170話 グラーシで天の一矢!
ニーヤさんがいなくなり俺とパレットの2人が残される。
パレットは今の今までニーヤさんと喧嘩をしていたはずなのに、後を託された瞬間、態度が一変し、ニーヤさんのためにと張り切っている。
「そんなに張り切るのはいいが、何かあてはあるのか?」
「それはアオさんが考えてください」
「人任せだな!」
パレットは相変わらずか……。
何か策……。
俺にできることは矢を放つこと。
《魔弓術・氷》で敵を凍らせること。
パレットにできることは絵を描くこと。
絵の動物で攻撃すること。
そこから俺達が青竜を倒すことの出来る可能性を考える。
幸いパレットとニーヤさんのおかげで青竜のHPはかなり削れているはずだ。
それは青竜の鱗が剥がれ至る所が欠けている姿を見れば一目瞭然だ。
あと一押しだろう。
しかし、その一押しが足りない。
俺が1人ここから矢を放っても、青竜は簡単によけるだろう。
始めにパレットとニーヤさんを助ける時に放った矢が当たったのは、青竜が2人に気を取られていて、俺の攻撃が不意打ちだったからだ。
今、海の中で動く青竜を見ても陸地よりも機敏に動いている。
やはりただ俺が矢を放っただけでは意味無いだろう。
それに《矢の雨》や《魔弓術・氷》では攻撃力が足りない。
この前《上弓術》がレベル10に上がった時に、手に入れたスキル、あれが当たれば確実に倒すことが出来る……。
……それこそ無理だな。
あのスキルは準備動作に時間がかかり過ぎる。
それに、演出も派手で確実に青竜に気づかれてしまう。
気づかれて、海の中に潜られたら終わりだ。
あのスキルは1度発動したら、止められないし、撃った後は反動でしばらく動けなくなる。
その間、パレットが1人で耐え凌ぐことが出来るか?
無理だろうな……。
「アオさん、さっきから何を考え込んでいるのですか! 攻撃が来ますよ!」
しまった!
青竜の攻撃は水の柱ではなく、今度は水の玉だった。
「水の玉1つなら! 《魔弓術・氷》」
俺は《魔弓術・氷》で水の玉を凍らせて、氷の矢の後ろから追撃で撃った普通の矢で氷の玉を割る。
「流石アオさん。やりますね」
「おだてても何も出ないぞ」
「出ないんですか。おだてて損しました」
「おい……」
「それで、アオさんはあれだけ考え込んでいたのですから何かしら青竜を倒す方法を思いついたってことでいいですか?」
「あると言えばある。しかしな……」
「だったら、それをやりましょう。何か分かりませんが、今はアオさんが思い付いたその方法で青竜を倒すしかありません。私にできることがあったら言ってください。何でもやります」
「で、でも……」
「迷ってはいけません! やるときはやるしかないんですよ!」
いつになくパレットが真剣な表情で言う。
俺の目を真っ直ぐ見て、やるしかないと言う。
俺はそのパレットの言葉に答えなくてはならないと思った。
「分かった! やろう! 失敗しても恨むなよ」
「それは恨むかもしれません」
「おい……」
「パレット、青竜の動きを止めることは出来るか?」
俺は気を取り直してパレットに尋ねる。
「出来ます。動けないようにだけすればいいですか?」
「ああ、頼む」
「分かりました。《お絵描き魔法・黄緑》。蜂さん行ってください」
パレットに黄緑色で描かれた蜂は青竜に向かっていく。
パレットの蜂は青竜にぶつかるとすぐに絵の具に戻ってしまう。
パレットはまた蜂を描き、青竜に向かわせる。
大量の黄緑色の蜂が青竜にぶつかっては絵の具になる。
青竜は蜂達の絵の具で黄緑色に染まってくる。
パレットは何をやっているんだ?
「そろそろです。準備をしていてください」
そろそろ?
何が?
その時、青竜の動きがピタッと止まる。
「成功です。青竜を麻痺させました。時間がないですよ。アオさんも早くお願いします」
麻痺……。
そんなことまで出来たのか。
パレットに感心するのはここまでだ。
ここからは俺の番。
的は止まっている。
ここで外したら弓使いとは言えないな……。
俺は《魔弓術・氷》を放つように矢を持たず、弓を構える。
「《天の一矢》」
俺がスキル名を唱えると、空は雲で覆われて暗くなる。
雲の隙間から光が差し込み俺を照らす。
まるでスポットライトにでも当てられてる気分になるな。
何もなかった矢の部分は光の矢ができ、それは俺が弓を引くにつれて大きくなる。
光の矢は俺の腕よりも大きくなり、俺の体よりも大きくなり、青竜の水の柱と同じくらいの大きさになる。
「行け」
俺は小さくそう言い、光りの矢を放つ。
光の矢は海を割りながら、青竜を目指す。
パレットの攻撃で麻痺している青竜は避けることが出来ず、光の矢を正面から受ける。
青竜の体は欠片1つ残すことなく、消えてしまった。
「やったのか?」
「はい。跡形もなく」
「はー、疲れたー」
俺は《天の一矢》の反動で動けなくなったのでそのまま砂浜に倒れる。
目だけを動かして、門の方を見ると穴だらけだが破られてはいないようだ。
モンスターも門から離れていき、青竜が消滅したのだと感じることが出来た。
「アオさん、倒れてるのもいいですけど、マホーニカさん達に褒めて貰いに行きませんか?」
「そんなことは1人で行ってこい。それに俺は今、スキルの反動で動けないしな」
「指1本も動かせないのですか?」
「ああ、動かない。指1本もな」
「そうですか……。それはいいことを聞きました」
「え……?」
「日頃の拳骨やチョップの恨み、ここで晴らさせてもらいます」
パレットは自分の武器である筆を俺の顔の前に持ってくる。
「ちょ、ま、待てーーーー!」
俺は叫ぶ事しか出来ず、パレットの好き勝手に顔に落書きをされる。
後でニーヤさんと一緒にパレットをたっぷり叱ろうと心に決める。
懸念があるとすればこの姿を師匠達には見られたくないということだけだった。
『グラーシ防衛成功』
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