信仰心のお話
「なぁなぁ!旦那ぁ!『神様の殺し方』って知ってるかい?」
「なんだいお前さん?藪から棒に『人様が信仰を忘れていまうと神様が消えちまう』ってあれいかい?」
「なんでぇ旦那ぁ知ってんのかい……つまんねぇなぁ……」
「つまらないとは本当お前さんは失礼だね」
「いやねぇ、さっき聞いた話を忘れちまう前に誰かに話したくて話したくて!」
「なんだいさっき聞いたばかりの話をひけらかしに来たのかい」
Storyteller ― 噺家・久遠家 倖甚 ―
「しっかし、神様も人様におべっか使ってねぇと生きてられねぇってんだから世知辛い話でさぁ」
「そうだね、大神様から付喪神まで揃って人様にヘコヘコしてるってのは締まらん話だ」
「いやそれがね旦那ぁ!大神様とかはやらなくてもいいらしいんでぇ!」
「ほう?そりゃどうしてだい?」
「子分の神様や退治した物の怪達なんかから上前はねってから!」
「おいおい……世知辛い話がきな臭い話になってきたよ」
「例えば近所お堂に流行りの神様がいると『ありがてぇありがてぇありがてぇありがてぇ』ってみんな拝むじゃねぇですか」
「おう近所の神様は拝むね」
「ならその上にいる大神様もきっとすげぇんじゃねぇかって『ありがてぇありがてぇありがてぇありがてぇ』っとみんな一緒におがんじまうんでさぁ」
「あー確かに上の神様がいるって聞いたら意識しちまうね」
「悪さしてる物の怪を神様が退治してくれりゃ『ありがてぇありがてぇありがてぇありがてぇ』って感謝されて畏れを信仰として奪っちまうんでさぁ」
「なるほどねぇ!しかしそれじゃぁ子分の神様にしたらてめぇの信仰の採られ損なんじゃないのかい?」
「そこは旦那ぁ織り込み済でさぁ!並の神様が一人フラフラして様もんなら下手打っちまえば忘れさられて『スッ……』と消えちまうかもしれねけど、大神様がいりゃ子分の神様もこえぇ物の怪もみんな一緒に思い出して貰えてそうそう消え地まわねぇって寸法でさぁ!」
「上手く出来てたもんだね、まるで一家の大親分だ」
「大神様の話はわかったが下の神様はどうなんだい?手前様の食い扶持増やす手とかは有るのかい?」
「そりゃ当然ありますぜ!しっかり忘れず聞きやしたから!」
「お前さん……日頃からそれぐらいしっかししてくれれば良いんだけどね……」
「大神様の下に並の神様がいるように、並の神様もイキの良さそうな人間見つけては舎弟にしちまうんでさぁ!ちょいと神通力でも与えてやって物の怪退治や戦働きをしてくれりゃ、周りの連中が『神様の御利益だぁありがてぇありがてぇありがてぇありがてぇ』って盛りあがるそうで!」
「なるほど!確かにそいつも立派な信仰心だ!しかし今のご時世じゃ物の怪も戦もろくに無いじゃないか?活躍の場がなきゃ武勇も挙げられるに何もしない寝太郎や力任せの与太者とかも出ちまうんじゃないかい?」
「そいつばっかりは賽の目と同じでさぁ……そいつか成功するかどうかなんて誰にもわかりゃしませんよ」
「なんだいなんだい、神通力も出目次第と派とんだ博打だね」
「そらもう大博打でさぁ、力を与えた後はもう祈ること位しか出来ねぇって事でしょぅ」
「いやお前さん、祈るって何にさ?」
「そりゃ旦那!『神様』にでしょう!」
おあとがよろしいようで