ出しかだろ」


 目撃されたゴブリンは、繁殖しすぎて溢れたのではなく、水狼に追いやられて逃げ出したのか。


「となるといずれ水狼があふれることになりません?」

「水狼はそうポンポン繁殖えないニャ」

「ただ森からずっと出ないわけでもないし、報告は必要だな」


 フェスさんの馴染みだという加工屋に水狼の皮を卸し、代金をもらう。銅の硬貨が三枚。安い飯ならこれで腹いっぱい食える。


「宿代はあるのか?」

「一応銀貨が……」

「なんだ、じゃあノッグスのとこはやめといた方がいいな」

 なんのことだろう?

「10人くらいで雑魚寝する安宿なんだよ。お前、カバンに色々入っているだろうし、ちゃんとしたとこにしろよ。まあ、そういうとこでも盗まれない保証はないがな」

 なるほど治安か。

 冒険者なんだし外で野宿くらいは覚悟していたが、それは冒険のときだけで、街では流石に宿に泊まるか。

 銅貨100枚が銀貨1枚。

 銀貨100枚が金貨1枚。

 ノッグスさんの宿は銅貨5枚。

 個室の宿なら銅貨30~50枚。


 そして現在の所持金は、銀貨2枚に銅貨3枚。

 今日の一日の稼ぎを考えて、宿で散財するのはまずい。

 かといって盗みの心配をして休めなくては本末転倒だ。


「フェスさんのとこは?」

「俺のは1人で銅15枚」

「1人でってことは……」

「相部屋だよ。こいつと」

 フェスさんは馬の鼻先でヴァーニャさんを指す。

 ……もともと二人で組んでて、ノッグスさんと俺の面倒見させられてる、って形だっけ。たしか幼馴染だったかな。

 そういうのいいな。

 じぃっとノッグスさんを見る。

 どうして明らか冒険者に向いてないのに、冒険者なんてやっているんだろう。【レベル】が重要なこの異世界で、なぜ【レベル】が低い? 【レベル】。そう、それに【ステータス】のことで話しもしたい。なぜ【レベル】【種族】が見えない? 僕を拾った冒険者――クサカさんと同じだ。クサカさんを知っている? 【龍砕剣】を知っている?

 考えてみると、色々と話したいことが湧いてきた。【ステータス】のことも、この世界のことも、もちろんノッグスさん本人のことも。

 だから――

「ノッグスさん、相部屋しない?」

「……え、あ……、……嫌ァ」


 答えは拒絶。

 やっぱり俺は異世界ぼっちなのか?






 個室なら安くて銅30枚。

 相部屋なら二人で銅30枚。

 できればノッグスさんにも銅15枚払ってほしいが、無理なら俺が二人分払う。二人分払っても俺から出ていくお金は銅30枚。

 ノッグスさんが今払っている雑魚寝部屋の銅5枚分、むしろ得なのだ。

 これからパーティとして活動していくのだから、お互い親交を深めていきたい。

 たしかに今日知り合ったばかりの怪しい七歳児だけど、十人で寝るよりは、心休まるんじゃないか。歯ぎしりとかしないし。寝相はいい。朝に日課の特訓だとか言ってうるさいかも知れないけど。


 ……はっ!

 異世界ぼっちが受け入れられなくて、つい早口でまくし立ててしまった。

 余計引かれる奴。


 落ち込む。

 ノッグスさんはおろおろとして、俺とフェスさんらを何度も見ている。

 気の弱そうな人だから、俺が嫌でも、気を使ってくれるんだろう。

 俺が……嫌でも……。

 ぐふっ。


「あ、あの。その……僕は相部屋でありがたいんだけど……」


 ん? ありがたい?

 ……いや、「けど」が付いている。なんだ? なんと言って拒絶するつもりだ?


 ノッグスさんは、フェスさんとヴァーニャさんを交互に見てる。


「ん? いいだろ」

「あ~……フェスは分かってにゃいニャ。でも、私も賛成ニャ。パーティなんだし、これから一緒に寝ることもあるにゃ」


「そ、そう? じゃあ……甘えていいかなレガシィくん。本当にお金なくって困ってたんだ。助かるよ」


 なんだかんだあって、結局折れてくれた。

 よかった……異世界ぼっちなんてなかったんや!




 冒険者ギルドで依頼の報告。そもそも依頼はゴブリン退治でなく、離れ森周囲の調査。ゴブリンの溢れ出し(スタンピード)を予想していたが、実際は水狼の定着。

 周辺の村々への注意を呼びかけるらしい。


「普通の人ってどのくらいのレベルなんですか?」

「魔物を狩らないなら、高くて10かしら。ただ、どこの村にも元冒険者はいるわね」


 10というと俺と同じだ。レベルアップの原理を聞きたかったが、受付嬢さんの言葉はシンプルだった。


「近いレベルの魔物を狩るのがいいらしいね」


 ザコ狩りより、接戦を増やしたほうがいいらしい。

 ただ、『近い』というのは『1つか2つ下』のことだ。

 魔物にはいくらかのレベル個体差がある。自分よりレベルが高い可能性がある魔物自体に、近づかないほうがいい。


「レガシィくんは、レベル差が実感できないみたいだからね」


 ふっ、俺のチート能力【ステータス】があれば、相手のレベルなんて一発で分かるんだぜ……?

 まあ、他の人は、能力使うまでもなく分かるみたいだけど。


 依頼は満額達成。報酬は銅貨50枚だった。

 四人で分ければ銅貨12枚。水狼の皮を足してちょうど15枚。

 ……宿代だけでカツカツだあ。これは早々にレベルアップする必要があるぞ。




 フェスさんたちが泊まっている宿は、装飾なのかものぐさなのか、建物に見たこともない細い蔦が張り付いた宿だった。外観で損をしているが、内装はきれいに片付いていて、好印象だった。落として上げる、というか……。

 料金は事前の話通り銅15枚。フェスさんと店主さんは気心が知れているらしく、人を連れたんだから安くしろ、と迫っている。


 部屋は相部屋で、入り口に一番近い部屋をノッグスさんが選んだ。

 フェスさんとヴァーニャさんは最奥の洗面所側だ。

 遠いが、でもまあ同じ建物だ。なにかあればすぐ集まれるだろう。

 部屋の位置にこだわりがあるようだから、おまかせした。




 おうちに帰るまでが冒険です。


 冒険者ギルドに行き、魔物を倒し、依頼を達成し、仲間とともに宿に泊まる。

 はっきり言おう。

 満点だ。これぞ異世界冒険者の生活だ。

 ……チートはないけど、でも、満足だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ