183話 人の方法は僕達には関係ない!
ここにいるボスを倒せば外に出られる。
「フータ、ここはスキル全開でいいぜ」
いつもはスキルを使うなと言うが何か企みでもあるのだろうか?
それとも……。
「いいの?」
「いい! ここから早く出ないといけないからな!」
やっぱり自分のためだった。
ボス部屋の扉を開くと広い空間が広がっているだけで何も居なかった。
「何も居ねえじゃねえか」
ユウは警戒することなくズカズカとボス部屋の中へ入っていく。
「危ないですよ!」
ルナがユウに呼び掛ける。
「あ?」
ユウが振り返るとその背後に大きい何かが落ちてくる。
大きい何かが着地した風圧で目を開けられない。
「何だ!?」
目を開けるとユウの背後には1匹のサソリがいた。
サソリと言っても現実世界にいる小さい奴ではなく体長5メートル程あるゲームサイズのビックな奴だ。
「ファイヤさんが言ってました。このサソリにかなり苦労したって。何時間もかけて甲羅を破って倒したそうです。だから私達もまずは甲羅を壊すことから始めた方がいいかと思います」
シーナがファイヤさん達がどの様にこのサソリを倒したのか教えてくれる。
「関係ねえな」
「そうだね」
ファイヤさん達がどの様に倒したとしても僕達には関係ないことだ。
「関係ないって……。シーナの言う通り甲羅を一枚ずつ壊していくしかないのでは?」
ルナがシーナの言った方法しか倒せないと言う。
「甲羅ごと切ればいい」「甲羅ごと貫けばいい」
今日はユウと考えてる事がよく一致するな。
「《森の目覚め》《植物操作》」
僕がスキル発動するのと同時にユウが飛び出して物凄い速さでサソリに迫る。
サソリは2本のはさみでユウを迎え撃つ。
サソリの構えた2本のはさみはあっけなくユウの手によって切り落とされる。
「キシャャャャャ!」
両方のはさみを失い、サソリは叫び声を上げる。
「そんな悠長に痛がっていていいのかな?」
すでに僕の木の根はサソリに迫っている。
木の根はサソリの胴体を貫き、サソリの体に穴を増やしていく。
10個程の穴が開いたところでサソリは光になって消えた。
「楽勝だったな」
「そうだね。これなら巨大ナメクジと変わらないくらいかな?」
サソリはもっと強いかと思ったけどそうでもなくあっさりと倒せてしまった。
「「早すぎます……」」
ルナとシーナの2人は呆けてしまっていた。
『称号《洞窟のダンジョン・初級》を手に入れました』
システム声が脳内に響く。
称号を手に入れたみたいだ。
確認してみる。
《洞窟のダンジョン・初級》 洞窟のダンジョン・初級をクリアしたものに贈られる称号。
全ステータス+10
ダンジョンをクリアするとこういった称号が手に入るのかな?
「なんか称号手に入れたみたいだけど、さっさとここから出てニーヤの所に行くぞ! 早くしないと殺される」
ユウが急いでいるので呆けてるルナとシーナに声を掛けて僕達はボス部屋から出る。
ボス部屋から出ると転送用ポータルがあった。
転送用ポータルの中に入ると、洞窟のダンジョンの入り口扉があった場所に出た。
ユウはそのまま走って帰ってしまう。
「ルナ、シーナ、今日はありがとう。また機会があったらよろしく!」
僕は2人にお礼を言うとユウを追いかける。
「こちらこそありがとうございました!」
「またお願いします!」
霧の中からルナとシーナの声が聞こえる。
霧でよく見えないけど2人が手を振っている気がしたので僕も手を振り返す。
僕はグラーシの街付近でユウに追いついた。
「ニーヤさんとはどこで待ち合わせしてるの?」
「ハーマリの街だ。ついて来れば分かる」
「いや、ついて行く気は無いよ。僕も帰るのはハーマリだからそこまでは一緒に行くだけ」
一緒に怒られる気なんて全くない。
というか怒られる理由がない。
取り合えず転送用ポータルで一緒にハーマリまで帰る気だけど、そこからは完全に別行動の予定だ。
「いいか、入るぞ?」
転送用ポータルへ入るのに僕にも覚悟を促して来る。
「はいはい」
僕は覚悟なんて決める気は無いので適当に返事をする。
転送用ポータルに入り、景色がグラーシからハーマリに変わる。
そして凄い形相のニーヤさん……ではなくとてもニコニコのニーヤさんが待っていた。
何で笑顔!?
しかも笑顔なのに目は全く笑っていない。
ここで待ってるなんて聞いてないんだけど!?
「ユウ?」
僕はユウに説明を求めようとする。
しかし、ユウは怯え切っていて僕の言葉が耳に届いていないようだ。
「ずいぶん楽しそうね。2人とも。私をこんなに待たせておいて、どこで遊んでいたのかしら?」
「いや、遊んでいたわけでは……」
「なに?」
遊んでいたわけではないと否定しようとしたがニーヤさんの圧に負けてしまう。
「ごめんなさい。何でもないです」
「それで? 2人は私が納得できる説明をしてくれるのよね?」
ユウは以前怯えたままで一言も喋らない。
僕はそろそろ関係ないことを伝えて退散させてもらおう。
「僕は……」
「そういえばいつまでそこに立ってるつもり?」
僕の言葉を遮ってニーヤさんが言う。
「そうだね。こんなところだと目立つから場所を移した方がいいかもね」
そう言って僕は場所を変えようとするがニーヤさんとユウは動く気配がない。
「正座」
「え?」
もしかしてここで正座をするの?
めっちゃ人いるよ?
そう思ってユウを見るとその場で正座をし始めた。
「こんなところで?」
「正座」
「そもそも僕は関係ない……」
「正座」
「帰っても……」
「正座」
「……はい」
為す術なく僕もその場で膝を地に着ける。
そしてニコニコだったニーヤさんの表情が一変する。
ああ……。
何で僕まで……。
僕は関係ないのにと思いつつも、正座をしてニーヤさんのお説教を聞き続けた。
終わったのは現実世界の時間で朝の4時頃だった。
これは学校で寝てしまうかもしれないな……。
今回も読んでいただきありがとうございます!




