210話 帰る者と残る者!
「何で……運営の人がこんな所に?」
「始めに言ったと思うけど、退屈だったから遊びに来たんだ。それに君の予想通り僕は君達が探していた殺人犯じゃない。正しく言えば、君達が探している殺人犯に成り代わって遊びに来たって感じかな。職権乱用ってやつだよ。本来だったら僕みたいに強いわけじゃないから、君達なら1回の挑戦で3階層に行けたと思うよ」
「だったら鍵を出してくれ。俺達は早くこのダンジョンから出たいんだ」
アオが鍵を出せと手を前に出す。
「それは出来ない相談だね」
「何故だ」
「だって君達は僕に勝ったけど、僕を倒せてないからね。あのま僕のお腹に大穴が開いている時に粉々になるまで僕を切り刻めば倒せたと思うよ。倒した後は鍵が出現して、めでたく3階層だったてわけだ。残念だったね。君達に鍵を渡すことはできないよ」
これに反応したのはルナとシーナだった。
「そんなの卑怯です!」
「そうです! 勝負には勝ったのですから、何かしらの譲歩があってもいいはずです!」
「譲歩ねぇ。してあげてもいいけど……これ以上、好き勝手すると僕が怒られちゃうんだよなー」
「そこを何とか!」
「お願いします!」
ルナとシーナが食い下がる。
「可愛い女の子2人にそこまでお願いされたら仕方ないね。職権乱用してあげるよ。3階層に進ませるわけにはいかないけど、僕が君達を外に出してあげる。これでどうかな? 残るも帰るも自由だよ。まあ、残った場合は僕とまた戦ってもらうことになるけどね。さあ、今すぐ選んで」
ネルはここに残るか、帰るか選べと言う。
そんなの聞かれるまでもなく決まっている。
「僕はここに残る」「私は残るよ」「俺は残ります」「私は残ります」
「私は帰れるのなら帰ります」「私も帰ります」
意見が分かれた。
ここに残る事を選択したのは僕とレイクとアオとパレットだ。
帰る事を選択したのはシーナとルナだった。
「オッケー。君たちは帰るんだね。悪くない選択だと思うよ。ここで僕を倒すまで戦っていたら、いったい何ヶ月掛かるか分からないからね」
「じゃあ、君達をこのダンジョンの外に出すよ」
ネルがシーナとルナに向かって手をかざすと2人の体が光り始める。
「フータさん達、頑張ってください!」
「私達は外で応援しています!」
「ありがとう。ネルを倒してこのダンジョンをクリアして見せるよ」
ルナとシーナが2階層からいなくなった。
「ネル。僕からも1つ頼んでいいか?」
「それは内容次第かな? 僕に傷を与えた報酬として叶えてあげなくもないけど……」
「そっか。それならこのダンジョンに取り残されている人達もルナとシーナみたいに外に出してあげてほしいんだ。聞いた話によるとかなり苦労してるみたいだからさ」
「それなら、初めからそうするつもりだったから問題ないよ。もし2階層に辿り着いて邪魔されても嫌だしね。後、このダンジョンも閉鎖する。これで僕は確実に怒られることになるけど、楽しいことをするんだからそのくらい我慢しないとね」
ネルは手を天にかざす。
傍から見たら何をしているのか分からないけど、恐らく今、1階層を彷徨っているプレイヤー達をダンジョンの外に帰してあげたのだろう。
「これでもう邪魔は入らない。君達は僕に、僕は君達に集中できる。そんな空間が出来たわけだ。さて、もう1ラウンドといこうか。君達もそのためにここに残ったんだろう?」
ネルはナイフと杖を構える。
それと同時に僕達もそれぞれ戦闘態勢を取る。
互いが動き出したのは同時だった。




