2話 異世界の森
朝食と食べ終え、俺と親父は倉庫へ向かい森に入る準備をする。
「弓は俺と同じものを使え。いけるだろ?」
「うん、多分大丈夫だと思う。」
「ははっ、生意気言いやがって!」
父もわかってて言ったのだろう。
日頃から特訓をしており、親父にも付き合ってもらっている。
最初は子供用の弓だったが物足りなくなったので父の使っている弓を貸してもらっていたのだ。
ゴワゴワとしたシャツの上から革製のベストを着る。
腰の右側にはフック付きのロープを束ねたもの、左にはナイフと背中側に小さめの鞄、背中には矢筒と弓を装備した。
「よし、じゃあ行くか!」
「あなた、アルムを頼んだわよ。何かあったら・・・わかるわよね?」
「お、おう・・・任せろ!」
「宴の準備をして待ってるわね。いってらっしゃい!」
ゴゴゴゴという擬音が似合いそうな母が見送ってくれた。
宴というのは、初めて狩りに出た者がいると村全体でそれを祝うという習慣のことだ。
村は木で出来た塀があり、狩場に向かうにはまず村を出なければならない。
狩場に近づくにつれて心臓が高鳴っていくのがわかる。何度かこっそり森へ入ったことはあるが、それは遊びの延長でしかなかった。しかし、今回は自分の力で獲物を狩り、村の皆に認められなければならないのだ。気持ちが昂るのも仕方がない。
「あ、おはようアルム!お土産期待してるね!」
「アルムおはよう。もう森に入るんだね、すごいなぁ」
近所に住んでる2歳年上のメロナとその弟リトだ。
畑へ向かう途中だったのか、二人は農具を担いでいた。
「おはようメロナとリト。これから畑?」
「うん。本格的に暑くなる前にやれることはやっておこうと思ってねー。」
「あ、そうなんだ。んじゃ、そっちも頑張ってなー。」
「ありがと!またあとでね!」
二人は畑の方へ向かっていった。
「おう息子よ、メロナちゃんとはどうなんだ?」
ニヤニヤしながら父は頭を小突いてくる。
「どうもしてねーよ!あほか!」
「照れなくてもいいんだぞ、息子グホッ!?」
若干イラッとしたからボディーブローを決めてやった。今のは効いたぞ・・・と腹を抑えている父である。
村を出てしばらく歩くと右側に森への入り口が見えてくる。
その森は”白衣の森”と呼ばれていて、とても広大かつ鬱蒼としている森だ。名前の由来については諸説あるらしい。光を纏った天使のようなものが森に降り立っただとか、年に一回霧が森を覆いつくすだとか。
そして、森の調査・開拓をしていた人々を中心にレスト村が出来上がったようだ。その広大さゆえ他にも同じような村がいくつかあるらしい。
「よし、準備はいいか?ここから俺は何もしてやらん。自分の力でこなせ。危なくなったら助けてやるが頼りにはするなよ?」
普段とは違う真剣な表情だ。
一瞬かっこよく見えたのは内緒である。
「うん。わかってるよ。まぁ見ててよ、さくっとやって見せるから。」
匂い消しの実が入った麻袋を潰し体に擦り付ける。
「ハッハッハ!さすが我が息子!おう、見ててやらぁ!」
さっきまでの表情はなんだったのか、いつもの豪快な父の顔に戻っていた。
「すぅ・・・はぁ・・・」
深呼吸をすると濃厚な森の香りを感じる。
切り替えろ、ここから先は命が掛かってるんだ。
前世とは違う、大怪我を負うことが珍しくない世界なんだ。
「おいおい緊張しすぎだ。もうちょっと気を抜け」
「うっせ、わかってるよ」
「親に向かってその口は・・・ふぅ、あとで覚えとけ」
ありがとう親父。
少し気を張りすぎていたようだ。
適度な緊張感を維持しながら森の中へと入っていく。
ん?これは糞か?
まだ新しい・・・この足跡は、鹿だな。こいつを追ってみよう
ストックなくなってきて一人焦る