3話 初めての狩り
歩くこと1~2時間ほど、木々の隙間から光が差している。
約100mほど先の木漏れ日の下、光に首を伸ばすつがいの鹿を見つけた。
村でみた鹿よりでかくないか?気のせい?あと雄の角ゴツくない?
まぁいい、動かないというならチャンスだ。どちらか片方は仕留められるだろう。
俺は息を殺し弓を構える。狙いは手前側の雌の首。
この距離で頭を狙えば気付かれた時に目標がずれる可能性があるためだ。
自分でも集中力が高まっているのがわかる。木の葉の囁きや鳥達の鳴き声は聞こえない。
弓はギリギリと音が鳴り、その時を待っている。
鹿が首を伸ばしきる瞬間を狙う。
今だっ!
弓がバシュッと音を立て、矢が空気を切り裂いて飛んで行く。
鹿はその音に気付いたのかこちらを振り返るが、首には矢が突き刺さっていた。
「キャインッ」
悲鳴らしき声を上げ、雌の鹿は森の奥へよたよたと逃げていった。
後で回収だな・・・ッ!?
雄の鹿がとてつもないスピードでこちらへと迫ってくる。その動きは矢を警戒しているのかジグザグとしていた。
偏差撃ちの要領で狙うしかない・・かっ!!
二射目、狙い通りに頭へと吸い込まれるように飛んで行く。
しかし、当たる直前、鹿は頭を振り矢を角で弾き飛ばした。
ハッ!?嘘だろ!??
落ち着け俺!まだ距離はある、普通に撃ってもだめなら小細工だ!
動きさえ止められればまだチャンスはある!
俺は鞄から獣除けの虫が入った小袋を取り出し、鹿へと放り投げる。
距離約30m程、三射目、小袋を貫きそのまま鹿へ向かった。
軽く避けられてしまったが問題はない。
小袋に入っていた虫は身が粉砕されると同時に強烈な臭いを発する。その臭いは前世でいうカメムシをより強烈にしたようなものだ。
「キャイイイン」
鹿は臭いに悶えながら頭を振っていた。
ここでも臭いんだ、そんだけ近かったら酷いことになってるだろうな!
鹿までの距離約15mほど。
のたうってる間に、フック付きロープを頭上の高い位置にある枝に引っ掛け、そのままロープを引っ張り枝へと飛び乗る。
ガサッという音に少し遅れて、鹿が前を見るとそこには人の姿はなかった。不思議に思う暇もなく矢が射られる音がする。その方向を見上げると、すでに矢は目の前まで迫っていた。
ハハ、ハハハハ・・・!
体が軽い!思ったように動ける!少し人間離れしてる気がするけど!
前世の頃に空想した動きが今なら何でも出来る気がする!
引っ掛けていたフックを外し、地面へと飛び降りる。そして逃げたもう一匹の鹿を追うことにした。
矢が当たった位置から少し歩くと地面に倒れ絶命している鹿がいた。
「親父―、運ぶの手伝ってくれー!」
さすがに一人で2頭を担ぐのは厳しいものがあったので、近くにいると思われる親父を呼ぶ。
「おう!しかし、息子よ。いつからあんな軽業を身に着けていたのだ・・・」
きっとフックを使ったときだろう。いくらロープを使ったとはいえ、親父の4倍ほどの高さがある枝に飛び乗ったのだから驚くのも無理はない。
「イケると思ったからやってみたらイケたんだよね!」
「さすがだぞ!息子よ!・・・人外であっても俺はお前の味方だからな!!」
「いや人外はひどくない!?」
親父指導のもと放血・内臓取り出しを手早く行い、一人一頭ずつ鹿を担ぎ森の入り口へ向かう。
帰り道では、やたらと興奮しているアルム、息子の予想以上の実力に大満足する父ダン、その二人の笑い声が絶える様子はなかった。
某14ちゃんに復帰しちゃった・・・
ますます時間が・・・