182話 有名になった?
階段を下る僕達に会話は無い。
無言ままだとかなり居心地が悪い。
そう思っているのは僕だけじゃないようで、2人の少女も時折話しかけようとする素振りを見せている。
この無言の空間を全く気にしていないのはユウだけのようだ。
ここは僕が何か話題を振るしかないかなー。
「まだ自己紹介をしてなかったね。僕はフータで、こっちの青髪がユウだよ。よろしくね」
「わ、私の名前はルナです」
「私はシーナとです」
ショートヘアの少女がルナと名乗り、弓使いの少女がシーナと名乗った。
「よろしく」
僕は2人と握手を交わして、さっき感じた疑問をぶつけてみる。
「自己紹介する前にルナさんは僕の名前を知ってたみたいだけど、どうして?」
「“さん”なんて付けないでください。呼び捨てでいいですよ。フータさんの事を知っていたのはもちろん、フータさんが有名だからです。フータさんだけではなくユウさんの事も見た瞬間分かりましたよ」
「俺ら有名だってよ」
ユウがカッカと笑いながら言う。
「有名……」
僕は口に出して言ってみる。
とてもいい言葉だ。
僕の知らない人が僕の名前を知っている。
嬉しい……。
とても嬉しい。
凄く嬉しい!
顔がにやけてしまいそうなのを必死に抑える。
「どうしました?」
僕が必死ににやけを抑えているとルナが僕の顔を覗き込んでくる。
「な、何でもないよ!」
そう言って僕は顔を逸らす。
心の中で凄く喜んでいることがバレたかと思った。
ここは冷静になって落ち着いた感じでいこう。
「そ、そうか。有名だからね。僕の名前を始めから知っていることにも納得がいったよ」
有名という言葉を僕が少し強く言ってしまったのはきっと気のせいだ。
「実は私『防衛戦』でフータさんと白竜が戦うのを見ていました。すっごくかっこよくて憧れちゃいました」
僕もとうとう憧れられるプレイヤーになった!?
「レイクさんに!」
「え?」
「フータさんもかっこよかったですけど、やっぱりレイクさんが一番かっこよかったです! あんなに可愛いのに強くて、一目見た瞬間から私の憧れです!」
な、なるほど……。
僕じゃなくてレイクね……。
「ハッハッハッ! 残念だったなフータ!」
ユウが嬉しそうに言う。
「別に残念じゃないよ! 最初から僕の事だと思ってなかったし!」
苦し紛れの返答をする。
「まあそんなに落ち込むなって! まだまだこれからだろ!」
ユウが僕の背中を叩いてくる。
悔しいけどユウの言う通りだ。
僕もまだまだだな。
「そういえばファイヤさん達がもうクリアしたって言ってたけど、どのくらいの時間でクリアしたの?」
話題を変える目的と単純な興味で僕は尋ねる。
「昨日10時間程でクリアして帰ってきました」
今は3時間位だから……。
「まだ全然じゃないか!」
「10時間って、それはシャレにならねえぞ!」
ユウが走り出して、それにつられて僕達も走る。
「そんなに急がなくても大丈夫だと思いますが……」
シーナが何か言ったが僕にはよく聞こえなかった。
そして僕達は3階層に到着する。
やはり3階層にも看板があった。
『この先にはボス部屋があります。中にいるボスを倒すことが出来れば洞窟のダンジョンはクリアとなります』
看板の内容は2階層と違ってシンプルだった。
この先にいるボスを倒せばクリア。
はれて外に出られるわけだ。
「よし! 速攻で倒して外に出るぞ!」
「ちょっと待って」
早速ボス部屋に行こうとしているユウの腕を掴み僕は止める。
「何だよ! 止まってる暇ねえぞ」
看板を読んで引っ掛かる事が出来た。
「ルナとシーナはこの先の情報を知っているんだよね? もしかして3階層がボス部屋だけでボスを倒せばクリアになって外に出られることも知ってたわけだよね?」
「「あ……」」
2人は気まずそうに俯く。
「知っていました。別に案内する事もないことも。私達2人ではこのダンジョンをクリアできなかったので、騙すような事をしてしまって、ごめんなさい」
申し訳なさそうにシーナが言う。
「別に怒っている訳じゃないよ。ただ一杯食わされたなと思って。約束はしてしまったからね、クリアまではしっかりと案内してもらうよ。じゃあ行こうか」
「「はい!」」
僕の言葉に2人は顔を上げて返事をする。
「それなら早く行くぞ!」
ユウが一番に走り出して、ボス部屋に向かう。
僕達はその後について行く。
目の前には巨大な扉が現れ、禍々しい雰囲気が漂っている。
僕達は扉を開き中に入るのだった。




