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60話 現実にドラゴンがいたら実際どのくらい強いのかな?

 二時間ほど待つと『炎の王国』のメンバーがぞろぞろと集まり始めた。

 「お前ら悪いな!こんなところに呼び出して!」

 ファイヤさんが集合したギルドメンバー一人一人に声をかける。

 「いいですよ。マスターからのお願いだったら俺たちは喜んで引き受けますよ!」

 ギルドメンバーは誰一人として嫌な顔をしておらず嬉しそうだった。

 

 「みんなよく集まってくれた!『炎の王国』のメンバーもそうだが他のギルド所属のプレイヤーは本来敵同士のはずなのにこちらの呼びかけに答えてくれたことを心から感謝する!」

 いつの間にかできていた台の上でファイヤさんが言う。

 「俺は既に2回角竜と対峙している。1回目は何もできずに黒竜のブレス攻撃でやられた。2回目はブレスを防いで何とか耐えたがHPがごっそり削られて逃げかえった。だから俺はまだ黒竜に近づくことすらできていない!」

 ファイヤさんがそう言うと「嘘だろ?」とか「あのマスターが近づくこともできない?」などと周囲がざわつく。

 「しかし、それは俺が一人で戦ったからだ!これだけの人数がいれば絶対にあいつの皮膚に俺たちの刃が届く!あいつの足元に宝箱があることは確認している!入っているのはおそらくダイヤモンドだ!宝箱の中身は黒竜を倒した奴のものだ!文句はないな!」

 「「「「「おーーー!」」」」」

 「では行くぞ!ドラゴン対峙だーーーーー!」

 ファイヤさんが自分の武器を天に突き上げ叫ぶ。

 「「「「「おーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」」」」」

 僕たちもファイヤさんの叫びに呼応して自分の武器を天に突き上げる。

 「出発!」

 ファイヤさんの合図で全員が山頂に向かって移動を開始した。


 30分ほど歩くと山頂に到着した。

 加工をぐるりと囲むように僕達プレイヤーは配置されている。

 これは一度のブレス攻撃で全員がやられないようにするためだ。

 黒竜は悠長に寝ておりこちらの様子を気にもしていないようだった。

 黒竜はとても大きく人程度だと鼻息で吹き飛ぶのではなかろうかというほど大きかった。

 それに圧倒的な強者のような雰囲気を感じる。

 多分ゲームで無かったら見つけ次第既に逃げ出すだろう。

 皆が黒竜の圧倒的な雰囲気に呑まれていた。

 でもここまで来たら戦うしかないと覚悟を決める。

 作戦通りだとそろそろのはずだ。

 「《魔弓術・氷》《矢の雨》」

 来た。

 アオのスキルが発動されると同時に全員が動き出す。

 アオの《魔弓術・氷》は《矢の雨》によって無数に増え黒竜に容赦なく降り注ぐ。

 その間も僕達は黒竜に向かって走る。

 遠距離の弓や魔法を使う人は放ち続ける。

 しかし全員の足が止まり手が止まる。

 アオの《魔弓術・氷》で黒竜を完全に氷の中に閉じ込めたからだ。

 氷の中に閉じ込められた黒竜はピクリとも動かない。

 「や、やったのか?」

 誰かがそんなことを言うとみんな安堵の表情になり勝利したような雰囲気が漂う。

 「なんだ大したことなかったじゃないか。」

 「やっぱりタッグマッチトーナメント優勝者は違うな!」

 「アオ様ーーー!かっこいいーーー!」

 みんな緊張を解き各々感想を口にする。 

 ピキッ!

 氷の割れる音がした。

 やばい!

 まだ生きてる!

 「みんな今すぐ防御態勢をとれ!あいつはまだ生きてるぞ!」

 僕が叫んだときにはもう遅かった。

 黒竜がブレス攻撃をして砂ぼこりが舞う。

 砂ぼこりが晴れると僕の反対側にいたプレイヤーは誰一人としていなくなっていた。

 全員が唖然とし即座に動けるものはいなかった。

 1人を除いては。

 ファイヤさんだ。

 ファイヤさんは黒竜に一気に近づき大きな斧を振り上げる。

 ガキンッ!

 ファイヤさんの斧が振り下ろされたときに出た音だ。

 ファイヤさん渾身の一撃は黒竜に傷一つもつけることができなかった。

 「う、うそだろ?」

 自分の口から思わずそんな言葉がこぼれる。

 ファイヤさんの攻撃が通じないで誰があいつを倒せるんだ?

 僕が混乱している最中に黒竜が攻撃を仕掛けプレイヤーの数ははじめにいた人数の3割程になっていた。

 「師匠!しっかりして下さい!」 

 アオが僕のもとに来て混乱している僕を呼び起こす。 

 「ご、ごめん!」

 「このなかにもう師匠しかあいつを倒せる人はいません!だからしっかりしてください!」

 僕にあいつが倒せるのか?

 ファイヤさんでも傷つける事すらできなかったのに?

 いかん!

 ネガティブになってる!

 こうなったらやけくそだ!

 やれるだけやってやるよ!

 「《森の……。」

 僕が《森の目覚め》を発動しようとした瞬間、黒竜が大きく口を開きブレスを放った。

 

 とっさに防御してギリギリ耐えた。

 アオはとっさに回避したようでHPは減っていなかった。

 他のみんなは?

 いなくなっている。

 僕とアオ以外誰もいなかった。

 「お前ら大丈夫か!」

 いや、ファイヤさんだけ生き残っていた。

 HPはほとんど残っておらず僕と同じ状態だ。

 もし次に攻撃を受けたら確実に死ね。

 「すまん!まさか攻撃も通じないとは……。」

 「謝らないで下さい。」

 「でも……。」

 「まだ負けたわけじゃありませんから!」

 僕は弱気になっているファイヤさんに強気で答える。

 さっきまで僕も弱気になっていたのに不思議だ。

 やるしかないと追い込まれた時から何でもやれるような気分になっていた。

 「師匠、俺にできることはありますか?」

 「うーん。そうだね、ここは僕に任せてアオはゆっくり観戦でもしていて。」

 「わかりました!」

 「観戦って……。フータ一人でやる気かよ!」

 「はい。そのつもりです。ファイヤさんもアオと一緒にゆっくりしていて下さい。」

 「でも……。」

 「師匠なら大丈夫ですよ。俺たちはゆっくり観戦していればいいんです。」

 何か言いたそうなファイヤさんを止めアオが後ろに連れていく。

 さて、やりますか!

 

 「《森の目覚め》」

 《森の目覚め》で見える範囲いっぱいに気を生やし森を展開する。

 「《植物操作》」

 《植物操作》で今生やした全部の木を操り黒竜に総攻撃を仕掛ける。

 《森の目覚め・攻》を使わなかったのは少しでも正確に攻撃を仕掛けたかったからだ。

 総攻撃させたが結局黒竜を傷つけることはできなかった。

 それどころかせっかく展開した森を半壊させられてしまった。

 目や腹など軟らかそうな部位を狙ってみたが無意味に終わった。

 クソッ!

 どうしたらいいんだ。

 《植物操作》でもダメなら僕に他の攻撃手段何て……。

 ある!

 あるじゃないか!

 「《森の目覚め・吸》」

 もう一度目一杯に森を展開させる。

 しかし今度は操作することなく自動的に黒竜に巻き付き始める。

 よし!

 自分のHPとMPが回復しているのを見て黒竜のHPが減っている確信を持つ。

 黒竜は必死にもがいて脱出を試みるが木の根と枝が何重にも巻き付いていて逃れる事が出来ない。

 逃れる事が出来ない黒竜を見て僕は勝利を確信する。

 

 「ちょ、ちょっと待ってください!本気で死ぬから放して!」

 聞いたことのない叫び声がが聞こえる。

 アオとファイヤさんの方を見ても叫んでいる様子はない。

 ということはまさか!


 「無視しないでくださいよ!本気で死んじゃうから!」


 

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