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212話 今日はもう終わりにして!

 僕達が居るのは時計塔の真下。

 時計塔の真下は広場のようになっているが、その外は建物が入り組んでいて視界が悪い。

 うめき声は全方向から聞こえ、僕達は囲まれているようだ。

 僕達は互いの死角を庇い合うために背中を合わせる。

「来るよ!」

 建物の隙間から走ってくるゾンビが1匹。

 それに続き、2匹、3匹と、どんどん増えていく。

「この数は……」

 何処を見てもゾンビだった。

「もしかして結構やばいんじゃない?」

 レイクが顔を引きつらせる。

 無理もない。

 ゾンビの大群が波のように僕達に向かってきているのだから。

 みんなの顔を見るとレイクだけでなく、アオとパレットも引きつっていた。

 もちろん僕の顔も引きつっている。

 これを全部倒すの?

 パッとみだけど、オトガルシアの街の人口以上にゾンビがいる気がするのは気のせいだよね?

 やがて空が暗くなり、ゾンビ達の瞳が赤色に輝く。

「ヴァァァァァァォ!」

 戦闘のゾンビが雄叫びをあげながら、僕達に襲い掛かる。

 僕は剣を抜き、飛びかかるゾンビを切ると、後方で動かなくなった。

「殲滅するぞ!」

「うん!」「はい!」「もちろんです」

 

 ゾンビ自体はそれほど強くなく、剣で切れば1撃、《森の目覚め・攻》でも問題なく倒すことが出来た。

 数に圧倒されたものの、アオもレイクもパレットも順調にゾンビの数を減らしていく。

 ゾンビは全てこちらに向かって来てくれるので、僕達は迎え撃つだけでよかった。

 3時間程ゾンビを倒し続けていると、ゾンビの勢いが収まってきて、さらに1時間たった頃にはゾンビの姿は無くなっていた。

「これが最後の1体かな?」

「……恐らく。辺りには見当たりません」

 へとへとになりながらも僕達は全てのゾンビを倒すことが出来た。

 もう立っていることもしんどいので剣を放り投げて地面に座る。

「疲れたねー。弱いとは言っても流石にあの数はもう勘弁だよー」

「レイクさん、もうへばったんですか?私はまだまだいけますよ」

 パレットは肩で息をしながらレイクを挑発する。

「なんですとー! 私だってまだまだいけるよ! 全然余裕だね!」

 レイクはムキになって答える。

「そうか、そうか。そんなに余裕だったか。今日はもう終わりにしようと思ってたけど、もう一回ゾンビ達と戦ってもらおうかな?」

 突如、背後から話しかけられる。

 いつの間にかネルが戻ってきていた。

「「ごめんなさい。もう終わりにしてください」」

 レイクとパレットの2人が綺麗な土下座をしていた。

 いっそ清々しい変わり身の早さだ。

「冗談だよ。君達には向こうの世界での生活があるからね。こっちの世界に長時間拘束はできないよ。でも、ひとつ覚えていて。今日は君達の腕試しだ。明日から厳しくなるから覚悟して来るように。じゃあ、バイバーイ」

 ネルは早口でそう言うとこの場から消えてしまった。

「一方的に明日って決められたけど、皆は明日もログインできるの?」

「私は明日もログインできるよ」

「俺もです」

「私も問題ないです」

 僕も大丈夫だから、明日も全員参加だ。

 これから2ヶ月間このゾンビが続くのかな?

 結局どんな修行をするのか何も分からなかった。

 今日だってゾンビを倒しただけで技術的なことは何も教わっていない。

 レベルとスキルのレベルが少し上がったくらいだ。

「今日は疲れたからもう帰るね」

「あ、うん。お疲れ様」

「俺も帰ります。お疲れ様でした」

「私も帰ります」

「2人もお疲れ様」

 僕が修行の事を考えていると皆は帰ってしまった。

「僕もログアウトしよう」

 誰もいなくなったオトガルシアで呟く。

 ひとまず修行の事は「君達を強くする」と言ったネルの言葉を信じよう。

 そして僕は現実世界へ戻った。

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