192話 矢印の先!
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マネキンから離れるために闇雲に扉を開き進み続ける。
「フータ、そっちに行くと1回行った部屋になるから左に行こう」
時折レイクの指示で方向を変える。
「ここまで来たらもう大丈夫かな」
マネキンからだいぶ離れた所で僕達は足を止める。
マネキンが追いかけて来ている気配はない。
「はぁー、あのマネキン何なのー。すっごい気持ち悪かったんだけど!」
レイクは背中を壁に預けて座る。
「本当にね。それにあのマネキン以外モンスターがいないのも不気味だよ」
僕もレイクの隣に腰掛ける。
「ここ『宝探しゲーム』の時、ドレスの化け物に追いかけられた遺跡に似てる。部屋の感じとかは少し違うけど、あの遺跡の中もモンスターがいなくて絶対に倒せない化け物だけがいた。今回の城下のダンジョンも同じだったらあのマネキンは倒せないって考えた方がいいかも。捕まったらゲームオーバーの鬼ごっこだよ」
「鬼ごっこか……。できれば命を懸けた鬼ごっこなんてやりたくなかったな……。レイクの予想通り、あのマネキンが倒せないモンスターだとすると、早く次の階層に繋がる階段を見つけないといけないけど、今の所ヒントみたいな物は何も無かったよね?」
僕は見つけれなかったけどレイクはどうかな?
「走るのに一生懸命であんまり周りを注視してる暇は無かったけど、私は何も見つけてないよ。もう50以上の部屋を見てるけど、ダンジョンってこんなに広いの?」
「洞窟のダンジョンの1階層もかなり広かったと思うよ。ズルしなかったら2階層に行くのにもっと時間が掛かってたと思う」
「フータ、ズルしたの? ちなみにどんな方法で2階層に行ったのか教えて貰ってもいい?」
「構わないよ。僕はあまりにも階段が見つからないから、もしかすると階段は始めから無いものだと考えたんだ。ユウが壁を壊せることを発見してたから、この階層はこういう壊して進むという発想が求められているのかと思って床を壊して2階層に下りることにした。まあ、2階層に落ちたら目の前に1階層からの階段があったんだけどね」
「ここの床は壊せないかな?」
レイクの言う通り試してみる価値はある。
「試してみようか。《森の目覚め》《植物操作》」
僕は木の根で床を攻撃するが床は傷一つ付かない。
「ダメだね……。いくら攻撃しても壊れる気配はないよ。正規の方法で階段を探すしかなさそうだね」
「そっかー。楽できると思ったんだけどねー」
レイクは肩を落とす。
僕はこの部屋に1階層を攻略するためのヒントがないか辺りを見渡す。
床も四方の壁も、どれだけ見てもヒントらしきものは何もない。
「はぁー」
僕は溜め息をつきながら天井を見る。
「あっ!」
そこで僕は見つけた。
天井に大きな矢印が書かれていた。
「どうしたの?」
レイクが急に大きな声を出した僕を不思議そうな目で見つめる。
「レイク、天井! 天井を見てみて!」
僕は天井を指さす。
「あっ! 矢印だ! これを辿れば階段に着くかも!」
僕はレイクの言葉に頷くと立ち上がり、矢印の指す扉を開けて進む。
次の部屋の天井にも矢印が書いてあった。
次もその次の部屋も矢印が書かれていて、僕達は矢印に導かれて進んでいく。
そしてある部屋に着く。
「行き止まり?」
その部屋は扉が無く、真ん中に看板が立っているだけだった。
期待していた階段は無い。
それでも看板が何かヒントになると思って、看板を見る。
『やっほー。みんなのアイドルAIのアイちゃんだよー。この部屋でこの看板を読んでいるってことは天井の矢印に気付いちゃったってことだよねー。もう分かってると思うけどここには2階層へ続く階段はありませーん。残念でしたー。でも、そう悲観することは無いぞ。ここまで矢印を信じて期待し続けた、純粋で可愛い君達にアイちゃんから大サービスでこの1階層の情報を与えてあげるぞ。
まず、この階層には間違いなく2階層への階段は存在する。洞窟のダンジョンではどっかのバカコンビが床を破壊して2階層に下りるっていう極悪非道な方法を用いた輩がいたので床と壁は破壊できないようにしたぞ。
それと、もう出会ったプレイヤーもいるかもしれないけど、この1階層ではマネキンが徘徊しているぞ。どんなに頑張ってもあのマネキンは倒すことが出来ないから逃げることをオススメするぞ。どうしても戦うなら死を覚悟してからにするんだぞ。そして、あのマネキンは目も口も耳もないけど、音にはかなり敏感だ。少しの物音でお前たちの存在に気付くだろう。出来るだけ静かに移動するといいと思うぞ。運悪くマネキンに見つかってしまった時は、まあ、その、なんだ……頑張ってくれ。
と言いうわけでルールを守って楽しくプレイするんだぞ』
洞窟のダンジョンの事は身に覚えがあるのでその1文だけは目を逸らして看板を読む。
「フータの事が書かれてるねー」
レイクは笑いながら言う。
アイちゃんのおかげでこの1階層の全貌が見えた。
あのマネキンに見つかることなく階段を探すというのがこの1階層らしい。
「レイク、これまでどれくらいの部屋に入った?」
「50くらいだよ」
「ここからはレイクの記憶が頼りだ。まだ入ったこと無い部屋を虱潰しに行くしかない」
「任せておいて。必ず階段のある部屋を見つけるよ」
この会話もマネキンに見つからないように小声でする僕達だった。
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