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ちづねぇの福音書  作者: 冴月小次郎
2/2

続き


          4



 5月3日。憲法記念日という祝日。空は腹立たしい程に晴れ渡っていた。

「……で、試合当日か」

「東条さん、何だか顔色悪いですよ?」

「いや……何させられるんだか考えると胃がキリキリしてね……」

 剣道場に向かう通路で俺は溜息を吐いた。あぁ、吐き気までしてきた。

 閣下と麗花姉、それから倉木先輩は色々と打ち合わせしてるようだが、俺と御子神さんは何も知らされていない。試合を叩き潰すって言っても下手なやり方をしたら生徒会メンバー総辞職ものだろうし……。

「まるで悪の秘密結社みたいですね、我が校の生徒会って」

 隣を歩く御子神さんが肩を竦めてニコリと微笑む。他人事みたいに言ってますが、貴女もその生徒会メンバーなんですよ御子神さん?

 剣道場の前には人だかりが出来ていた。折角の祝日なのに、どいつもこいつも暇な奴等だ。

「よお、漸く生徒会の登場だな」

 俺と御子神さんに気付いた同級生の大林が声を掛けてくる。もしかして『生徒会の登場』と『生徒会の東条』を掛けてる?

「おい、モブキャラA――じゃなかった、大林、この人だかりは何だ?」

「お前の人間性がよく判ったよ。――ってか、俺が聞きたいよ。会長閣下と副会長殿が今朝、俺等一般生徒に集合掛けて来たんだが……で、一体何を企んでるんだよ、東条ハーレムは??」

 何だよ、東条ハーレムって? そんな世間体が悪い単語を通常会話に織り込まないでくれ。

 俺は御子神さんと顔を見合わせ、

「……剣道の試合だよね?」

「……の筈ですが」

 まったく訳判らん。ってか、もう帰りたくなってきた。

 後ろに御子神さんと大林を引き連れ、人ごみを掻き分けて剣道場内に足を踏み入れる。

 んん……?

 観客達は何故かブルー・シートが貼られた壁際にゾロゾロとひしめきあっており、中央の白線で区切られた試合スペースには桃女とウチの剣道部顧問が眉間に皺を寄せて立っていた。何と言うか、どちらも禁煙一週間目のヘビー・スモーカーみたいな表情している。

「あ~くん、あ~くん」

 トントン、と後ろから肩を叩かれた。この声は麗花姉か?

 振り返ると麗花姉に倉木先輩、それから桃女の制服を着た女性が立っていた。肩で揃えたショートの髪を揺らし、垂れ目がちの瞳でニコリと微笑みを浮かべている。誰?

 麗花姉が右手をバスガイドのように折り曲げ、件の女性を指し示した。

「こちらは桃女の生徒会長の井沢由香さん。お使いで桃女に行って貰う事もあるから、顔覚えておいてね。――井沢さん、彼がウチの奴隷……じゃなかった、執事……でもないわね。新入生の東条です」

 ど、奴隷……。

 ライフ値を根こそぎ奪われてしゃがみこんだ俺の肩を、御子神さんが慈愛に満ちた表情でポンポンと叩く。やめて。今優しくされたら心が折れて信仰に目覚めそうだ。

「あの~~……大丈夫ですか?」

 井沢さんが小首を傾げ俺の顔を覗き込む。

「すいません。大丈夫です。――で、これはどういう状況なんですか?」

 何とか立ち上がり、周りを見回す。

 井沢さんも周囲に視線を向けて、

「時間が来てるのに部員達が控え室から出て来ないんです。それで先生方があの通り、イライラ度が絶賛上昇中で……」

 と、表情筋を少しだけ動かし微笑を微苦笑に変えてみせた。器用な人だ。

 ふむ。――呼びに行けばいいだけの話じゃないか、それって?

「うん? ……麗花姉、そう言えばおバカ女帝と残念系保険医――じゃなかった、閣下と榊原先生の姿が見えないけど?? 部員を呼びに行ったの??」

「そう……とも言えるかな?」

 麗花姉が微妙な笑みを浮かべた。何それ?

 

 ガギッ!!

 ギンッ!!


 ん? 何の音だ??

 そこかしこから女子の悲鳴と男子の歓声が響き渡り、それを縫うように黒い影が二つ、道場内を飛燕のごとく飛び回っている。

「な、何だっ!?」

 影は試合スペースの中央で二人の人間の姿になった。双方とも長い髪をポニーにし、防具を外した剣道着姿の――早い話、袴姿の――少女なのだが、左の少女は双剣を構え、右の少女は槍を持っている。

「チッ。やるわね、アンタ。でも双剣を持つサーヴァントなんて聞いた事がないわ。何者なの?」

「それはクラスの事を尋ねているの? ならば、2―Bと答えるわ」

「ふざけないでッ!!」

 凄まじいスピードで繰り出される槍の穂先を、双剣を持った少女はギリギリでかわしていく。あの槍と双剣、切っ先がギラリと光ってるんだが……まさか、真剣??


 ……聖杯戦争だ。

 ……我が校で第5次聖杯戦争が勃発した??


 観客達がザワザワと騒ぎ出す。

 聖杯……戦争??

「お前達、何やってるんだッ!!」

 漸くフリーズが解けたのか、顧問二人が怒気に顔を赤く染めてドスドスと問題の二人に近付いて行った。

「……ッ」

 槍を構えてる少女が眉間に皺を寄せて軽く舌打ちをする。眼が一瞬、紅く光ったような気が……。ヤバイ、と感じる前に俺は走り出した。

「あ~くん!?」

 後ろで麗花姉の間延びした声が聞こえたが無視。

「東条、これを使えッ!!」

「あンッ!?」

 背後から飛んで来たものを条件反射的にキャッチする。……新聞紙? こんなもんでどうしろと言うんだよ、大林??

「丸めて棒にしろッ! そういう決まりだ!!」

「どこ限定の決まりだ、コラッ!?」

 訳が判らんまま槍の前に突っ込み、顧問二人を突き飛ばす。そのまま振り返り様に丸めた新聞紙で眼前の穂先を払う。

「クッ!?」

 槍の少女がたたらを踏み、半歩後ろに退がった。眉間に皺を寄せた険しい眼で俺を睨む。元が美少女なだけに、凄まれるとマジに怖い。

「ふうん……なかなか筋は良さそうね。でも――ッッ!!」

「なッ!?」

 数百数千に分裂したかのように、凄まじいスピードで繰り出される槍の穂先。少年漫画で何度か観た事あるシーンだが、リアルで体験するとは思わなかった。

 舌打ちし、体を屈めながら一歩踏み込み槍を持つ手を引っぱたく感じで新聞紙を一閃させる。

「甘いッ!!」

「うぐッ!?」

 槍がグルリと反転して石突き部分が俺の腹に喰い込んだ。一瞬だが呼吸が停まり、そのまま観客達の居る場所まで吹っ飛ばされる。

「ゲホッ、グッ……グフッ……」

 チッ、涙が浮かんで来る。呼吸が苦しくなると涙が出て来るんだな、初めて知ったよ。出来る事なら永遠に知りたくなかったが。

 ゆっくりと槍の少女が前に踏み出す。

「迷わず逝ってね……少年」

 上段から振り下ろされる槍の穂先がギラリと光った。

 クッ。何でこんな事に……。

 つい目を瞑る。


「……ッ!!」


 瞬間、俺の前で風が吹いた。

「何ッ!?」

 槍が弾かれ、俺の前には制服姿の少女が立っていた。手には両刃の剣を持ち、ショートの髪を揺らして険しい瞳をしている。――って、もしかして部長さん??

 険しい瞳が俺の方に向いた。

「――問おう、貴方が私のマスターですか?」


「ウオオーッ!!」


 俺が何か口にする前に、何故か観客達から歓声を湧き上がった。



          5



 剣を下段に構えたまま、部長さんは槍の少女に対して一気に間合いを詰めた。

「デヤァァーッッ!」

裂帛の気合いを放ち、逆風に剣を振り上げる。

 槍の少女は慌てて後方に飛んだが、手にしてた槍が空中へ舞い上がった。そのままクルクルと回転しながら弧を描くように落下し、床にザクリと突き刺さる。

部長さんはそのまま双剣の少女に斬りかかった。

刃と刃が激しく衝突し、澄んだ高音が響き渡る。


「セイバーッ!!」

「セイバーッ!!」


 どうやら観客の皆さんは俺以上にこの状況を理解してるらしい。誰か、こっからどう収拾を付ければいいか教えて下さいませんかね?

 石突きに突かれた腹部を押さえながら立ち上がり、呼吸を整える。この奇妙奇天烈な状況を作り出したのは絶対に閣下だ。とにかく、あのおバカ女帝を捕まえよう。

「大丈夫か、東条?」

 大林が駆け寄って来て、俺の右腕を掴んだ。そのまま俺に肩を貸してくれる。

「ハァ、ハァ……悪いな、大林」

「いや、気にするな。――俺の方こそ、すまん」

「は?」

 今、カチッて聞こえたような……??

 その音が何なのか確かめる前に、踵が畳から離れた。

「お、おいッ!?」

 学生服の下――ズボンのベルト通し部分に、テグスのような極細のワイヤーが括り付けられたカラビナが引っ掛けられてる。それも3ヵ所。

 いつの間に、と突っ込む前にフワリと天井近くまで俺の体が上昇した。

 そして――


 コツ、コツ……


 金色のプレートメイルを纏った閣下と神父のような格好をした榊原先生が近付いて来た。それも空中を歩いて、だ。観客達が息を飲み、おぉ~、と驚愕の声を挙げる。

「出たなッ! 妖怪共ッ!!」

「何て事言うのよ、この馬鹿」

 榊原先生にグーで殴られた。理不尽だ。

 先生が手馴れた動作で俺の両腕を縛り、頭の上に持ち上げる。

「――この地に集いしサーヴァント達よッ! 求めし聖杯はここにあるッ!」

 俺のワイシャツの襟元に右手をかけ、一気に引き裂いた。ボタンが弾け飛び、筋肉の薄い俺の貧弱な胸板が衆目に晒される。


「おぉ! 榊原先生が言峰ことみねで閣下が英雄王か!? ある意味、ハマリ役だな」

「え? すると……東条がイリヤか? それは抗議するぞ。イリヤは銀髪少女だ。それ以外認めん!!」

「お前、ロリコンだったのか!?」

「縛られた男の子の白くて薄い胸板……あぁ、濡れるッ!!」

 

 最後の声、もしかして……桃女の井沢会長さんじゃありませんか?

 もう、どうにでもしてくれ。

「不貞腐れないの、こら」

 苦笑いした閣下が俺の頭を撫で、そのまま右手を天井に向けた。長い黒髪がフワリと舞い上がる。「――ゲート・オブ・バビロン……」

「なッ!?」

 瞬間、天井から何十本もの竹刀やら木刀が試合スペースに降りそそいだ。いや、モップや野球部のバットまで混じってる。もう無茶苦茶だ。

 部長さん達サーヴァントと呼ばれた三人娘は、自分の武器を振るって体に当たる範囲に降るそれらを難なく弾き返す。しかし……。

「おわッ!? や、やめろ、お前等ッ!」

 顧問の男性教師達にその芸当は無理だったようで、頭に両手を当てて、ヒィヒィ言いながら逃げ回っていた。

 何だかな……。

「ったく。――いい加減にしろ、閣下ッ!! こんなの試合でも何でもぇッ!!」

 俺の一喝に場内が水を打ったように静かになった。天井から降っていた竹刀や木刀の雨も、掻き消すように消滅した。

「そ、そうだッ!! こんなもの、試合と認められるかッ!!」

「試合を滅茶苦茶にしやがって! 絶対に許さないぞ、生徒会長ッ!!」

 おそるおそる天井を見上げ、竹刀が降ってこないのを確認した顧問二人が非難の声を上げた。――何だろう、顧問のプライドとか教師の威厳が一切感じられない、この残念な感じは? 遠山の金さんのお白州に引き出された悪代官フラグが建ってる。

 閣下がニヤリと笑みを浮かべた。顧問達の台詞は折り込み済みらしい。

「……ならば、負けた方は解散という罰ゲームありの試合ならば認められると?」

「なッ!?」

「どッ!! どこでそれを……」

 成程。ここでそこに接続するか……。ってか、ここは突っ張ろうぜ、先生。部外者には関係ないとかさぁ。

 

「ええ~、それ何か酷くない、先生??」

「TVのバラエティー番組じゃあるまいし……何だよ、負けたら解散って……」


 小声だが明らかに非難する声が観客達から起こる。ザワザワって、まるでどっかのギャンブル漫画みたいだな。

 トコトコと桃女の井沢会長さんが試合スペース内に入って来る。

「我々、桃女の生徒会の方もその事実を確認しています。今の先生方の発言は差し詰め『墓穴を掘った』ってところですね」

「や、やかましいッ! 大体、部員数もギリギリ、大会は必ず予選負け――そんな部活潰したところで何の問題も無いだろうがッ!!」

「そ、そうだッ! 部活を一つ潰せば予算にも余裕が……」


「……本気でおっしゃってるのですか、先生方?」


 厳しい口調の年配の女性の声が響き、モーセの紅海の奇跡のごとく観客達が二つに割れて道が出来た。そこをしずしずと和装姿の男女の老人が歩いて来る。この人達、どっかで見たような? 確か入学式で……。

「こ、校長ッ!?」

「り、理事長ッ!? 何故ここにッ??」

 驚愕に目を開いた先生達が慌てて走り寄って来た。そうだ、羽織袴を纏った男性は確かウチの校長で、藍色の生地に花を散らしたメッチャ高価そうな京友禅を着てるのが来賓で挨拶してた桃女の理事長さんだ。

「お二方……今日はこのまま帰って謹慎なさい。処分は追ってお知らせします」


 ウオオーッッ!!


 お奉行さまの裁きが下ったようだ。

 閣下が俺の横で微笑む。

「ふむ。聖杯は満たされた……ってところかしらね?」



          6



 翌日の放課後。

 俺達生徒会の面々に榊原先生、それから大林に女子剣道部の部長さんは麗花姉のタブレットで妙な動画を観ていた。


『……迷わず逝ってね、少年』

『……問おう、貴方が私のマスターですか?』

『……デヤァァーッ!!』


 廃墟と思われる教会の中で剣を持った三人の少女達が戦ってる動画だ。それも天井から吊るされてる人質は、ワイシャツを裂かれて貧弱な胸板を晒してる俺である。

「何だよ、これ……??」

「背景とか細かい部分はCGだ。良く出来てるだろう?」

 何故か大林が自慢気に胸を反らす。

「質問の意味が判らなかったか、大林? 俺は『何だよ、これ?』と言ってるんだ」

「映画同好会CG班が徹夜で制作した動画だ。某サイトに今朝アップしたら、昼休みの段階で視聴回数50万を超えていた。凄いだろう?」

 CG班?

「言ってなかったな。俺の裏の顔は映画同好会CG班のリーダーなんだよ」

「ま、まじでか?」

「マジでだ」

 眼の下にクマがある大林がニヤリと笑う。

 四方の壁にブルーシートが貼ってあったのは後でCGを合成する為だったのか……。

 すると、天井から竹刀やら何やらが降って来て、いつの間にやら消えてたのもそっち系の絡繰りか? プロジェクション何とかかんとか……??

 部長さんが溜息を吐いた。

「朝から学校の電話が鳴りまくってるの。どこで調べたのか、全部、動画を観たっていう映像関係者で……是非、うちのドラマや映画に出演してくれないかって……。海外からの問い合わせもあって、対応に疲れた先生方が白い目で私達を見るから、もう怖くって怖くって……」

 不祥事が発覚した大企業のように、ひっきりなしに電話が鳴り響く職員室……そこに一歩足を踏み入れると疲れきった表情した教員達が白い眼でこちらを見詰める――もうホラーの世界だぞ、それ。

「でも部長さん、あの時、ノリノリで演技してなかったか?」

 と、倉木先輩。「――あ、東条。お茶頼む。お茶菓子も付けろよ」

 はいはい。俺は生徒会室のセバスチャンですからね。立ち上がってお茶の準備に戸棚に向かう。

「う~ん……実はよく憶えてないのよね、私。試合前、控え室に榊原先生と閣下が来て、話をしてて……あれ? 何の話をしてたんだっけ??」

 部長さんが小首を傾げる。……って、ちょっと待て。

 戸棚からティーカップを出そうと手を伸ばしたところで俺は動きを止め、閣下をギロリと睨んだ。

「……な、何、明? 眼が怖いんだけど……」

「今回の訳の判らん試合、全部、閣下のシナリオなんですよね? 動画をアップする事で女子剣道部を話題の的にして、学校側が潰せないようにしたと??」

「う、うん、そう……なんだけど……」

 閣下の声が尻すぼみに小さくなるが、取り敢えずスルーする。

「――榊原先生、カウンセリングの一環で催眠術を使う事もありましたよね?」

「……」

 おい、残念系保険医。聞こえないフリして通販カタログ読むのやめろ。ってか、男子の前で下着のページ開くな。

「アンタ等、まさか……」

 閣下が「いやぁ、何の事かな?」と馬鹿っぽい笑いをして誤魔化す。

「え? もしかして私達、催眠術かけられたの??」

 部長さんがキョトンと可愛い顔をする。

 ふむ。

 本当に催眠術をかけてるとしたら、今も後催眠状態で暗示が残ってる可能性があるな。

「……部長さん」

「ん? 何??」

 部長さんが俺の方に振り向いた瞬間、パチンと指を鳴らしてみる。

「……ンッ!?」

 一瞬、目を見開き……すぐに瞑って顎がカクンと落ちた。

 御子神さんが怯えた表情を浮かべる。「――あ、あの……部長さん??」

 ゆっくりと部長さんが瞼を持ち上げた。氷の剣のような切れ長の瞳で俺を見上げる。

「マスター……敵は?」

「行け、セイバーッ! そこのチビッ子独裁者を倒すんだッ!!」

「承知ッ!!」

 立ち上がった部長さんが、ゆっくりと八双に構えた――どこで見付けて来たのか、鉄パイプを。


 ――


 数時間後。生徒会室は暴風雨が吹き荒れたような惨状となった。





 追記。

 この動画アップ以降、男子生徒の間では女子剣道部の面々を隠し撮りした写真が裏取引されるようになった。写真の出元は映画同好会だとか、売り上げの5%が女子剣道部の予算に納められてるとか不穏な噂が流れてるが、真相は不明だ。

 それから――


「東条、女子の間で妙な本が出回ってるぞ。ほれ」

「ん? ……こ、これは……」

 大林が持って来たのは、いわゆるBL同人誌だったのだが、その表紙は……切り裂かれたワイシャツ姿で拘束された……。

 俺は、その薄い本をグシャリと握り潰してゴミ箱に全力で投げ込んだ。

「見なかった事にするわ」

「ちなみに、女子達からそれの実写化希望の声が多数寄せられているんだが……やってみないか?」

「……」

 ガクリと力が抜けて俺は机に突っ伏した。


 ――こんな学校、とっとと潰れてしまえ。


ついやってしまった。

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