106話 友達。
青人君と泉さんが近づいてくる。
僕はこれ以上ないくらい早く手を動かして帰りの支度を進める。
僕は必要な物を全て鞄に詰め込んで立ち上がる。
「さーて、帰ろうかなー?」
僕がわざとらしく言ってみると二人があからさまに慌てる。
もしかすると狙いは僕ではないのかもしれないと都合のいいことを少し考えてみたがそんなことは無かったようだ。
そうなればやることは一つ。
逃げるのみ!
「僕が何をしたか分からないけど、とにかくごめん!そしてさようなら!」
僕はそう言うと走って教室から逃げる。
「あ、待って!」
青人君が僕を止めようとするが僕はそんな言葉では止まらない。
教室を出て廊下を走る。
誰もいない廊下を走り一直線に学校の外を目指す。
「待てーーー!」
後ろから泉さんが猛スピードで僕を追いかけてくる。
速すぎでしょ!
ゲームならもっと速く走れるのに現実世界ではステータス補正のない僕は足が平均よりも遅い。
全力で走る僕は軽々と走る泉さんにあっという間に追いつかれて捕まってしまう。
「ぐはっ!」
泉さんに突撃されてそのまま倒れると組み伏せられてしまった。
「かくほー!」
泉さんは力も強くがっちり後ろで組まされた腕は解けそうにない。
「泉さんありがとう。捕まえてくれて。」
遅れてきた青人君が泉さんにお礼を言う。
「お安い御用だよー。」
こんなに必死で逃げる僕を捕まえるくらいだから僕に対して相当怒ってるのかもしれない。
それも二人で手を組んで僕を追い詰めるくらいに。
青人君が組み伏せられている僕の前で膝をついて僕と目線を合わせる。
逃げられない僕は覚悟を決めこれから起こることを受け入れる準備をする。
たとえどれだけ怒らせていたとしてもしっかり謝って許してもらおうと。
「泉さん、俺は森山君と大切な話があるから少し離れていてくれないかな?」
「嫌だよ!私だって風太君と大切な話があるんだから!」
「俺の方が大切な話だから泉さんの話は後にしてもらえるかな?」
「私の方が絶対大切だから無理!」
「そもそも何で泉さんがここにいるの?普段なら部活に行くか下校してる時間でしょ。それなのに邪魔しないで欲しいな。」
「邪魔って何!?私が風太君を捕まえてあげたんでしょ!それに普段なら下校してるのは青人君も同じだよね。そっちこそ邪魔しないでもらえる?」
あれ?
僕が覚悟を決めたのに二人で言い争いを始めてしまったぞ?
それに二人は手を組んでたんじゃなかったの?
話を聞く限りだと二人とも僕に何か大切な話というのがあって、別に手を組んでいる訳ではなさそうだ。
そしてこれは好機だ。
言い争っている間に拘束が緩くなって逃げることができそうだ。
僕は力を振り絞って泉さんの拘束を解くと再び走って逃げようとする。
「待ってください師匠!」
逃げようとする僕に青人君が慌てた様子で言う。
「え?」
青人君の言葉で僕は足を止める。
師匠ってまさか……。
僕の事を師匠と呼ぶ人物なんて一人しかいない。
「まさか青人君きみは……。」
「はい。俺です。あなたのギルド『フォレスト』のアオです師匠。」
青人君が自分の正体を明かす。
「えぇぇぇぇーーー!」
アオの正体に一番驚いたのは泉さんだった。
何で君が一番驚いてるの?
普通一番驚くのは僕の役目だよね。
「森山君は俺の師匠で『フォレスト』のギルドマスターのフータですよね?」
アオが僕に確認する。
「そうだよ。僕はアオの師匠で『フォレスト』のギルドマスターのフータだよ。」
僕がフータだと肯定するとアオは凄く嬉しそうな顔をした。
そして何故か泉さんも嬉しそうな顔をしている。
「私もだよ!私も!私が誰だか分かる?」
私もってまさか泉さんも僕の正体を知っているのか?
でも誰なんだろう?
ダメだ、全然分からない。
「ごめん。分からない。」
「何で!?私もって言ったでしょ!私も同じギルドだよ!」
泉さんが少し怒った顔で言う。
「「えっ!?」」
僕とアオの声が重なる。
「これだけヒントを上げればもうわかるでしょ?」
同じギルドで女の子のプレイヤーは二人しかいない。
レイクと昨日入ったばかりのパレットだ。
パレットは泉さんのような話し方をしない。
ということは……。
「レイク?」
「そうだよ!レイクだよフータ。」
「本当にレイクなの?」
「本当にレイクだよ!」
レイクは満面の笑みで肯定する。
そうか、二人ともこんなに近くにいたんだな……。
それにしても何で二人は僕がフータって分かったんだろう?
「何で二人は僕がフータだってわかったの?」
「それはもちろん声ですよ!」
「それはもちろん声だよ!」
今度はアオとレイクの声が重なる。
「声って……。」
凄いな!
「普通声で正体を特定できないと思うんだけど……。」
「俺が師匠の声を聞き違えるはずがないじゃないですか!」
「そうだよ!私もフータの声を聞き違える訳ないよ!」
そういうものなのか?
僕なんて二人の声をいつも聞いてたけど絶対気づかなかっと思うよ?
「というか、フータ学校で喋らなさすぎだよ!だから今日の今日まで気づけなかったでしょ!」
「本当にそうです。師匠の声、今日始めて学校で聞きました。」
そうだった。
ここはゲームの中じゃない。
現実世界の学校だ。
ここでは冴えないボッチの高校生。
二人と現実世界でも会えて嬉しかったけど学校での僕を見て二人はがっかりしたかもしれないな。
ゲームの中の僕と現実世界の僕では差がありすぎる。
「二人ともがっかりしたよね……。」
「何でですか?俺が師匠にがっかりするわけないじゃないですか!」
「そうだよ!どうしてそんなこと言うの?私はすっごく嬉しいよ!こっちでもフータと友達になれて。」
「そうですよ!俺もすごく嬉しいです。これでこっちでも友達になれました。」
「友達……。」
その言葉を聞いて何故か僕の目に涙が滲む。
僕は涙をこらえ二人に言う。
「ありがとう二人とも。アオ、レイク、こっちでも僕と友達になってくれますか?」
「もちろんです!」
「もちろんだよ!」
それから僕達は色々な話をした。
クラスの事やテストの事、ゲームの事も話した。
楽しい時間はあっという間でいつの間にか日が沈んで外は真っ暗になってた。
僕たちは校門まで一緒に行くと帰り道がバラバラなのでここで別れる。
「「「それじゃあまたゲームの中で!」」」
僕たちはそう言うとそれぞれの帰る家に向かって歩き始めるのだった。
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