おうちに帰るまでが冒険です
親切な馬面のフェス。
亜人でなきゃ痴女なヴァーニャ。
冒険者に向いてないとしか思えないノッグス。
そしてSSSランク冒険者を夢見ている転生チート七歳児レガシィ。
一緒に飯を囲んで絆も深まったような気がする。
飯や宿の相場や、よくある依頼、穴場の依頼、大変だった出来事などを聞きながら、森を一周した。
もう日は傾いている。
「夜になると魔物が強くなる、とかあるんですか?」
「強くなるというか、変わるな。夜にしかいない魔物が、みんな強いわけでもない。ただ夜の魔物は目撃例が少ないからな。未知の魔物もいるかもよ」
結局、魔物と出会ったのは水狼のみだった。最初の話だとゴブリン退治って話だったけれど……。
「あの森で今増えているのは水狼の方なのかもな」
「じゃあゴブリンは……?」
「食われたか逃げ出しかだろ」
目撃されたゴブリンは、繁殖しすぎて溢れたのではなく、水狼に追いやられて逃げ出したのか。
「となるといずれ水狼があふれることになりません?」
「水狼はそうポンポン繁殖えないニャ」
「ただ森からずっと出ないわけでもないし、報告は必要だな」
フェスさんの馴染みだという加工屋に水狼の皮を卸し、代金をもらう。銅の硬貨が三枚。安い飯ならこれで腹いっぱい食える。
「宿代はあるのか?」
「一応銀貨が……」
「なんだ、じゃあノッグスのとこはやめといた方がいいな」
なんのことだろう?
「10人くらいで雑魚寝する安宿なんだよ。お前、カバンに色々入っているだろうし、ちゃんとしたとこにしろよ。まあ、そういうとこでも盗まれない保証はないがな」
なるほど治安か。
冒険者なんだし外で野宿くらいは覚悟していたが、それは冒険のときだけで、街では流石に宿に泊まるか。
銅貨100枚が銀貨1枚。
銀貨100枚が金貨1枚。
ノッグスさんの宿は銅貨5枚。
個室の宿なら銅貨30~50枚。
そして現在の所持金は、銀貨2枚に銅貨3枚。
今日の一日の稼ぎを考えて、宿で散財するのはまずい。
かといって盗みの心配をして休めなくては本末転倒だ。
「フェスさんのとこは?」
「俺のは1人で銅15枚」
「1人でってことは……」
「相部屋だよ。こいつと」
フェスさんは馬の鼻先でヴァーニャさんを指す。
……もともと二人で組んでて、ノッグスさんと俺の面倒見させられてる、って形だっけ。たしか幼馴染だったかな。
そういうのいいな。
じぃっとノッグスさんを見る。
どうして明らか冒険者に向いてないのに、冒険者なんてやっているんだろう。【レベル】が重要なこの異世界で、なぜ【レベル】が低い? 【レベル】。そう、それに【ステータス】のことで話しもしたい。なぜ【レベル】【種族】が見えない? 僕を拾った冒険者――クサカさんと同じだ。クサカさんを知っている? 【龍砕剣】を知っている?
考えてみると、色々と話したいことが湧いてきた。【ステータス】のことも、この世界のことも、もちろんノッグスさん本人のことも。
だから――
「ノッグスさん、相部屋しない?」
「……え、あ……、……嫌ァ」
答えは拒絶。
やっぱり俺は異世界ぼっちなのか?
個室なら安くて銅30枚。
相部屋なら二人で銅30枚。
できればノッグスさんにも銅15枚払ってほしいが、無理なら俺が二人分払う。二人分払っても俺から出ていくお金は銅30枚。
ノッグスさんが今払っている雑魚寝部屋の銅5枚分、むしろ得なのだ。
これからパーティとして活動していくのだから、お互い親交を深めていきたい。
たしかに今日知り合ったばかりの怪しい七歳児だけど、十人で寝るよりは、心休まるんじゃないか。歯ぎしりとかしないし。寝相はいい。朝に日課の特訓だとか言ってうるさいかも知れないけど。
……はっ!
異世界ぼっちが受け入れられなくて、つい早口でまくし立ててしまった。
余計引かれる奴。
落ち込む。
ノッグスさんはおろおろとして、俺とフェスさんらを何度も見ている。
気の弱そうな人だから、俺が嫌でも、気を使ってくれるんだろう。
俺が……嫌でも……。
ぐふっ。
「あ、あの。その……僕は相部屋でありがたいんだけど……」
ん? ありがたい?
……いや、「けど」が付いている。なんだ? なんと言って拒絶するつもりだ?
ノッグスさんは、フェスさんとヴァーニャさんを交互に見てる。
「ん? いいだろ」
「あ~……フェスは分かってにゃいニャ。でも、私も賛成ニャ。パーティなんだし、これから一緒に寝ることもあるにゃ」
「そ、そう? じゃあ……甘えていいかなレガシィくん。本当にお金なくって困ってたんだ。助かるよ」
なんだかんだあって、結局折れてくれた。
よかった……異世界ぼっちなんてなかったんや!
冒険者ギルドで依頼の報告。そもそも依頼はゴブリン退治でなく、離れ森周囲の調査。ゴブリンの溢れ出しを予想していたが、実際は水狼の定着。
周辺の村々への注意を呼びかけるらしい。
「普通の人ってどのくらいのレベルなんですか?」
「魔物を狩らないなら、高くて10かしら。ただ、どこの村にも元冒険者はいるわね」
10というと俺と同じだ。レベルアップの原理を聞きたかったが、受付嬢さんの言葉はシンプルだった。
「近いレベルの魔物を狩るのがいいらしいね」
ザコ狩りより、接戦を増やしたほうがいいらしい。
ただ、『近い』というのは『1つか2つ下』のことだ。
魔物にはいくらかのレベル個体差がある。自分よりレベルが高い可能性がある魔物自体に、近づかないほうがいい。
「レガシィくんは、レベル差が実感できないみたいだからね」
ふっ、俺のチート能力【ステータス】があれば、相手のレベルなんて一発で分かるんだぜ……?
まあ、他の人は、能力使うまでもなく分かるみたいだけど。
依頼は満額達成。報酬は銅貨50枚だった。
四人で分ければ銅貨12枚。水狼の皮を足してちょうど15枚。
……宿代だけでカツカツだあ。これは早々にレベルアップする必要があるぞ。
フェスさんたちが泊まっている宿は、装飾なのかものぐさなのか、建物に見たこともない細い蔦が張り付いた宿だった。外観で損をしているが、内装はきれいに片付いていて、好印象だった。落として上げる、というか……。
料金は事前の話通り銅15枚。フェスさんと店主さんは気心が知れているらしく、人を連れたんだから安くしろ、と迫っている。
部屋は相部屋で、入り口に一番近い部屋をノッグスさんが選んだ。
フェスさんとヴァーニャさんは最奥の洗面所側だ。
遠いが、でもまあ同じ建物だ。なにかあればすぐ集まれるだろう。
部屋の位置にこだわりがあるようだから、おまかせした。
おうちに帰るまでが冒険です。
冒険者ギルドに行き、魔物を倒し、依頼を達成し、仲間とともに宿に泊まる。
はっきり言おう。
満点だ。これぞ異世界冒険者の生活だ。
……チートはないけど、でも、満足だ。




