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13話 ホットタイム

「か、かみつき……?」


 噛みつき? いや、神器が関係しているのなら、神付きとか神憑きが正解か?

 神とも呼べるAIに魅入られ、取り憑かれている人間。ってことなのかな?


「とまあ、移動方法は分かっておるのじゃが、どこの誰かまでは不明でのう」


 それにしても、俺が襲われたときのあの大鎌が神器だったなんて……。

 だからあんな簡単に、木が何本もまとめて切り倒されてるほどの威力だったのか。


「えっと、ハルパーっていうのはオリジナルの神器なんだよね? ムラサメたちと同じ」

「うむ、その通りじゃ。特別な素材、オーパーツを内包した神器こそが、原初の十二機が持つ特徴。詳細は不明じゃが、ハルパーにもオーパーツの力が備わっておる」


 オーパーツ……存在していたと言われる時代の技術では、到底作り得ない謎の物体。


 確か、ムラサメにはナントカ手稿の力が使えるって話だったはず。

 おそらくだけど、手稿も内蔵されたオーパーツなのだろう。


 で、その神器の力を使って次元を切り裂き、不審者は俺を殺しに来た、と。


 オーパーツはムラサメにも分からないようだし、戦い方や正体も不明な相手。

 神憑きという存在相手に、俺が太刀打ちできるかどうかも怪しいところだ。


 Xの実力を見たあとだから、『きっと杞憂だよね』なんて軽口は叩けそうにない。


「ちなみに戦後、オーパーツを搭載してない第二世代が、一部で生産されておる。とは言え、明らかに見劣る簡易的なものじゃ。基本的にS.E.I.F.U.が所有をし、治安の維持、魔獣や異獣(いじゅう)といった化け物の討伐などに使われておる」

「……ん? 魔獣は分かるけど、イジュウって何?」

「そうか。主様は魔獣についてしか聞かされておらなんだな。その辺りに関する話もしたいところなのじゃが、そろそろ沸き上がっておる時間だしのう」


 ムラサメはそう言うと、腰を屈めてカゴを持ち上げた。


「湧き上がる時間? 何かするつもりなの?」

「これじゃよ、これ」


 ムラサメは手に持つカゴを俺に手渡してきた。


「うーん? 今着ているのは寝巻きだから、これに着替えろってこと?」


 新品らしい衣類を見て聞き返す。

 だけど、ムラサメは眉間にしわを寄せた。話が伝わらないことで、ヤキモキしているように見える。


「素なのか主様? 天然という奴かのう。今の主様は正直、血生臭い香りを漂わせておる状態なのじゃ」

「え? ほ、本当に!?」


 俺は急いで手の甲の匂いを嗅ぐ。


 うっ……確かに、少し鉄臭いような気がする。

 まあ、あんなに血を流したのだから、ちゃんと洗わないと取れないよね……。


「という訳で、洗いに行こうぞ主様」

「洗いにってどこに? ま、まさか……!」

「決まっておろう。ゆ・あ・み・じゃ♪」




「あ、あの……ムラサメ。どうしてキミまで脱衣所の中に?」

「む? 居ってはいかんのか?」

「いかんのじゃ。というか、論理的に考えてマズいでしょ!」


 彼女に連れられてバスルームにやってきた俺だったが、ご覧の通り、脱衣所にまで同席されていた。

 正直、このままだと服を脱ぐことができない。


「裸を見られても減るものではあるまいて」

「気は滅入るから……というか、主の痴態は見ないんじゃなかったっけ?」

「勝手に見るのは、じゃよ。許可さえ貰えれば、好奇心も合わさり、穴が空くほど見ていたいものじゃ」


 おまわりさんこの人です。おりましたら、どうか助けてください。


 俺は助けに来ないであろう存在にすがった。


「まったく……見た目は幼い女の子なのに、中身はただの変態じゃないか」

「ふふ、冗談じゃよ冗談。此度(こたび)は、純粋に主様のお背中を流そうかと思うてのう。そのすがら、色々と話をさせて貰うつもりじゃ」


 そういえば、イジュウについても聞きそびれたままだった。その辺りについても知りたいところだ。


「って! なんでムラサメが脱ぎ始めるのさ!?」


 振り向くと、ムラサメが着物の帯を緩めているところだった。


「む? 今から背中を流すのじゃから、脱ぐに決まっておろう。このままの格好では入りたくないのじゃ。着物は濡れてしまうと、中々乾いてくれんからのう」


 言いながら帯を解き終えるムラサメ。

 帯が音を立てて床に落ちると、彼女の着物が少しだけはだける。そこから覗く白く綺麗な肌。


「わ、わあっ!? ちょ、ちょっと! そのまま脱がないでよっ! あーもう!」


 俺は急いで目元を隠して顔を逸らす。

 さすがに、こんな幼い少女の裸をマジマジと見る訳にはいかない。


「主様は甲斐性があるのかないのか、よう分からぬお方じゃのう。自分の所有物だと発言したのじゃから、裸を見た程度で狼狽(うろた)えんでおくれ……」

「あ、あれは言葉の綾というか、その場の雰囲気というか……!」


 そもそも、それとこれとでは話が違う。ムラサメには、もう少し自分のことを大事にしてもらいたい。

 いくら俺相手でも、そんな気軽に裸を見せてしまうようでは困る。


「まあ、主様が草食系な性格なのは分かっておったことじゃ。安心してくりゃれ。ちゃんと体に巻くタオルは用意しておる」


 ゴソゴソと動く音が聞こえてきたかと思うと、「もうよいぞ主様よ」というムラサメの声がした。


 俺は恐る恐るといった感じで、指の隙間からムラサメの姿を確認する。

 そこには、大きめなタオルで大事なところを隠した彼女が立っていた。


 それを見て、俺は一応の安堵感を得る。


「これでよかろう? まだ文句があるのなら言ってくりゃれ。すぐさま直そう」

「い、いや大丈夫。もう問題ないよ」

「うむ! では、わしは先に中へ入っておろう。このままだと、主様はいつまで経っても動けぬようじゃしな」


 ムラサメは悪戯な笑みを浮かべると、ドアを開けて風呂場へと入っていく。

 それを見送った俺は、自分の顔が熱いのを実感しつつ服を脱ぎ始めるのだった。




 泡立つスポンジの感触を背中に感じながら、俺は風呂場のイスに腰かけている。

 絶妙な力加減のおかけで結構気持ち良い。


「どうじゃ主様? 痛かったりはせぬか?」

「ん、大丈夫。ムラサメは背中を洗うのが上手だね」

「そ、そうかのうっ?」


 俺の言葉に気を良くしたのか、後ろにいるムラサメが鼻歌を歌い出した。

 聞いたことのない曲調だ。この時代の歌なのだろうか?


「っと、解説をする約束じゃったな。そうじゃのう、まずは獣について話すとするか」

「途中でやめた話のことだね?」

「うむ。異獣とは、異形なる獣と書く。戦時下で使われたバイオ兵器の影響により、動物が変化……いや、進化してしまった『なれ果て』のことじゃ」


 化学兵器のせいで変貌した動物……。

 なんとかレオは、呼び名通りライオンが進化した存在なのかな?


「では、魔獣とは何か? ファンタジー的な魔法を扱える獣……とは違う」

「そうなの? てっきり俺、そういう力を使えるのかと思っていたよ」

「それならば、対峙したタイラント・レオが使用しておったはずじゃろう?」

「あ……」


 言われてみれば確かに。あの魔獣は普通に接近戦を仕掛けてきた。

 むしろ、俺たちの方が魔法みたいな力を使っていたくらいだ。


 話が進む中、俺は体の洗っている場所を少しずつ変えていく。


「安直で拍子抜けするやもしれぬが、そこは許してくりゃれ。人間が勝手に名付けたものじゃ。……魔獣とは、人間が異獣を魔改造して作り出した生き物ぞ」

「ま、魔改造!? というか、魔獣ってそういう意味だったのか。って、なんで異獣にそんなことをする必要が……?」


 ただでさえ危険な相手なのに、そんな火に油を注ぐようなマネをする意味が分からない。


「よくある話じゃが、最初は解剖や解析を行うことが目的じゃった。戦争中にも関わらず、自国内にそんなものがうろついて居っては敵わんからのう。しかし解析する内に、兵器として使役し、運用出来るかもしれないという話になり……奴らの目的はシフトした」

「動物を戦争の道具に……。そうまでしなくてはいけないほど、日本は追い詰められていたの?」

「日本だけではない。その頃にはすでに、世界中が狂気に満ちておった」


 戦時中は平時のような判断ができないとは聞くけれど、本当にそうなってしまうのか。


「主様が言うように、日本という国は他国よりも追い詰められておった。しかしそれは、戦争が始まる前からの話」

「……始まる前から?」


 どういうことなのかと俺は振り返り、中空を見つめているムラサメに視線を向ける。

 それに気付いたムラサメが、どこか寂しげな顔で口を開く。


「日本が最初の敗戦国とも言える状況から始まったのが、十五年前に起きた第三次世界大戦。いわゆる終末戦争とも言う戦い。何故そう呼ばれたのか、に対する簡潔な説明をするのならば……」


 彼女は言い(よど)むように少しだけ間を空け、もう一度口を開いた。


「我ら十二体のAIが、最初に日本がされたことを人類へ仕返したからじゃ」

「仕返した? ムラマサが言っていた、人類に対する鉄槌を下したって話?」


 声を出さずに頷くムラサメ。


「日本がされたこと。それは、戦争のきっかけとなった愚かな一石。日本の主要都市である東京と京都の二ヶ所に……原爆が着弾した。この国は戦前の時点で、首都と王族の二つを早々に失っておったのじゃ」

「――なっ!? そん、な……ッ!」

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