5話 暇つぶしに畑を耕す
少し歩いて村の奥へ行く。
この村の周りは半分ほどが山で囲まれている。馬車数日ほど南に下ると大きな街があり、南西から北西にかけて白衣の森が広がっている。
山々はとても高く、未だ踏破したものはいないんだとか。「魔獣が棲んでいる」「ドラゴンが飛んでいるのを見た」などの噂話が絶えないらしい。
らしいというのは、どこぞの姉弟が言ってたことだからだ。
畑では若い男達が鍬を持ち畑を耕しており、小屋の前では老人達がなんらかの作業をしている。
メロナとリトは地面に置かれている種芋を次々と小屋に運んでいた。
そろそろ芋を植える季節になのだろうか。
・・・見てるのも暇だし、何か仕事があればやらせてもらおう。
「やあ、バルサム爺さん。何かやることある?」
若者に交じって耕している筋骨隆々の茶色くデカイ髭の長い爺さんに話かける。
「ん?おぉ、アルムか。今日は狩りの日じゃなかったんか?んん?その顔・・・さてはもうやり終えたんか?」
「うん、予定より早く終わったから温泉行く前に手伝いに来たんだよ」
「ほっほ!なんと!そうじゃなぁ、あそこ二列掘り起こしてくれんかの?」
「オッケー。じゃ、鍬借りるよ」
小屋に向かうと、種芋を運んでいたリトと目があった
「あれ?アルムもう帰ってきたんだ!早いね!」
「おう!運がよくてな!」
「へぇ~アルムはすごいなぁ!後で話きかせてね!」
「うん、いいぞ!」
今日何度目かになるやり取りを済ませ小屋に入る。
「よい、しょっと」
小屋の中には麻袋に芋を入れているメロナがいた。
夢中になっててこっちに気付いていないみたいだし・・・ふふふ・・・
ゆっくりと音を出さないように背後に近寄る。
狩り直前の集中力を発し、メロナに近寄った俺は・・・
「わっ!!!!」
「キャッッ!!!」
カワイイ悲鳴をあげ、直後に裏拳を放ってくる。
「うおっ!??」
ギリギリのところで身体をスウェーし回避する。
拳が鼻先かすった。
集中してなかったら奥歯が何本か吹っ飛んでいたかもしれない勢いだった。
「も、もう!アルムったら!馬鹿じゃないの!?馬鹿!」
「いや、悪いそんなにビビると思わなかった・・・」
「もう!」
じゃれ合いが終わると何度目かの話を再びし鍬を手に畑へ入る。
軽めに鍬を振り下ろすと、驚くほどすんなりと土に入っていく。
前世では一度も畑作業をしたことはないが、この世界に来てからの自我がない間の記憶があるおかげか、スムーズに耕すことができた。もっとも、土質が良い可能性もあるのだが。
狩りでの動きや畑作業、今日以前の俺は結構活発に色んなことをやっていたようだ。親父相手の剣を使った訓練、母さんの調理技術、村長に連れられて行った釣りや採集など、実に幅広く手を出している。
「ふぅ、こんなもんかな」
額の汗を拭い、自分が耕した列を見る。
少し歪ではあったが、それなりに良いのではないか、と満足感を得ることが出来た。
昔畑仕事したら一日で握力が死に、腰もやられました。
あと手にチマメもできました。