Lv.1 スライム討伐、後編
「なるほど、それで撤退してきたというわけですね。」
俺は森から撤退し、ネモフィラと夕食を食べながら顛末を報告していた。
ネモフィラは俺がスライムを討伐できずに撤退してきたことに
別段驚いていないようだ。
「失望はしていませんよ。
むしろ、死なずに帰ってきて、
さらに、スライムゼリーを採取してくれたことに驚いているくらいです。」
「もしかして、俺がスライムの討伐に失敗することはある程度、読んでいたんですか?」
「ええ、勇者様にはモンスターの危険について
身を持って感じていただこうと思いました。
念のため蘇生の準備もしていたのですよ。」
俺はその言葉に絶句してしまった。
「いくら何でもひどいじゃないですか!
忠告することだってできたのに!俺は死ぬところだったんですよ!」
「あなたは死にません。
いえ、死なないというのは語弊がありますね。
御神の加護により、あなたは生き返ります。
私たち人間は死ねば導かれ、この世に戻ることはできません。
ですが勇者様、あなたが死の先に導かれるのは、再びこの世界なのです。」
淡々と説明するネモフィラに俺は、恐怖を覚えてしまった。
フラウとの時に起きた、初めての死
あれはとても、慣れるものではない。
思い出したくもない……。絶対にもう一度体験したくはない。
「生き返れるからって、死ぬのは怖いです」
「ええ、そうでしょう。
その恐怖を乗り越えて初めて、あなたは"勇者"と呼ばれます。
ですがあなたに死ぬリスクは私たちに比べ、大きく低いです。
死ねばまた、ここに帰ってくることができます。そう、死ねば……」
ネモフィラは細いに薄っすらと涙が浮かんでいた。
突然の涙に言葉を失ってしまった。
「勇者をやめて平凡に生きるという選択肢もあり、前例もあります。
私は仕事を斡旋することだってできますよ。」
そう言い残し、ネモフィラは立ち上がり、ドアを開けた。
「決めるのはあなたです。"ハヤト"さん」
そう言い残しネモフィラは部屋から出て行った。
残された俺はこの先のことを律義に考えていた。残された二人分の皿を洗いながら。
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拠点のベッドに寝ころびながら、ひたすら考え込んでいた。
もちろん、今後の方向性についてだ。
能力も高くはないし、はっきり言って死ぬのは怖い。
はっきり言って、俺に勇者の才能はないだろう。
「あーあ、結局才能かぁ…」
そんな言葉が漏れてしまい。別のことを考えることにした。
他の考えごとについてはすぐに浮かんできた。
スライムに勝つ方法だ。
武器はこん棒で正しいはずだ。
剣を使っても、にわか仕込みの剣では軟体に獲物を取られてしまうだろう。
そういえば、スライムには弱点らしき場所があったことを思い出した。
スライムに飲み込まれかけた時思わずつかんだ、赤い目のような場所だ。
赤い目をつかんだ時、スライムは明らかにダメージを受けていた。
次は赤い目をたたけば、倒せるかもしれない。
いつの間にか、俺の考え事は勇者になるか、ならないかから
スライムをどう倒すかに切り替わっていた。
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ベッドの上で目が覚めた。窓からは太陽が昇り始めているのが見える。
考え事をしているうちに眠ったようだ。
教会の外に出てみると、ネモフィラが昇る太陽を見ていた。
「おはようございます。ネモフィラさん」
「あら、おはようございます。なかなか早起きですね。
昨日は突然あんな話をしてしまい。申し訳ありません。
その顔つき、決心は固まったようですね。」
「はい、俺は勇者になります。
死ぬのは怖いし、戦う力だってあるわけじゃないけど、
だからといって、あきらめたくない。自分の力で世界を変えられるのに、
行動しないなんて俺にはできません!」
「ふふ、そう言うと思っていましたよ。
あなたは今までの記録の中で最弱の勇者になるでしょう。
ですが諦めることはありません。弱いなら弱いなりに成長すればいいのです!
勇者様、私はあなたを応援しています。」
ネモフィラさん、俺のこと弱いって言い過ぎじゃないか?
ほんとのこととはいえ、ちょっと傷ついた。
「今日こそ、スライムを倒したいです。
ただ、対策もなにもないまま行っても昨日を繰り返すだけですよね?
だからスライムにかかわらず、魔物の弱点とか教えてほしいです。」
「魔物については私よりももっと詳しい人がこの町にいます。
教えを請いに来る人はもっぱら来ないようなので、喜んでおしえてくれると思います。
朝ご飯を食べたら、場所を教えるのでぜひ行ってみてください。
あの子も変わりものですけど、悪い子ではないですよ」
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ネモフィラに教えてもらった場所に移動すると大きな建物のような場所があった。
どうやら魔物の研究家さんは、研究でお金を稼いげているようだ。
おそるおそるドアをノックすると、小さな女の子が出てきた。
年齢は小学生と中学生の間くらいだ。
おそらく研究家のお子さんだろう。俺は子供は好きだ。無邪気で純粋で話しやすい。
「こんにちは。お父さんかお母さんと話がしたいんだけど……」
「はぁ?いきなり来てなにさ?うちにけんか売ってるの?
んんん?君、初めて見る顔やね?」
どうしてこの子は怒っているのだろう。明らかに小学生の剣幕ではない。
こっちをじろじろ確認して、なにかわかったようだ。
「あーーー!そういうことね!じゃあ、うちをしらんくても、まあしゃあないな
ごめんな!おどろかせて!まあ立ち話もあれやし、はいり!」
そういうと女の子は扉を開け、家の中に招き入れている。
恐怖を乗り越えて、勇者だ。意味のわからない展開に圧倒されながら建物の中に入ると
客間のような場所に通された。客間への通路には多くの本が積まれていた。
「まあ、座りや!久々の客や!ゆっくりはなそ!」
女の子はてきぱきとお茶とお菓子を用意しながら、対面に座った。
「自己紹介やな!うちはフィート!この研究所の一番偉い人や!
この研究所、うち一人しかおらんけどな!はっはっは!」
「ハヤトといいます。モンスターについて聞きたく…」
「ホンマか!それは嬉しいなぁ!うちの研究に目をつけるとはお目が高い!
君、噂の最弱勇者やろ!小さい町や、すぐに噂は広まるねん!
けど、モンスターと戦う前に準備をするのは素晴らしい心がけや!
それがスライムだとしてもな!はっはっは!
そういえば、うちが何でこんな小さいのか知りたいやろ?
これはな……魔王の呪いや……ある人を助けようとしてな。
結局うちは呪われ、その人は助けられなかったんや……
なーーんて嘘や!あっはっは!なに辛気臭い顔しとんの!
スライムに負けたくらいで、そんな顔しなさんな!
あ!これは秘密にするべきものだったな!まあ、衛兵に見られたのが運の尽きやね!
勇者っていうのは運が高いもんだとおもってたけど、そういうわけでもないんやね!
けど、取り込まれてから生き残ってるんやから運は良いほうか!
いやぁー別の世界から来たなんて研究者としてはうらやましい限りやわ!
うち、勇者と話す機会は多いけど、なぜか避けられてるっぽいねん!
やっぱ美少女すぎるのも罪やね!ってそんな理由なわけあるか!あっはっはっはっは!!
美少女といえばなっ!………」
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モンスターについて、長い話をフィートから聞いた後、夕方町を出た。
スライムは朝、昼は動きが早く、夕方に鈍くなり、夜は動かなくなるため
夕方に戦い、危険な魔物が多くなる、夜には町に戻ることを提案されたためだ。
前、戦った森に入り、スライムを見つけた。
今度は気配を殺し静かに静かに近づいた。
スライムはほとんどを音に頼って行動しているため。
音を出さなければ簡単に近づける。
知ってしまえば簡単なことだ、俺は何の苦も無くスライムに近づいた。
音が出ないように気を付けながら赤い目にこん棒を振り下ろした。
前とは違い明らかな手ごたえを感じた。
赤い目にひびが入り、スライムが体を保てなくなる。
保てなくなった体、つまるところスライムゼリーを瓶に詰めたくさん回収した。
スライムの弱点は、やっぱり赤い目で合っていた。
フィート曰く、正しくは目ではなくコアと呼ばれる部分で、
人間の脳や心臓と同じくらい大事な部分で、
ほとんどの魔物が、このコアを壊すと倒すことができるらしい。
このコアが、むき出しになっていることがスライムが最弱と呼ばれる所以であり、
コアを守るためにぶよぶよの液体のような体に進化したということが言っていた。
そのあと何の苦も無くスライムを3体倒し、荷物がスライムゼリーでパンパンになったので、
拠点に帰還した。ネモフィラが微笑みながら待っていた。
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「なるほど、それが今日のあなたの活躍というわけですね。」
「はい、ネモフィラさんやフィートさんの協力のおかげで、倒せなかった魔物を
倒すことができました。」
「今回のあなたの経験は大変貴重なものです。
あなたがスライムに負けることはもうないでしょうね。」
「そんなことありません。正面から、戦ったら勝てたかはわからないですよ」
「ふふ、試しにもう一度あなたのレベルを図ってみませんか?」
今更なぜもう一度図る必要があるのだろう。
そう思いながら俺はレベルを図ってもらった。
ネモフィラは相変わらず壮言な雰囲気と一緒に、紙に何かを書いていく
紙に俺のステータスを書きうつしながら彼女は語った。
「失敗を経験し、その失敗を反省し次に生かしそして成功に変える。
それこそが経験と呼ばれるものです。
今回結果としては、スライムに勝っただけですが
あなたが自分が勝てなかった相手に対して、相手を分析し勝利した。
その事実には変わりはありません。
案外あなたのような人が魔王を倒してくれるかも。すこし、そう思いました。」
レベルを図り終え、紙に書かれた文字はいまいちわからないが、