216話 世界樹!
『《上植物操作術LV.9》が《上植物操作術LV.10》に上がりました。《上植物操作術LV.10》を獲得したことにより、スキル《天の種子》を獲得しました。称号《森の王》を所持していることによりスキル《天の種子》がスキル《世界樹》に進化しました』
{キ、キターーーーーーー! 世界樹キターーーーーーー!}
{師匠、急にどうしたんですか!? 何か問題ですか!?}
{フータ急に大きな声出さないでよ! びっくりしたでしょ! 大きな声出すなら念話切っておいて!}
{フータさん、うるさい}
{ご、ごめん}
僕はそっと念話を切った。
しまった、世界樹という言葉を聞いたら、ついテンションが上がって大声を出してしまった。
五度、深呼吸をして冷静さを取り戻す。
ふー、落ち着いた。
で、で、で、では、さ、さ、さ、早速、つ、つ、つ使わせていただきます。
ちょっと待て!
僕よ、落ち着いたんじゃないのかよ!
微塵も落ち着いてないじゃないか!
こうなったらもう一度深呼吸だ。
今度はたっぷり6回したので大丈夫だろう。
僕は一つ先払いをしてスキル名を唱える。
「《世界樹》!」
地面が隆起し、木の芽が出る。
さあ、これからだ!
これからどんどん大きくなり、このオトガルシアを全て飲み込むくらい巨大になる……はず……?
「ちっちゃ!」
僕の足元に芽生えた世界樹は腰の高さで成長をストップさせた。
「どうしたの? もっと大きくならないと! さあ! ほら!」
僕がいくら世界樹に声を掛けても意味はなく、小さい木が足元にあるだけだった。
「うわっ! あぶなっ!」
落胆する僕に小さい世界樹が木の根を伸ばしてきた。
それは植物操作とは比べ物にならないくらいに早く鋭い攻撃だった。
僕はスレスレで避けると木の根はそのまま真っ直ぐ伸びていきゾンビを捕える。
「狙いは僕じゃない?」
捕えられたゾンビは世界樹に引き寄せられ、世界樹の幹に縛られると、吸収された。
そして、世界樹が成長する。
一回り大きくなった世界樹は2本の木の根を伸ばし2体のゾンビを捕まえる。
そのゾンビも吸収すると、また世界樹は成長した。
その後もゾンビを吸収して成長を繰り返し、世界樹がどんどん大きくなっていく。
その度に攻撃の手数が増え、速度が上がっていく。
無数に増えた木の根はゾンビを吸収するだけでなく普通の攻撃もやり始めた。
僕の周りのゾンビはいなくなり、世界樹はさらに遠くのゾンビを求めてどんどん木の根を伸ばしていく。
そして、世界樹の攻撃が終わった。
世界樹はオトガルシアの空を枝葉で覆うほど成長していた。
世界樹の攻撃が終わったっていうことはゾンビを全て倒し終わったってことかな?
一度、みんなとネルの場所で合流しよう。
僕が戦闘の意思を失くすと、世界樹は消えた。
「いやー、随分と派手なスキルを手に入れたね。ゾンビが木に捕まって、空を飛んでる姿を見てたら、いたたまれない気持ちになったよ」
まだみんなは来ていないようで、僕の姿を見たネルがニヤけながら世界樹を見た感想を言った。
その後、ネルと少しの会話をしていると3人が戻ってきた。
「フータ、どういうこと? 木が私のゾンビを攫ったり一掃して、あっという間にゾンビがいなくなっちゃったよ! それと、あの大きい木! 空見てびっくりしちゃった」
「私のゾンビも横取りされました。返してください」
「あの木も師匠のスキルですか? いつもの植物操作よりも数段速かったと思うのですが」
「《上植物操作術》がレベル10になった時に新しいスキルを手に入れたんだ」
「《世界樹》だね。《森の王》を持っているから《天の種子》が進化したんだろう」
僕が説明する前にネルがスキルの説明をしてしまう。
「どうしてそれを」
「僕は運営のAIだよ。それくらいは知ってる。でも、スキルの詳細までは知らないけどね。皆が持っているスキルの情報ならあるんだけど、君が手に入れた《世界樹》のような特定の人物しか持っていないスキルはまだ情報が少なくてね。この修行の期間にじっくり観察させてもらうよ。まあ、しばらくそのスキルの使用は禁止だからね。《上植物操作術》がレべう10になったってことは次君が使うのはこれだから」
ネルはそう言って僕に鉄の弓を投げ渡す。
「え? これって……」
「君も次のステージだ。上弓術がレベル10になるまで他の武器、スキル使用禁止。あ、剣術はまだだったら剣術が終わったら弓ね。剣術ももうすぐ終わるでしょ?」
何処まで把握しているのか僕の上剣術ももうすぐレベル10に上がりそうだった。
「わ、分かった」
「話は終わりましたか? フータさん」
パレットが僕に一歩詰め寄る。
「な、なに?」
「私のゾンビ返してください」
「え?」
「私のゾンビ返してください」
「さっきの言葉本気だったの?」
「私はいつでも本気です」
僕に言われても……。
「ネル……」
「待ってました。そう言うことなら」
ネルが指を鳴らすと、うめき声が聞こえ始める。
「今回は特別大サービスで前回の2倍にしておいたよ。感謝してね」
「僕もう《世界樹》使えないんだよね?」
「もちろん」
絶対無理でしょ!
そして、ウィンクすんな!
全然可愛くないから!
「弓ならいつでも使っていいからね」
「使い方知らないよ!」
「今度は私が一番倒します」
「いや、俺が一番倒す」
「一番倒すのは私だよ!」
3人とも何でそんなにやる気なの!
「ほら、早く構えて。来るよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! タイム! ちょっとタイム!」
「師匠、構えてください。サポートしますから」
「そうだよ。私も近くで戦ってあげる」
「可哀想なので私も暫くは近くにいてあげます。感謝してください」
3人は笑顔で僕に言った。
僕は弓を構えようとして矢を落としてしまう。
矢を拾おうとした僕にゾンビが飛び掛かってきた。
「やっぱり、ちょっと待ってよー!」
ゾンビのうめき声よりも大きな僕の叫びがオトガルシアに響いた。




